サバイバルファミリー
映画『サバイバルファミリー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:サバイバルファミリー 
製作国:日本 
製作年:2017年 
日本公開日:2017年2月11日 
監督:矢口史靖 

【個人的評価】
 星 5/10 ★★★★★

あらすじ

東京で暮らすごく普通の家族の鈴木家。ある日、電気を必要とするあらゆるものがなぜか使えなくなり、東京は大混乱に陥ってしまう。交通機関や電話、ガス、水道まで完全にストップした生活に人々が困り果てる中、鈴木家の亭主関白な父・義之は、家族を連れて東京を脱出することを決意するが…。

ネタバレなし感想

世界から電気が消えたなら

「電気」が生活に欠かせないものであることは、災害大国である私たち日本人は重々承知なこと…と言いたいのですけど、どうなんでしょうか。どうしても実感しづらいし、忘れがちですよね。それくらい今の現代社会には電気を使った製品やそれに支えられたシステムが多すぎます。

そんな日本にお灸をすえる…ほど“上から目線”感は全然ないですが、電気の大切さはよくわかる映画が本作『サバイバルファミリー』です。

本作は、突如、電気を利用する機器が使えなくなってしまった!というシチュエーションで家族がどう生きるかを描くサバイバル・ドラマ。この設定、補足すると、別に停電したわけではなく、電気を使うモノが一切動かなくなったという実際はあり得ないSF的状況となっています。つまり、テレビや冷蔵庫のような家電製品も使えないし、電池も機能しません。じゃあ、自然現象としての電気はどうなっているんだと、いろいろツッコミ放題ですが、そこは気にしないでください。

しかし、SF的考証はほぼないかわりに、このシチュエーションで生き抜くためのサバイバル技術や知識はリアルに描かれているので、そこを楽しむ作品です。

普段たくさん映画を見ているとやたらと生命力の強い奴らばかりを目にし過ぎて感覚がマヒしてきますが、本作を観ると人間の当たり前の弱さを再確認できます。そうだよ、『とてつもなく万能な死体』なんて存在しないんだった…。

どちらかといえば家族みんなで観て、観終わったあとに防災について議論するのが良いと思います。いつ、あなたもサバイバルファミリーになるのかわからないですから…。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

カツラはいらない

本作の監督は、2001年に『ウォーターボーイズ』を大ヒットさせ、コメディ邦画界の代表的名監督となった“矢口史靖”。しかし、本作は“矢口史靖”監督のこれまでのフィルモグラフィのなかではかなり特殊というか一味違う作品になってました。

まず、“矢口史靖”監督といえばまさにドタバタコメディという言葉がふさわしい現代喜劇が特徴ですが、本作は過去作と比べてかなりシリアス。一応、被災生活を描くからなのか、終始ドキュメンタリーチックのようなリアルな緊張感が垣間見えるドラマになっていました。真っ向から死を匂わせる描写も随所にあって“矢口史靖”監督作品ではなかなかない神妙な気分になります。

今回は、“矢口史靖”監督らしい「不謹慎」ギャグは封印なのかな…と、途中まで思ってました。過去作だと、『ハッピーフライト』では航空機事故、『ロボジー』では高齢者虐待と科学不正、『WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜』ではド下ネタと、「それはどうなの…」となるような不謹慎ギャグを遠慮なくぶち込んできてくるのが最近の定番でしたが、それは本作ではないのかと。

でも、ちゃんとありましたね。カツラが。

あの川で溺れて残ったのはカツラ…というシーンは、もう「あれっ、悲しいシーンだよね…」と困惑と可笑しさが顔を見合わせますよ。最後に蒸気機関車の窓から、父・鈴木義之の古臭いプライドを象徴しているカツラを投げ捨てるシーンは、やっぱり“矢口史靖”監督作品なんだなと謎の安心感がありました。

サバイバルファミリー

本当に川で死にかけた役者陣

シリアス度の強さ以外にも、もうひとつこれまでの“矢口史靖”監督作品と違う点として挙げられるのはスケールの大きさです。

そもそもこういうSF的設定のある作品はたいていシチュエーション・スリラーとなってスケールの狭い範囲で物語が展開するものです。私も本作もそういうものなんだろうと思ってました。

ところが本作は予想以上にスケールが大きく、“矢口史靖”監督作品史上最大クラスでした。

しかも、ちゃんとCGを使わず、それを再現しているのですから、お見事です。あの大勢が高速をゾロゾロ歩く場面とか、めったにない日本の映像が見れて新鮮です。トンネルの場面はシチュエーション・スリラー的な感じにもなって、飽きない映像の連続で楽しかったですね。

それにしても主人公家族を演じた主演の4人はお疲れ様でした。ブタを捕まえるために疾走したり、冷たい川に飛び込んだり(メイキング映像が本当に辛そう)、斜面を転げ落ちたり、とにかく体を張ってました。でも、あれかな、もっと野生生物を採って食べるシーンが欲しかったかな…虫とかヘビとか(役者をさらに苦境に追い込む観客のクズ)。『レヴェナント 蘇えりし者のレオナルド・ディカプリオはこれよりさらに酷いサバイバル演技を実行していますけど、日本のレオナルド・ディカプリオは“小日向文世”だったんだなぁ…。

苦言を言うなら、ブタの解体はもっとしっかり映すべきだったと思います。解体中の“それ”を映さず、子どもたちが顔をしかめる映像だけが映るのは、フェアじゃないというか、“それ”に対する印象操作に見えてしまう気もして

ともあれ電気を失った現代の日本社会を見事に映像化しており、これだけでもじゅうぶん褒められる映画でしょう。

ちなみに電気が発見されたのはいつなのか、気になって調べたら、なんと紀元前にまで遡るのですね。なんでも電気を意味する英語「electricity」 はギリシア語の「琥珀」を意味する言葉に由来し、古代ギリシア人が琥珀をこする事で静電気が発生する事象を発見したからだとか。この洞察力…これこそサバイバルに必要なものなのかもしれない…。

いや、日本人の場合は災害だろうがミサイルだろうが何があっても通勤・通学・家事を止めない、その真面目気質を最初になんとかしないとダメかな…。

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