四月の永い夢
映画『四月の永い夢』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:四月の永い夢 
製作国:日本  
製作年:2017年 
日本公開日:2018年5月12日 
監督:中川龍太郎 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

あらすじ

3年前に中学校の音楽教師を辞めた27歳の滝本初海は、現在は近所のそば屋でアルバイトをしながら暮らしている。そんなある日、彼女のもとに1通の手紙が舞い込む。それは3年前の春に亡くなった恋人が彼女に向けて書き遺したものだった。この手紙をきっかけに、初海の変わらない日常が、元教え子との遭遇、染物工場で働く青年からの思いがけない告白とともに、再び動きはじめる。

ネタバレなし感想

注目の新鋭監督、中川龍太郎

有名監督または有名俳優の作品ばかりが注目されやすいのはアメリカも日本も同じですが、アメリカ映画界ではVODの発展にともない、インディペンデント映画に光をあてる機会が増えた気がします。日本では絶対に劇場公開もビデオスルーもないような作品が観れたりしますから。その点、邦画におけるインディペンデント映画はいまだにミニシアター頼みであり、絶賛衰退中のミニシアターの縮小とともに小規模独立作品は苦しい立場に今後も追いやられるかもしれません。

そんな狭いインディペンデント邦画界隈の中で、今、注目のひとりが“中川龍太郎”監督。17歳で「詩集 雪に至る都」を出版した詩人&エッセイストにして、大学の文学部に籍を置きながら独学で映画作りを学んだという異色の経歴が特筆されています。でも、たぶんそういう人は目立たないだけで日本ではポロポロいると思うのです。そんな中でも“中川龍太郎”監督が確実に映画キャリアを積み重ねて、注目を増しているのはやはり独自の才能を持っているからなのでしょう。

インディペンデント畑から一気に大舞台へステップアップした監督といえば、最近は『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督がいました。
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それをいうなら『君の名は。』の新海誠監督も同じ。もしかしたら、邦画界は“監督の人手不足”を感じ始めて新規才能の開拓に必死なのかもしれません。最近は新しい監督の名前も商業作でチラホラ目にしたりします。

そういう背景のなかで、この“中川龍太郎”監督はじゅうぶん逸材です。だって、平成2年生まれ、現在28歳ですから。若い。まだまだどうとでも成長できます。

監督作『愛の小さな歴史』(2015年)、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(2016年)が2年連続で東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門出品し、期待を順調に高めていた“中川龍太郎”監督の最新作が本作『四月の永い夢』です。

本作は、第39回モスクワ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞とロシア映画批評連盟特別表彰を受賞しており、今回も評価は上々。個人的には過去作と比べて明らかに映画的なアプローチが上手くなっているようにも感じました。 かなり見やすい映画になっていると思います。

たまにはこういう道端にポツンと咲く名前も知らない野花みたいな映画も鑑賞してみるのもいいですよ。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

効果的な“詩”演出

“中川龍太郎”監督は原点に文学、とくに詩による創造性を持っているせいか、これまでの映画作品ではどちらかといえばポエティックな表現が目立ちました。それも作家性といえばそうですが、個人的にはせっかく映像なのだから、あまり言葉での説明的な演出に頼らずに見せてほしいと思ったのが正直な気持ち。

しかし、本作ではそのポエティックなテイストは比較的鳴りを潜め、映画的な演出が増えたように思います

本作で直接ずばり「詩」的な演出が挿入されるのは3か所。ヒロインの滝本初海の独白が流れる冒頭。滝本初海の恋人が書き残した手紙の文章が画面に映る物語終盤。そして、それへのアンサーになる滝本初海のお返事を読み上げるラスト。

内容はこんな感じ。

冒頭:滝本初海の独白
世界が真っ白になる夢を見た。
小学生のころ、授業を聞かずに窓の外の山々をずっと見ていた。
中学生のころ、授業を聞かずに地図上を指で辿って日本の隅々を旅していた。
高校生のころ、恋愛に奥手だった私は宛先のないラブレターを書いては机にしまっていた。
大学生になって、私は東京に出てきた。四月の日差しにほだされて、私はようやく恋を得た。
とても不思議な人だった。
決して目を合わせようとしない人だった。
けれどもとても優しい人だった。
それからどれくらい経っただろう。
いつのまにか私は窓の外の山々を夢見ることなく、
いつのまにか私は遠くの知らない街を夢見ることなく、
詩の書き方さえ机の中にしまってしまった。
ふと目を覚ますと私の世界は真っ白なまま、
醒めない夢を漂うような曖昧な春の日差しに閉ざされて
私はずっとその四月の中にいた。
物語終盤:滝本初海の恋人が書き残した手紙
初海へ
これまでたくさんの手紙を書いてきたけれど、
これが最後になるとおもう。
ラブレターというのは、
自分が言いたいことじゃなくて、
相手が喜ぶことを書きなさい、
と誰かが言っていたけど、
結局のところ自分の書きたいことだけを
書きつづけてきたのではないかとおもう。
誰のせいでもない。
これはあらかじめ
決められていたことなんだ。
もちろん初海はなにも悪くない。
ただどうか、他の連中の話を
真に受けないでほしい。
僕のことは忘れて幸せになってください。
風間憲太郎
ラスト:滝本初海の読み上げる返事
風間憲太郎さま 
今までたくさんのお手紙をありがとう。
知り合ったときから、数えきれないほどのお手紙をくれましたね。
思い返せば、私が手紙を憲太郎に渡したのは一度だけだったような気がします。
筆不精でごめんなさい。
渡せていない手紙はたくさんあるのだけど、渡せなかったら手紙って意味ないよね。
ところで先だってのお手紙について、ひとつ言わせてください。
忘れてくださいなんて書いておいて、
本当はずっと覚えておいてほしい気持ちが透けて見える感じ
あなたのそういうところがずっと嫌いでした。
でもあなたがくれた手紙は全部私の宝物ですし、それはこれからも変わりません。
また書きます。
ありがとう。
2016年8月1日
滝本初海
追伸 こちらはもう夏です。暑くって敵いませんが、悪くありません。
個人的な印象としてはこういう効果的に使う範囲であればセーフかなと思ったので良しです。ただ、滝本初海の恋人が書き残した手紙のくだりは長いかなとは若干思いますが。それでも冒頭とラストは呼応しているので後味として非常にスッキリします

あとは何よりも、滝本初海の役を演じた、スタジオジブリの『かぐや姫の物語』でヒロインの声を担当したこともある“朝倉あき”の魅力ですね。声です。この声、一発で観客を魅せていくパワーがあって、なるほど納得のキャスティングでした。

四月の永い夢

ツラいだけではない今の時代

本作の映画的な演出といえば、手ぬぐい工場で二人が寝そべって吊るされている無数の鮮やかな模様の入った手ぬぐいを花火のように見上げるシーンなど印象的でした。花火とか桜とかありきたりなものにせず、視点の移動だけで感動を生むのは映像的です

その後、滝本初海が夜道を歩いていく際のイヤホンをつけてポータブル音楽プレイヤーで音楽を聴くと、そのまま劇中のBGMのように音楽が流れる演出は、ちょっとストレートすぎる気もしましたけど。

自分の中で一番映画的だなと思ったのは、本当にラストのラスト、滝本初海が立ち寄った店でラジオ から志熊の投稿が読まれるのを耳にして笑うというエンディングの入り方。こういう“さりげなさ”はなかなか文章ベースの小説では表現できないのでいいですよね。

あとは登場するキャラクターがみんな自然体なのがいいです。とくに女性陣。滝本初海も、教え子だったあの子も、それなりの悲劇を抱えてはいるのですが、それなりにあっけらかんとしている生き方だったり。いわゆるステレオタイプな「辛い過去を背負った女」感はゼロ。滝本初海は、波乱万丈な人生で有名な女優イングリッド・バーグマンが好きなようでしたが、良い意味でそこまで大仰じゃないどこにでもいる悲劇性を抱えた普通の女性。

こういう描写を見ると、ああ、やっぱり平成生まれらしい視点かなと思ったりします。世の中では平成という時代を悲観的に見る人もいるようですが、仮にツラいことがあっても決してそれありきで描く必要はないじゃないかという視点も、私は良いなと同調したい気分です。

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↑中川龍太郎監督作『走れ、絶望に追いつかれない速さで』。
(C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema