ミリオンダラー・ダック
映画『ミリオンダラー・ダック』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Million Dollar Duck 
製作国:アメリカ 
製作年:2016年 
日本では劇場未公開:2016年にネット配信
監督:ブライアン・ゴールデン・デイヴィス 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★
 

あらすじ

アメリカ政府が主催するとあるアート選考会が、野鳥の貴重な住処である湿地を救っている。それがダック・スタンプ(渡り鳥切手)・コンテスト。そのイベントに人生を捧げる、個性豊かな野鳥アーティストたちが繰り広げる、笑って心温まる奮闘の毎日を追いかける。


アーティストとカモの意外な関係

自然豊かな湿原で身をひそめる人間。野鳥に狙いを定める鋭い眼光。この人たちはハンター? バードウォッチャー? いえ、アーティストです。

自然保護と芸術。一見すると無関係に思える2つの要素ですが、これらが「ダック・スタンプ(渡り鳥切手)」という形でミラクルを起こしている…それに迫ったのが本作『ミリオンダラー・ダック』というドキュメンタリー映画。

『ミリオンダラー・ベイビー』でも『ミリオンダラー・アーム』でもなくて「ダック」です。

これだけだとよくあるネイチャー系ドキュメンタリーと受け取ると思います。しかし、中身はちょっと違って…。動物よりも人間模様に焦点を当てている作品です。主人公は、ダック・スタンプ・コンテストに参加するアーティストたち。「ダック・スタンプ」とはアメリカで作られている渡り鳥(主にカモ)の絵が描かれた切手のことで、毎年この切手に採用される絵を一般公募しています。この絵を描くアーティストたちがこれまた個性豊かなんですね。

私は「オタクが世間離れした情熱を源に何かを成し遂げる」系のお話しが好きで。ドキュメンタリー映画だと、例えば『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』や、『最後の1本 ペニス博物館の珍コレクション』とか。本作はまさにそれな題材です。群像劇的なので視点が絞りづらいのが難点ですが、「ダック・スタンプ」という題材か変わっていてそれでもなかなかない新鮮さがあります。

世の中にはこんな人もいるんだなぁと思うのと同時に、芸術と自然保護を巧みに融合した行政手法には舌を巻くでしょう。ダメなところもなにかと目立つアメリカの行政ですが、今回ばかりはアメリカの行政もなかなかやるじゃないかと上から目線で評価したくなります(というか劇中で実際にそういう発言をアーティストがするんですけど)。

「くーる・じゃぱん」とか言っている日本の行政の人にも観てほしい一作です。






↓ここからネタバレが含まれます↓





カモが黄金のネギを背負ってきた

まず、「ダック・スタンプ」というシステムが凄いなと感心です。

アメリカにそういう切手があるのはなんとなーく知ってはいたのですけど、ここまでとは…。

ダック・スタンプを国が作り、それを水鳥ハンターに買ってもらい、その売り上げを水鳥の生息地である湿原の保護にまわす。そして、肝心なのが、この切手はコレクターアイテムとして価値が生まれ、切手の絵を描くアーティストの熱意を刺激し、ますます盛り上がる。現にワールドカップやスーパーボウル並みの栄光だと言っていました。一過性の行事で終わらない良く出来た仕組みです。

しかも、絵が切手に選ばれても政府が賞金を出すことはなく、勝者にはアートのライセイスが与えられ、マグカップやTシャツなど商品をだして数百万ドル以上稼げる。日本では自然保護といえば行政の補助金や助成金に頼るのが常態化しているのですが、アメリカでは税金を極力抑え、国民の力を上手く引き出して自然を守る…実にアメリカらしいやり方です。

たかがカモなんですけどね…。カモがネギを背負ってきたどころか、カモが大金を製造してくれるわけです。

このダック・スタンプの仕組みが生まれたきっかけも面白い。当時、乱開発による水鳥の窮状を風刺する漫画を描いていた政治漫画家ディン・ダーリンをフランクリン・ルーズベルトが生物学調査局に任命、1934年にカモ切手条約を定めたとのこと。漫画家を起用するなんて漫画大国の日本でさえも考えられないですね。

カモがお好き(描く意味で)

そんなダック・スタンプに魅入られたアーティストたちはキワモノ揃い。

フィールドに繰り出す装備も本格的な、優勝常連のガチな兄弟。
盲目のアーティスト愛犬に触発されて、出場を決めた女性。
愛する妻と子ども3人を養うために、ひたむきに頑張る父。
郵便配達員の仕事の合間に、夢を追いかけ続ける若者。
批判もなんのそので、エキセントリックなセンスで挑戦する変人。

ミリオンダラー・ダック

とくに本作のネタ枠であるロブ・マクブルーム(本人もダック・スタンプ・コンテストのネタ枠として自覚があるのが愉快)。写実的な絵を描く人がほとんどのなか、前衛的な抽象画にこだわるスパンコールの彼は、なぜかポルノチックなイラストだったりと、強烈な個性を放っていました。

ミリオンダラー・ダック

それでも、このロブも含めて皆が真っ当な信念を胸に秘めているのが印象に残ります。おそらく最初はカモにも興味なかったであろう彼らが、いつのまにか夢中になり、趣味に、仕事に、人生にと発展していくのは凄いなと。

それにしてもあの審査方法はキツイですね。たぶん審査の透明性を確保するためなんでしょうけど、審査する方も、される方もハードです。ロブが満場一致のoutだと思ったらinが一票だったのがまたなんか良くもあり…。

私も彼らの熱意にうたれて、カモが少し好きになりました。