ワンダーウーマン
映画『ワンダーウーマン』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Wonder Woman 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本公開日:2017年8月25日 
監督:パティ・ジェンキンス 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★

あらすじ

女しかいない島で、プリンセスとして母親に大切に育てられてきたダイアナ。一族最強の者しか持てないと言われる剣に憧れ、強くなるための修行に励む。そんなある日、島に不時着したパイロットのスティーブとの出会いで、初めて男という存在を目にしたダイアナの運命は一転。世界を救うため、スティーブとともに島を出てロンドンへと旅立つ。

ネタバレなし感想

DC映画を救ったヒーロー

バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生スーサイド・スクワッド…いずれも興行的には大成功をおさめるも批評的は惨敗していた「DCエクステンデッド・ユニバース」。この闇落ちしつつあった巨大映画プロジェクトに光明をもたらしたのは、史上最強の女性ヒーロー「ワンダーウーマン」でした。

ワンダーウーマンの単独主演映画である本作『ワンダーウーマン』がアメリカで公開されると、大ヒットするのはアメコミですから当然として、批評家からも高評価が相次ぐ事態に。前2作の不評を爽快に吹き飛ばしてくれました。もうこうなってくると、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』で唯一?の褒められていたテンション上がる場面が、ワンダーウーマンの登場シーンだったのも、未来を暗示していたのかもしれないと思うほど。これからはワンダーウーマンはDC映画に復活をもたらす幸運の女神として語りつがれるのだろうな…。

思えば女性主人公のアメコミ映画というくくりで見ても、ろくな作品がなかったですから…。『キャットウーマン』(2004年)、『エレクトラ』(2005年)など、完全に黒歴史化しています。

ほんとワンダーウーマンさまさまです。

これだけにとどまらず、本作はDC映画の救世主になったほかにも、映画界に偉業を残しているのが凄い。

一番大きいのは本作の監督を手がけた“パティ・ジェンキンス”が、興行的に特大成功をおさめた初の女性監督になったことでしょう。トランプ大統領に反対するパフォーマンスを見せてはいますが、なんだかんだでまだまだ男性中心なアメリカの映画業界。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』でも脚本の人は女性でしたし、ハリウッドを牽引するアメコミ映画でも女性の活躍が少しずつ増え始めているのは良いことではないでしょうか。もちろん、女性だったら何でも良しというわけではなく、面白い作品でなければいけないのが大前提ですけどね。

女性というジェンダー的側面がどうしても強調されがちな作品ですが、もうひとつ忘れてはいけないのは、本作の主人公である主演女優の“ガル・ガドット”がイスラエル出身だということ。アメリカとイスラエルは強いつながりを長年抱えてきましたが、それでも海外出身俳優には厳しいハリウッド。“ガル・ガドット”も過去に女優業の引退を考えるくらいだったと言いますし…。今回、成功して本当に良かったです。まあ、レバノンやチュニジアでは本作の公開が中止になるなど、国家対立は相変わらず映画に暗い影を落としているのですが…。

とにかくいろんなものをぶっ飛ばしてくれたワンダーウーマン。とりあえずスカッとしたいだけの人でも全くOK。初登場作『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』で私たちの耳を盛り上げてくれた、あのワンダーウーマン登場BGMとともに彼女が戦う姿は爽快。嫌なことは全部、本作を観て粉砕しましょう。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

DC映画の欠点克服!

評価が散々だった『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』と『スーサイド・スクワッド』のDC映画の前2作…それらと高評価を獲得した本作の違いは何だったのか。

まず、ユニバース部分。「DCエクステンデッド・ユニバース」のようなユニバース企画は確かに壮大で楽しいですけど、関係作品の横軸を示すためのシーンなどが頻繁に挟まれると一作に集中できない欠点も…。DC映画の前2作は正直、その部分で気が散って仕方がありませんでした。本作を観て何よりホッとしたのは、ユニバース要素が薄かったこと。ユニバースを匂わせるのは、基本、冒頭とラストの現代パートだけですし、余計なキャラの出しゃばりもなし。またフラッシュがでてきたらどうしようかと思いましたよ…。

そして、もうひとつのDC映画の前2作の残念ポイントだった「コミカルな楽しさ不足」も、本作はカバーされてました。とくに前半は愉快です。最初のパートは、アマゾン族が住む秘境の島セミッシラに「外の世界」からスティーブ・トレバーが乗る飛行機が墜落して迷い込んでくる。次のパートは、ロンドンに「外の世界」からダイアナがトレバーに付いてやってくる。立場が逆転しながらも、トレバーもダイアナも自分の知らない不思議な世界に、目をキラキラ、心をドキドキさせて、好奇心たっぷり。トレバーに“クリス・パイン”を起用したのが良かったですね。純朴そうな風貌ですし。ちなみに、船で「性の悦び」について会話する場面はアドリブが入っているみたいです。

この前半は、トレバーがダイアナに救出されて浜辺で目を覚ますシーンが『リトルマーメイド』のそっくりそのままオマージュだったりと、パロディも満載。ダイアナがなかなか回転ドアに入れないシーンは、1978年の『スーパーマン』でスーパーマンが回転ドアで変身する場面と対比させると一層笑えます。

これら異世界ギャップ・ギャグは、マーベル映画の『マイティ・ソー』シリーズでも見られたやつですが、本作の場合はジェンダー要素も合わさっているので現代によりマッチしたものなのが良かったです。

ワンダーウーマン

プロパガンダを脱却したヒーロー

本作はワンダーウーマン誕生譚としてこれ以上ない優等生的完成度だったと思います。原作は1941年の作品ですから、どうしたって古臭さを隠せませんが、上手くリニューアルできていたのじゃないでしょうか。

舞台が第1次世界大戦なので、観る前は『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』と同じ感じなのかなと思っていましたが、どちらかといえばスパイダーマン ホームカミングに近い要素が目立ちました。もちろんルックは全然違うのですが、無邪気な正義が現実の厳しい世界を知って地に足付いた正義を身に着けるというのが、両作の共通点。

ダイアナは神話的な正義や悪の存在を信じ、悪さえ倒せば平和が訪れると単純に考えていました。でも、それは違うんだと知っていく…これは本作の本質的弱点をカバーする上手いストーリーだと思います。

本作の本質的弱点…それは、本作は普通に描くとイギリスがドイツを倒すプロパガンダ的な印象を与えかねないということ

実際に似たような舞台を描いた『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』はプロパガンダっぽさがぬぐいきれていませんでした。事実、キャプテン・アメリカのような戦時中から刊行されていたアメコミヒーローはプロパガンダに利用されてきた歴史もあります。2000年代マーベル映画のキャプテン・アメリカは2作目以降、プロパガンダを脱ぎ去り、国家対立を超えたヒーローに成長していくのですが…。

しかし、今回のワンダーウーマンはその点について最初から製作陣で議論を重ねたのでしょう。そのような政治的意図がないことは明白なキャラに仕上がっており、それは彼女のデザインからもわかります。原作のワンダーウーマンは星条旗デザインのファッションをしていましたが、本作にはその要素はなしですから。そして、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』で描かれた現代のワンダーウーマンの活躍を見ても、特定の国家のために活動する意思がないのは一目瞭然です。

そんな現代の姿では完成しきったヒーローに思えたワンダーウーマンにも、こんな青臭い過去と成長の物語があったわけです。こんな昔から人の心に善悪の揺らぎがあることを知った彼女は、スーパーマンやバットマンよりもヒーロー的に一歩先を行っているのも当然ですね

まさにプロパガンダ的な善悪論から脱却したヒーローですし、この姿はステレオタイプからの脱却とも重なり、ワンダーウーマンらしさにつながっています。

ただ、苦言を呈すなら、「悪者を倒すだけではダメなんだ」というメッセージ性はわかりますし、正論ですけど、本作で敵となるルーデンドルフは実在の人物なんですよ。史実ではこの後(当然生きている)ルーデンドルフはヒトラーとつながりを持ち、ナチス誕生に大きな影響を与えるわけで…。悪者を倒しても何も変わらないっていう精神論的お話と、歴史が変わってしまう話は議論を別にしないとおかしなことになる気がする…。これじゃあ『イングロリアス・バスターズ』ですよ。このDC世界はどういう歴史を辿っているのでしょうかね?

ともあれ、ワンダーウーマンがいろいろな壁をぶっ飛ばしてくれた功績は大きいです。彼女の後に、男女問わず、ステレオタイプを気にしないさまざまなヒーローが続いてくれると嬉しいですね。

(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC