アメリカン・ソルジャー
映画『アメリカン・ソルジャー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Thank You for Your Service 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年
日本では劇場未公開:2018年にDVDスルー
監督:ジェイソン・ホール 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

あらすじ

戦火が続くイラクでの従軍生活を終えたアメリカ陸軍兵士アダム・シューマンは、同じ部隊の仲間であるトーソロ・アイアティとビリー・ウォーラーとともに母国へ帰還した。故郷のカンザス州に戻ったアダムには温かい家族が待っていたが、戦争の後遺症が彼を苦しめる。そして、仲間の二人もまた同様だった。その裏には戦争で命を失った仲間の存在があり…。

ネタバレなし感想

「アメリカン・スナイパー」脚本家の監督作

アメリカが「911」以降に始めたテロとの戦い。アフガニスタン、イラク、そして世界へと舞台は移り変わり、この戦争は2018年現在も続いていますが、退役した米軍兵士の数は400万人を超えるそうです。

国のために自らの命と人生の一部を犠牲にした兵士たちは、当然、帰還すれば称賛されるかどうかは別にしても、疎外されるなんてありえないものだと思いますが、現実は残念なことが起きています。

心的外傷後ストレス障害、薬物乱用、鬱病といった問題は日常生活に支障をきたし、ホームレス化する人もいれば、自殺する人も少数どころか数多く存在します。中には民間軍事会社に就職し、再び戦場に身を投じる人もいます。本来、この問題を解決すべき「退役軍人省」も、官僚主義的な組織体質や人手不足のせいで機能不全に陥っていることが外部の団体から指摘されています。

そんな退役軍人は「ポスト911」のアメリカを描くうえで欠かせない存在。映画においても退役軍人を題材にした作品は、近年でも『ローガン・ラッキー』(アダム・ドライバーね)や『15時17分、パリ行き』(厳密には作中時点では退役してないけど)など多数見られます。
『ローガン・ラッキー』感想(ネタバレ)…帰ってきたソダーバーグの現代風刺劇
そしてアメリカの退役軍人の問題をストレートに描いた映画が本作『アメリカン・ソルジャー』です。

ノンフィクション「帰還兵はなぜ自殺するのか」を原作にしており、監督は“ジェイソン・ホール”。名前を知らない人も多いでしょうが、同じく退役軍人の苦悩を描いたクリント・イーストウッド監督の『アメリカン・スナイパー』の脚本を手がけた人物です。“ジェイソン・ホール”は本作で監督デビューとなりました。だから邦題が「アメリカン・ソルジャー」なんですね。もうちょっと…こう…思いつかなかったものなのか…。原題は「Thank You for Your Service」で、痛烈な皮肉になっているのは言うまでもありません。

派手なドンパチは抑えめで、『アメリカン・スナイパー』での退役軍人の苦悩ドラマだけを抽出したような作品ですが、同様に安定感のあるプロット。さらに、“マイルズ・テラー”“ヘイリー・ベネット”というこれまた安定な実力キャストが揃っています。

日本では劇場未公開でビデオスルーですが、ぜひ気になる人は鑑賞してみてください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

5人の兵士のそれぞれ

本作は、アダム・シューマンを中心に、同じ部隊である仲間のトーソロ・アイアティ、ビリー・ウォーラー、マイケル・アダム・エモリー、ジェームズ・ドスターの5人の物語が語られる、群像劇的なスタイルとなっています。原作も5人の兵士を描いた話だそうですが、映画では上手く脚色を加えつつ、ミックスした感じでしょうか。

アダム・シューマンは、妻と幼い子どもたちに出迎えられ、5人の中ではもっと恵まれているように見えます。しかし、子どもがチョコを食べないことも知らないなど家庭を長らく離れていたことは、彼の疎外感につながっていきます。さらに、真夜中の狩猟では人の幻影(フラッシュバック)に悩まされ、あげくに睡眠障害で赤ん坊を落としてしまうという事態も。

トーソロ・アイアティは、妻に迎えられるも、すでに自分の居場所は軍隊しかないと孤立ぎみ。その彼をさらに苦境に落とすのが、記憶障害。曜日も覚えられず、こんな状態では当然就職どころか、日常生活もままなりません。やがて家で暴れてしまう始末。そして、ドラッグ依存に逃げていき、やがて犯罪に関わってしまいます。

ビリー・ウォーラーは、婚約者がいたものの、家に帰ればもぬけの殻。完全な孤独に耐えきれない彼は、職場の婚約者の目の前で銃で自分の頭を撃ち抜き、自殺。死を選びます。

マイケル・アダム・エモリーは、イラクでの任務中に頭部を狙撃され、幸い一命をとりとめたものの、左半身が不随となり、先に帰国。妻に逃げられ、ひとりで田舎で暮らしていました。

ジェームズ・ドスターは、エモリーを危険にさらしたことで動揺していたシューマンに代わって1日仕事を変わった日、シューマンの座るはずの席で任務中に爆弾で死んでしまいました。これがシューマンのトラウマの大きな一因になります。

この5人の出来事は、モデルとなる人物がいるようにリアルです。それでもおそらく実際はもっと酷い状態だったと思われ、映画ではデフォルメされている方だと思います。

アメリカン・ソルジャー

言葉にできないモノ

私も退役軍人の苦悩をわかったような気持ちになっていましたが、本作を観ることで、それは想像を超える根深さなんだと痛感しました。

まず、全然治療を受けられないことがショックです。シューマンも文句を言っていましたが、今すぐにでも自殺しかけない人がいるのに、申請に6~9か月かかるのでは到底意味もありません。アメリカでは今や戦死者よりも自殺者の方が多く、当然自殺未遂者はもっと多く、精神疾患者はさらに多いです。国が退役軍人のサポートをしきれない状態で、自転車操業で戦争をしている実態が浮き彫りになっていました。

そして、もうひとつの大きな問題は「周囲の無理解」です。劇中に登場した、精神治療を受けるなんて軍の士気が下がってみっともないと言い放つ上官や、なぜ自殺するのか理解できないねとほざくステーキ上司野郎(勝手に命名)は論外。

本作で無理解の恐ろしさを感じたのは、“親切”が人を追い詰める場面ですね。シューマンの妻サスキアなんてまだ理解のある方に見えるし、精一杯夫を支えようとします。それでも「話してくれなきゃ助けられない」という言葉はシューマンを苦しめていました。

退役軍人本人さえも苦しさを言語化はそうそうできるものじゃない。印象的なのは、自殺したビリーについて、シューマンが「病んでいたなら、なぜ黙ってた」「死のうとしたなんて気づかなかった」と疑問を口にするシーン。退役軍人同士でさえ本音を語れないし、共感もできないというのは辛いものがあります。

質問調査表の「軍での経験を思い出し死にたくなる」「もう限界だと感じる」「自殺したいと感じる」に“当てはまる”とチェックしている文面が残酷です。序盤でシューマンが妻に「五体満足なんだからパーフェクトだ」と自分の境遇を肯定的に評価していましたが、それとは明らかに真逆なこのシーンの対比。言葉と文章の反比例が、厳しい現実を物語っていました。

本作は映画的なサスペンスに欠けるし、終盤のソロのヤバイ仕事描写は中途半端な感じが否めませんので、いろいろ気になる部分も多い映画です。でも、心理ドラマの部分に比重を全て置いたような、こんな大胆な戦争映画もやはり今のアメリカには必要でしょう。

日本もかつては…

こんな感じで本作を対岸の火事の気分で観ていましたが、日本もこれからどうなるかわかりません。それにかつての太平洋戦争の終戦後では、1万を超える日本兵たちが精神疾患に苦しんだという調査もあります。当時は「戦争神経症」と呼ばれ、やはり恥ずかしい存在として認識され、語ることはおろか帰郷することもできずに病院送りになった人も大勢いるとか。結局、日本もまた戦争に従事した兵士になんの救いも与えず、なかったことのように時代を歩んできたのですね。

退役軍人絡みの話は暗くなりがちですが、最後に明るい話題を。今、アメリカでは若者を中心に銃規制を訴える運動が大きくなっています。そして、それに退役軍人の人も参加しているようです。Twitterでハッシュタグ「#VetsForGunReform(銃規制改革のための退役軍人)」を立ち上げるなど、自分たちの経験を平和に活かそうとする動きがあります。退役軍人の人がこういった活動で「生きる意味」を見出せるなら、素晴らしいことではないですか。

↑『アメリカン・スナイパー』もまた退役軍人の苦悩を凝縮した、衝撃のラストが印象的。