不安と共に生きる_慢性疲労症候群
Netflixドキュメンタリー『不安と共に生きる/Unrest』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Unrest  
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信 
監督:ジェニファー・ブレア 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★

あらすじ

世界を旅して、勉学に励み、最愛の人とも出会って順風満帆な人生を謳歌していた若い女性。しかし、彼女はある日、突然、倒れて体が思うように動かなくなる。謎の症状に混乱しながらも、医者を渡り歩いて判明した病名は「慢性疲労症候群」だった。この病に苦しむ女性が、自らの姿にカメラを向け、重篤ながら"怠け"と誤解されがちな疾患の理解を呼びかけるドキュメンタリー。 

ネタバレなし感想

慢性疲労症候群を知ってほしい

今回、紹介するドキュメンタリーは、米アカデミー賞のノミネート候補リストにも掲載され、いくつかの映画祭で賞を獲っているほど評価も高い作品です。

Netflixで配信されている邦題は『不安と共に生きる』。原題は『Unrest』です。

タイトルからは何のドキュメンタリーなのかは伝わりづらいですが、この作品が題材にしているのは「慢性疲労症候群」という病気です。

正直に言うと私は「慢性疲労症候群」という病気をこの作品を観る前までは意識したことはありませんでした。いや、どこかで耳にしていたのかもしれませんが、きっとその言葉をスルーしていたのでしょう。

まず「慢性疲労症候群」と聞いたら、おそらく知識のない人は誰でも「疲労がたまって疲れがとれない状態のことかな?」と思いますよね。そこが問題なのです。いわゆる「慢性疲労」という一般用語と混同されがちですが、実際は全くの別物。この病名問題は、患者団体が病名を変えてほしいと訴えているほどなのですが、あまり良い方向に進んでいません。英語では「Chronic Fatigue Syndrome(略称::CFS)」と呼ばれ、「筋痛性脳脊髄炎(Myalgic Encephalomyelitis、ME)」と言い換える動きもあります。他にもこの病気にはさまざまな問題点を抱えています。

では慢性疲労症候群とは実際どんな病気なのか。それを伝えるために作られたのが本作です。

制作者は実際の患者の女性であり、ゆえに非常にメッセージ性が強く訴えかけるものがあります。『ストロング・アイランド』のときも感想に描きましたが、最近は当事者がドキュメンタリーを作って全世界配信できる時代になったんだなとここでも実感です。
『ストロング・アイランド』感想(ネタバレ)…不愉快だと思う人は見なくても結構です
もしかしたら慢性疲労症候群について調べていたらこのブログのページにたどり着いた人もいるかもしれません。Googleのサジェスト検索を見ると「慢性疲労症候群」という言葉と合わせて「診断 病院」「改善」「検査」「何科」「治し方」という言葉が並んでいることからもわかるように情報を欲している人はたくさんいます。もしあなたが慢性疲労症候群について不安を抱えているのであれば、ぜひこのドキュメンタリーを観ることを強くおすすめします。ネット上のわけのわからない情報源を信じるより断然マシです。そして、この病気をよく知らなかった私のような人はぜひ本作を観て偏見や誤解を無くしてほしいです。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

“怠け”からほど遠い実態

本作の原題『Unrest』ですが、「unrest」は「不安、心配、動揺」という意味です。でも本作を観ればこれは別の意味、つまり「休憩(rest)じゃない」というストレートなダブルミーニング的狙いがあることがわかります。

ほんとに休憩なんかじゃないです。階段を這って休み休み登る姿、床に寝そべり動けない姿、ベットから起き上がり床に足をつけただけで感動している姿…どれも日常では絶対にあり得ない光景で見ているこっちまで不安になります。作中で言っていましたがまさに「誰かが電気のスイッチを消したかのように」体が機能しなくなるんですね。個人的にはエラーとかオーバヒートで機能停止したロボットみたいだなと思ったりもしましたが。いわゆる寝たきりとも違う(個人差もありますが)、予測不可能な身体的ダウンに襲われる患者たち。

ネットなんかで調べると「外から見ると怠けているだけにみえる」と説明されてますが、全然違いますよ。こんな“怠け”からほど遠いものはないです。

しかも、これをさらに恐ろしいものにしているのは医者でさえこの病気をよく理解しておらず、ときに偏見や誤解に基づき対応しているという点です。「医者も皆と同じでGoogleで検索するしかない」という、笑っていいのかどうか困る皮肉交じりの言葉も飛び出していました。

ゾッとするのはデンマークのカリーナの事例です。精神疾患として判断されるため同意なしで医師の指示で強制的に隔離されてしまうという信じられない事態が紹介されていました。個人的にはデンマークは先進国としてのプラスのイメージがあったせいもあり、ショックでした。

原因もわからないというのも恐怖で、ストレスだ、過去のトラウマだ、となんやかんやテキトーなことを言われ、きっとそれ自体がストレスでしかないだろうに、なんとか救いを求める患者たち。そこで治療方法を探す姿が、本作で唯一ユーモラスに示されていました。謎の緑の飲み物、雷、タップダンス、鉤虫ホイップクリーム、カビの除去…ジェニファー・ブレアの夫が「クレイジーな科学実験みたいだ」と言うとおり、手あたり次第でネットにあった真偽不明の情報を試していきます。まあ、藁にもすがる気持ちは無理もないですよね。

不安と共に生きる

動かない体の最大の武器

5年以上続くと完全な回復は見込めませんという現実で、厳しい闘病生活のなか、それでも前に進もうとするジェニファー・ブレアを始めとする患者たち。

その救いとなっていたのがインターネットのつながり。体を動かせず、外に出れない患者たちにとってインターネットは最大の武器でした。SkypeとFacebookを駆使して仲間を集めて、情報を交換し、辛さを共有して、普及啓発のための活動につなげていく。

こういうのを見ると、ネット社会も捨てたもんじゃないと思いますよね。世の中には「ネット上の友人は真の友情ではない」なんてことを憚らず言う人がいますが、人と人のつながりに優劣なんてつけるものではないです。どんなつながり方が良いのかなんて、その人の置かれている状況や能力によって変わってくるのですから。逆にネット社会ではなかった時代の患者はとてつもない孤立だったのだろうなぁ…。

「私たちを見せることでしか変われない」と言って、自身の願いを書いた紙をくくりつけた靴がズラッと並ぶ光景。これは慢性疲労症候群の実態を世界に知らしめるだけではない、もっと多くを変えうるパワーを感じました。

ちなみに日本の「NPO法人 筋痛性脳脊髄炎の会」でも慢性疲労症候群の理解を広めるためにドキュメンタリー作品『この手に希望を~ME/CFSの真実』を製作しています。


この活動自体はとても素晴らしいのですが、『不安と共に生きる/Unrest』と比較すると、日本は慢性疲労症候群の理解が遅れているだけでなく、その普及啓発の手段も遅れているなと実感してしまいます。『不安と共に生きる/Unrest』はNetflixによって世界発信ですが、日本の方は地域レベルでの上映会ですから。せめて日本の大手VOD(動画配信サービス)がこういう創作運動の支援にも関心をもってバックアップしてほしいと願うばかりです。

©Netflix