夜に生きる
映画『夜に生きる』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Live by Night 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本公開日:2017年5月20日 
監督:ベン・アフレック 

【個人的評価】
 星 5/10 ★★★★★

あらすじ

禁酒法時代のボストンで厳格な家庭に育ったジョーは、警官幹部である父に反発し、ギャングの世界に足を踏み入れていた。ある日、強盗に入った賭博場でジョーはエマと出会い、やがて2人は恋に落ちる。しかし、エマは対立組織のボスの娼婦であり、ジョーの運命は大きく狂わされていく。

原点に戻ったベン・アフレック

「ポスト・“クリント・イーストウッド”」という呼び声とともに順調に階段を駆け上がっていた“ベン・アフレック”でしたが、巨匠への道はそう簡単ではないようで。

2016年は間違いなく“ベン・アフレック”の苦難の年でした。それもこれも「アメコミ」という賑やかで騒がしい世界に足を踏み入れてしまったがゆえ。とにかく注目度が高く、うるさ型のファンがうじゃうじゃしているアメコミワールドは、これまで自分のペースで着実に映画を撮ってきた“ベン・アフレック”にとって困惑だらけだったのではないでしょうか。“クリント・イーストウッド”はアメコミには手を出していませんから、“ベン・アフレック”はいわゆる昔ながらの巨匠とは違う誰も通ったことがない道を開拓せざるを得ないでしょうね。もう「ポスト・“クリント・イーストウッド”」じゃないのです。

そんな“ベン・アフレック”の2012年の『アルゴ』以来の久しぶりの監督・主演作となった本作『夜に生きる』

本作の原作はアメリカの作家“デニス・ルヘイン”の小説です。

デニス・ルヘインといえば、彼の小説のいくつかはこれまでも映画化されてきました。クリント・イーストウッド監督の『ミスティック・リバー』、マーティン・スコセッシ監督の『シャッター アイランド』…いずれも大物巨匠監督ばかりです。そして、ベン・アフレックの監督デビュー作である『ゴーン・ベイビー・ゴーン』もまたデニス・ルヘインの1998年の著作「愛しき者はすべて去りゆく」を映画化したものでした。

加えて、この映画の舞台はボストン。“ベン・アフレック”十八番の「クライムサスペンス in ボストン」です。

つまり、原点に帰ったことになります。

直近の主演作ザ・コンサルタントでの強烈なキャラクターと比べると、今回の“ベン・アフレック”は物足りないかもしれないですが、原点に立ち返ったこの姿こそ本来の“ベン・アフレック”なのです。






↓ここからネタバレが含まれます↓





タランティーノからの潜入者

まず“ベン・アフレック”以外の部分から言及していきましょう。

なにより本作を最初に観て思うのは映像の美しさ。禁酒法時代のボストンの街並みや人々の生活を丁寧に再現しているだけでなく、例えば、ギャング映画には絶対に出てくる人が殺されるシーンさえも、本作は美しいです。殺害シーン集だけまとめて観たいくらい。

また、舞台転換のたびに空撮のように上空から舞台を見せるシーンが何度も挟まれ、世界観の広がりを常に感じさせます。主人公・ジョーの小ささというか、ギャングの世界で必死に暗躍して生き抜く彼も、大いなる“世界”、またの名を“時代”の一部に過ぎない感じが強調されて良い効果をもたらしていると思います。

なんでこんなに映像が美しいのだろうと思ったら、本作の撮影はヘイトフル・エイトなどクエンティン・タランティーノ作品を多く手掛けてきた“ロバート・リチャードソン”でした。どうりで…。本作の魅力はこの“ロバート・リチャードソン”の功績が非常に大きい気がします。

役者陣も皆素晴らしいです。ギャング映画は男ばかりですが、その中の華である女性たちもきっちり忘れず輝いてました。ネオン・デーモン“エル・ファニング”ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス“ゾーイ・サルダナ”は時代の美しさを映し、エマを演じた“シエナ・ミラー”は時代の汚れを映す…良い対比でした。

夜に生きる

映画に生きる

それで肝心の“ベン・アフレック”部分ですが、いつもの彼らしい映画だとは思いましたよ。受動的な物語展開とか、突然の緊迫シーンとか、過去作のとおりといった感じ。しかも、今回は撮影が良いですから、カッコよく見える。それだけで最高です。

一方で、過去の監督作と比べて、一貫したわかりやすいサスペンスがなく、全体的に冗長にも思えるのが残念。スケールが大きすぎたのだろうか。もう少し短くまとめてほしかったところ。良く出来た映画だけど、それどまりな印象が否めません。

ただ、ラストは映画シーンを入れてくるあたり、「ああ、やっぱりこの男は映画が好きなんだなぁ」としみじみ

現実の話、成功してみせた“ケイシー・アフレック”を見て勇気づけられただろうし、本作も“レオナルド・ディカプリオ”が映画化を働きかけたそうですし。“ベン・アフレック”はどんなに挫けそうになっても映画の世界の友人や家族が助けてくれるんですね。本作のあのラストはまさにそれが反映されたかたち。“ベン・アフレック”は「映画に生きる」のです。

本作の世間的な評価はどうであれ、自分の映画道の開拓に向き合う“ベン・アフレック”にとって本作は必要な作品だったのではないでしょうか。

(C) 2016 Warner Bros. All Rights Reserved.