ネオン・デーモン
映画『ネオン・デーモン』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Neon Demon 
製作国:フランス・アメリカ・デンマーク 
製作年:2016年 
日本公開日:2017年1月13日 
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★
 

あらすじ

トップモデルを夢見てロサンゼルスにやってきた16歳のジェシー。人を惹きつける天性の魅力を持つ彼女は、すぐに一流デザイナーや有名カメラマンの目に留まり、順調なキャリアを歩みはじめる。そして、ライバルたちの凝縮された嫉妬心と、ジェシーの目覚める異常な野心は、やがてある結末を迎える。

賛否両論、でも気にしない

ニコラス・ウィンディング・レフン監督といえば、理想への追求をひたすら貫く人間…そんな印象です。

2011年に製作された監督作『ドライヴ』が独自の映像センスと演出でコアな映画ファンを魅了し、カンヌ国際映画祭で監督賞も受賞。これだけ高い評価を得れば、このままのスタイルを維持すればいいと普通は考えそうなものですが、そうはしないのがレフン監督。『ドライヴ』から自分のセンスを極端に研ぎ澄まして2013年に製作された『オンリー・ゴッド』は、映画ファンも批評家も困惑でした。ここで世間の評価を気にして『ドライヴ』のときのスタイルに後退するのかと思いきや、やっぱりレフン監督はそんなことはしません。『オンリー・ゴッド』からさらにセンスを先鋭化して生まれたのが本作『ネオン・デーモン』です。


私のセンスに付いて来れるやつだけ付いて来い」的なノリですので、『ドライヴ』しか観たことがない人は咀嚼しづらいでしょうし、ましてやレフン監督作を初めて観ますなんて人は口に入れるまでもなく見ただけで吐きかねない。そんな極端な作品です。

もう少し具体的に説明するなら、私の考える『ネオン・デーモン』が賛否両論を巻き起こす理由は2つ。

まず、映像の倫理的な問題。まあ、これは詳しく書くとネタバレになるので避けますが、映倫区分が「R15+」である以上に、常軌を逸したおぞましい描写があるということだけ事前に知っておいてもいいでしょう。これだけで観る人を選びますから。

ただ、私が一番賛否分かれるだろうなと思うのは、本作で描かれる女性観。本作は、ファッションモデル業界で生きる女性たちを主軸にした物語です。いうなればフェミニズム的ともいえる世界観なのですが、普通のフェミニズムじゃない。生まれ変わったら女になりたいとインタビューでも言っているニコラス・ウィンディング・レフン監督の独特の女性観が、ストーリーが進むごとに色濃く溢れてくる作品です。

そんな小難しい評価はさておき、「なんか凄いものを観た」という気分になれるだけでも、鮮烈な映画体験として面白いと思うので、気になる人はレフン監督ワールドを覗いてみてはいかがでしょうか。






↓ここからネタバレが含まれます↓





不完全こそ美しい

「食べちゃいたいくらい可愛い」という言い回しがありますが、本当にやるとは…。

でも、周囲の感想を聞くと「グロい」と言われたりしてますが、それほどでもないですよね(自分の感覚がマヒしているだけかもしれないけれど)。これはレフン監督がグロさよりも美しさを強調するような映像づくりをしているからだと思いますが。目玉をパクリとするところとか、高級チョコレートを食べるテレビCMみたいな官能さがありました。

映像のハイセンスさはいつもどおりのレフン監督ですが、今作はいつも以上に象徴的な描写が多かった気がします。劇中で映し出されるアイテムや演出は何を意味するのかという議論が盛り上がるタイプの映画です。

私は、ジェシーの泊まるモーテルの部屋にピューマ(クーガー)っぽい大型ネコが侵入するくだりが特に印象に残りました。ここでピューマをチョイスするあたりが実にレフン監督っぽい。さすがにアライグマとかじゃカッコ悪いですからね。また、ネコという生き物は、まれに母猫が子猫を食べる習性がみられるんですよね。まさにこの映画そのもの…。

ネオン・デーモン

本作は普通に考えると、「美しくなりたい」という欲が暴走するさまを描いた作品に思えます。しかし、レフン監督は「それみたことか」みたいな冷笑や批判は全くないのが異質なところ。むしろ美しさを求めるあまり、傍から見れば「狂っている」ような行動も、レフン監督は不完全さとして美しいと肯定的に考えている。だから、ジェシーを殺して食べた女性たちも美しく描いたのでしょう。

世間では整形とかした女性は批判的に見られがちです。そして、極端に先鋭化するばかりのレフン監督の作品もまた同じく批判されます。本作はそれらに対するアンチテーゼだと考えられます。レフン監督は「どんどん食っていけ」の精神なんでしょうね。

作品を重ねるごとに独自の感性が一層増していくニコラス・ウィンディング・レフン監督。そんなレフン監督の次回作はなんと日本が舞台のヤクザ映画だそうです。レフン監督が日本を食べつくすと何を生み出すのか…楽しみです。

(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch