ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命
映画『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Zookeeper's Wife 
製作国:チェコ・イギリス・アメリカ 
製作年:2017年 
日本公開日:2017年12月15日 
監督:ニキ・カーロ 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

あらすじ

1939年の秋、ドイツのポーランド侵攻により第2次世界大戦が勃発した。ワルシャワでヨーロッパ最大規模を誇る動物園を営んでいたヤンとアントニーナ夫妻は、ユダヤ人強制居住区域に忍び込み、彼らを次々と救出。ユダヤ人たちを人目のつかない動物園の檻に匿うという驚くべき策を実行する。

ネタバレなし感想

戦時中、命を救った動物園

太平洋戦争中、日本の動物園では、敵の空襲で施設が破壊された際に飼育動物が逃げ出せば危険だと判断されたため、あらかじめ飼育動物たちが殺されていました。いわゆる「戦時猛獣処分」です。これは日本のみならず、イギリスなどでも実行されたようで、戦争が動物園を危険な場所という認識に変えてしまった悲しい歴史です。

ところが戦争中に逆に動物園が命を救ったという特殊な事例が存在しました。しかも、それは動物の命ではなく、人間の命です。

その歴史上の出来事を描いたのが本作『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』

内容はタイトルとあらすじのとおりであり、他に言うこともないのですが、まあ、簡単に言ってしまえば『シンドラーのリスト』と同じですね。

ただ、本作は他のホロコースト作品と違って「女性」がフィーチャーされている点が特徴と言えます。本作の主人公は第二次世界大戦中のワルシャワ動物園で飼育員として勤務していたジャビンスキ夫妻なのですが、メインとなる主役はタイトルにあるように妻のアントニーナとなっています。

これは企画の時点から意図されたもので、アントニーナを演じた“ジェシカ・チャステイン”が製作にも積極的に関与していることからもうかがえます。主演作『女神の見えざる手』でも素晴らしい熱演でしたが、今作は母性的な役柄。
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また、監督は『クジラの島の少女』や『スタンドアップ』で評価され、今後はディズニーの実写映画版『ムーラン』の監督にも抜擢されている“ニキ・カーロ”です。女性を中心にしたドラマを手がけてきた“ニキ・カーロ”であれば、まさに適材適所といった感じ。

完全に本作も、昨今に目立っている“女性主導の映画企画”ですね。

ホロコースト映画には珍しく、直接的な残酷なシーンが少なめで、文科省選定・年少者映画審議会推薦になるのも頷ける作り。わかりにくい歴史的背景などについて大人がサポートしてあげれば、じゅうぶん子どもでも鑑賞できる作品です。初めてのホロコースト映画としておすすめできます。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

ルッツ・ヘックとの違い

ワルシャワ動物園を経営していたジャビンスキ夫妻。その中でもアントニーナの動物を愛する姿勢は純粋で、気道の詰まった子ゾウを救助する姿にお金持ちさんたちも称賛。ちなみに、当時、動物園はブルジョワジーの社交の場であったそうなので、だからあんな人たちがいたのだと思います。そのへんの背景を知らないと、この冒頭の子ゾウ救助シーンがかなりわざとらしく見えますよね。

そんな動物との暮らしも戦争で一変。1939年の秋、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻してきたことで第2次世界大戦が勃発。投下される爆弾は、アントニーナと夫ヤンが運営するワルシャワ動物園にも容赦なく降り注ぎ、敷地は地獄絵図。このシーンは非常に迫力があって個人的にお気に入り。本作は動物をCGで表現しておらず、本物が登場しており、ゆえにかなりの臨場感。ライオンなどさまざまな動物が闊歩する街の風景とか、ちょっと『ロブスター』を思い出しました。
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貴重な動物はドイツ軍に没収され、冬を生きられないと判断された動物たちはその場で射殺。

この時、動物園の実効支配を任せられて派遣されてきたのがヒトラー直属の動物学者「ルッツ・ヘック」です。これまでいろんなナチス映画がありましたけど、ルッツ・ヘックが映画化されたのは珍しいですよね(初めてかな?)。一応、説明しておくとルッツ・ヘックは「絶滅した生物の復元」に執念していた人物です。といってもこの時代はDNAからの復元とか、そんな技術もなく、彼は交配によってそれが実現できると信じていました。実際、絶滅動物のオーロックスを復活させようとし、結果、“ヘックキャトル”と呼ばれる牛を作り出します(アントニーナが劇中で最後、森に逃がす牛です)。ルッツ・ヘックだけでなく、ナチスは“自分たちの理想とする自然”を復元できるという考えがあって、大掛かりな自然復元を行っています。そのへんのエピソードは「Hitler's Jurassic Monsters」というTVドキュメンタリーが詳しいので、ぜひ機会があったら見てください。

本作は、このルッツ・ヘック的な命の接し方(科学的好奇心や欲求による支配的な愛)と、アントニーナ的な命の接し方(純粋な感情による母性的な愛)が対比になっているのが肝です。

ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命

檻の役割は束縛か、保護か

その2者の命への接し方がはっきり分かれるのが言うまでもなく「ユダヤ人」です。

本作はナチスによるユダヤ人への極悪非道の行為はそこまで直接描写されません。低年齢層への配慮なのか、それとも承知の事実なので描く必要もないと判断したのか。でも、無邪気な子どもたちが収容所行きの列車に乗せられるシーンとか、さりげなく突き刺さる場面が印象的でした。

ジャビンスキ夫妻は「養豚場」と偽って、迫害されるユダヤ人を動物園に匿って保護します。

ここでユダヤ人が潜むことになる場所が「檻」というのもメタファーに富んでいます。檻は相手を束縛することにも使えます。劇中でもゲットー(ユダヤ人隔離地域)という檻があり、また終盤にヘックがアントニーナを檻に閉じ込めます。でも、檻は保護する役割も担える。そして、アントニーナは檻でユダヤ人を守る。この2つの檻の違い…。これぞまさに動物園のあるべき姿です。ジャビンスキ夫妻は動物を戦争で失っても、動物園的精神は失っていないのでした。

こんな感じで題材はもちろん素晴らしいし、描き方も対比構造が深みとなって単調になってはいないのですが、なんとなく物足りないものも感じたのですよね…。個人的にはもうちょっと脚色があってもよかった気がする…。ジャビンスキ夫妻の息子の活躍はもう少し工夫が欲しかったかな…。

まあ、でも初めてのホロコースト映画としておすすめできる一作が誕生したので、これはこれで良し。私としてはルッツ・ヘックが凶暴化したライオンやゾウに蹂躙される映像が見たかった…(違う映画になる)。

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