ウィーナー
映画『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Weiner 
製作国:アメリカ 
製作年:2016年 
日本公開日:2017年2月18日 
監督: ジョシュ・クリーグマン、エリース・スタインバーク

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★
 

あらすじ

2011年、高い支持を集めていた連邦下院議員アンソニー・ウィーナーは、自身の下半身を写した性的な写真を誤ってツイッターに投稿したことが引き金で議員を辞職するハメになった。それから2年後、ウィーナーは再起をかけてニューヨーク市長選に立候補するために舞い戻ってくる。

汚名返上?劇場

性的なテキストメッセージや写真をスマホのメールやSNSで送る行為は「セクスティング(sexting)」と呼ばれています。アメリカでの調査によれば、セクスティングの経験がある10~20代の若者は、割合で最大60%近いという結果も…。

このセクスティング、若い人の問題と見なされがちですが、そんなことは全くなく、どこにでもいる“おっさん”から有名セレブまで実に多様な人が手を染めていることも、“うっかり流出”で明らかになってます。

そして、本作『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』というドキュメンタリーで題材となっている人物“アンソニー・ウィーナー”もまた、セクスティングにハマってしまった人間のひとり。

歯に衣着せぬ豪快な発言で人気絶好調だった連邦下院議員のウィーナーは、自らの“ブリーフもっこり写真”によって突然の奈落の底へ身投げしてしまいます。そんなウィーナーが「私にセカンドチャンスを!」と2013年のニューヨーク市長選に立候補するところから映画は始まります。

本作はさまざまな国際的映画賞で受賞もしくはノミネートを果たしており、高評価です。

その理由は、ひとりの政治家のドタバタ喜劇としての面白さもさることながら、アメリカの選挙のエンターテイメント性という特徴を切り取った選挙批評映画としても、関係性の危機に直面した夫婦の観察映画としても興味深い、多様な切り口が魅力なんだと思います。

“アンソニー・ウィーナー”なんて知らない…そういう人でも全く問題ありません。むしろ事前知識がないほうが楽しいかも。公式サイトにオチを含む映画後の顛末まで記述してありますが、そういうのを一切見ずに、ウィーナーの汚名返上?劇場をお楽しみください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





映画のその後

いきなりオチ。

本作は、2013年のニューヨーク市長選で、2度目のセックス・スキャンダルによってウィーナーが大敗して終わります。ところが、実はこの後にさらなる情けない顛末が続いていきます。それを知っておくことで、本作の興味深さが何倍にも深まるのです。

2016年5月に本作がアメリカで劇場公開されたその3か月後、ウィーナーの新たなセクスティングが報道されてしまいます。しかも、その後、15歳少女との性的関係も疑惑に上がり、FBIによって児童ポルノの容疑で調査されることに…。このウィーナー事件に関係して、FBIが妻・フーマの約65万通のメールを捜査していたなかで、大統領選候補だったヒラリー・クリントンが私的な電子メールアカウントを公務で使っていたことが発覚。ご存じのとおりヒラリー・クリントンは大統領選で負けて、ドナルド・トランプが大統領になりました。

つまり、ウィーナーのスキャンダルによって、さらにスキャンダラスな男であるドナルド・トランプがアメリカ政治の頂点に立つという、これ以上ない皮肉な着地。ちなみに、ウィーナーのセックス・スキャンダルをバラして一躍ポルノスターになったシドニーという女性は、その後のトランプ勝利について「なんか私のせいでごめんなさい」と謝ってました(この女の自意識過剰な感じもイタかったですね)。

映画に映るアメリカ選挙の恥ずかしい醜態

ここまでを踏まえて思うのはやはり「アメリカの政治、軽すぎだろ…」という気持ち。

アメリカの選挙はエンターテイメント…とはよく言いますが、本当にそれがよくわかる。ニューヨーク市長選の序盤のウィーナーの盛り上がりっぷりも軽い軽い。LGBTQ万歳!イスラエル万歳!エクアドル万歳!コロンビア万歳!で世論支持率トップです。いや、もちろん、他にも政治的議論が多少はあったのでしょうけど…。人柄が大事なのはわかるけど、こう、もっと客観的な指標はないんですか。

そして、その後の没落。選挙スタッフの何とも言えない表情が虚しかった…。汚名返上どころか汚名製造マシーンなんだもん、セカンドチャンスという言葉が虚しく残る…。世間でよく聞く不祥事を起こした政治家の関係スタッフはいつもこんな感じになるんだろうな…。

妻・フーマとの関係性も、どんなフィクション夫婦映画よりも見ごたえありました。ちなみに、フーマは映画公開後、ウィーナーと離婚したっぽいですね。

ウィーナー

人の信頼って、手のひら返しのように簡単に動いたり、または石のようになかなか動かなかったり…。厄介なもんです。

しかし、このエンターテイメント性こそ、この映画の、そして政治の面白さの肝です。面白いのは、本作を観ての感想が人によって全然違うこと。公式サイトのレビューコメントを見るとそれがよくわかります。ウィーナーを支持する人から、批判する人、メディアに文句を言う人、俯瞰して楽しむ人、実にさまざま。だから、選挙とエンターテイメントは切っても切れない関係なのでしょう。

本作の映画的批評をするなら、まずウィーナーという男をドキュメンタリー対象にした時点で“勝ち”です。2度目のセックス・スキャンダルのとき、映画関係者は「しめた!」と思ったんじゃないでしょうか。でも、本作はウィーナーを笑いものにするようなドキュメンタリーではなかったです。むしろ、ウィーナーと周囲の人、そして、選挙そのものの素直な実情を切り取った映画でした。ラストのウィーナーに出会って大興奮している子どもで映画が終わるのがなんともいいですね。

アメリカの選挙の醜態を公にしているという意味では、この映画自体がセクスティングと同じようなものともいえます。まあ、当人が後悔しているかどうかは不明ですが…。

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