ストロング・アイランド
ドキュメンタリー映画『ストロング・アイランド』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Strong Island 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:ヤンス・フォード 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★

あらすじ

とある一家に突然起こった悲しみは、家族に深い傷を今も残していた。その悲しみと怒りを聞いてくれる人はいなかった。だから、家族と関係者は語りだす。一体、そのとき何が起こったのか。そして、なぜこんなことになってしまったのか。この慟哭にあなたも耳を傾けてくれるだろうか。

ネタバレなし感想

語る

「不愉快だと思う人は見なくても結構です」

そんな唐突な言葉で始まるドキュメンタリー、それが本作『ストロング・アイランド』

このドキュメンタリーは監督である“ヤンス・フォード”が、自身の家族について語った作品です。

ドキュメンタリーは、フォード家の成り立ちから触れられていきます。父と母の出会い。結婚。兄の誕生。自分の誕生。妹の誕生。職業。趣味。学校生活。人それぞれではありますが、辛いこともあれば、幸せなこともある、そんなどこにでもいる普通の家庭のように見えます。しかし、兄のウィリアムにとある悲劇が起こったことで状況は一変して…。

ここまで読んだ人は、まだこのドキュメンタリーが何を扱っているのかさっぱりわからないと思いますが、それは私の口から語るべきではない気がする。だから、あえてぼかしました。これは“ヤンス・フォード”監督自身の口から発せられる言葉でこそ意味があるのです。

別に本作の題材は他のドキュメンタリー作品と比べても特段変わったものではないです。センセーショナルというわけでもなく、スケールの小さい家族の話。でも、それは現代社会、とくにアメリカの深刻な問題構造の一端でもあります。そのことがこれほどまでに生々しく伝わってくる作品は他にはないのではないでしょうか

本作は高く評価されており、2017年のサンダンス映画祭のUSドキュメンタリー部門でストーリーテリング賞を受賞しました。“ストーリーテリング”というだけあって、その語り口には観た人・聞いた人を飲み込む力があります。

“ヤンス・フォード”監督の家族の言葉にぜひ耳を傾けてください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

ただ、言葉を聞いてほしい

監督がここまで自分のプライベートを語るだけのドキュメンタリーというのは、ドキュメンタリーの常識からしてみるとかなり異色です。確かにドキュメンタリーは製作者の主観が大なり小なり混じって表出するものですが、ここまで自分(もしくは近しい人)の言葉一色で成り立っているのはなかなかありません。

これは本作の本題、つまり「兄・ウィリアムが撃ち殺され、射殺した人は不起訴になった」という事件について語るうえで、フェアじゃないのではないかという指摘もできないことはないです。確かに客観性なんてまるでないですし、それどころか主観でしか語れない部分が多すぎますから。「こんなもの兄の死を乗り越えられない家族の被害妄想」だとか、厳しいことを言う人もいるかもしれません。

でも、監督をはじめ家族や友人たちは、“検証したい”のではないのでしょう。ただ、“言葉を聞いてほしい”だけ

それはなぜか? その理由は、彼ら彼女ら殺された側であるウィリアムの関係者の言葉、もっと言えば“叫び”を誰も聞いてくれなかったからです。警察も、検事も、判事も、陪審員も、みんなまともに取り合ってくれなかった過去があるからこそ、自身でドキュメンタリーを作ることにした。

そして、訴える。「これは正当防衛だと思いますか?」「妥当な脅威は本当にあったのでしょうか?」

今さら裁判をやり直すなんてできなけど、この叫びだけは伝えたい。本作はドキュメンタリーという形でもうひとつの“行われなかった”大陪審を行っているようなものではないでしょうか。だからこそ「不愉快だと思う人は見なくても結構です」という前置きがあるわけです。自己満足かもしれないけど、言わせてくれと…。

日本もそうですけど、陪審員は私たち一般人が行うわけで、この叫びはダイレクトに突き刺さりますよね。テーマ性としては是枝裕和監督の法廷心理劇三度目の殺人に通じるものがあります。人を裁くことは“重い”のです。

ストロング・アイランド

生々しい現実感

本作の本題は「兄・ウィリアムが撃ち殺され、射殺した人は不起訴になった」という事件ですけど、結構、それとは関係ないようなプライベートな話も序盤はたくさん語られます。監督の母が語る子どもが生まれる前の生活の話とかもそうですし、兄のヌード雑誌を読んでいたという監督のセクシャルマイノリティへの引け目の話もそう。

でもこれらプライベートな話題が語られることで、単なる「黒人の男が撃たれた」出来事に見えた事件の重みが変わってきます。それは変哲もない射殺事件に見えて、実は「家族想いで正義感にあふれるウィリアムが撃たれたことで、多くの人とのつながりが断ち切られてしまった」のだと。本当に生々しく感じました。

また、母が序盤で語るアメリカの人種隔離の実態も生々しかったですね。何気ない生活の中にも差別が当たり前のように存在するのが、話を聞いているだけでも不気味で。「彼らは裕福でなくても恵まれてた。ただ白人というだけでね」という言葉は、まさしくそうなんだなと実感させられます。言うまでもなく、ウィリアムを殺した白人の不起訴には人種差別の問題が覆いかぶさっているわけで、アメリカの深刻な問題構造の一端を見せられました。

日本に暮らしていると、こういうアメリカに存在している人種問題が全くリアリティを感じない時がありますが、本当に実在しているんだなぁ。

本作のような人種差別で人が不当に殺される事件を扱った映画は、ドラマでは『クリード チャンプを継ぐ男』で大成功をおさめたライアン・クーグラー監督の『フルートベール駅で』などがありますし、日本ではこれから公開予定のキャスリン・ビグロー監督の『デトロイト』なんかも控えてます。こうした作品と本作を合わせて観ることで、より日本人には現実感が増すのではないでしょうか。

↑実際の事件を題材にした、こちらも生々しいドラマ。

それにしても、こういう当事者がドキュメンタリーを作ってしまって訴えることができるというのも、創作物を発表しやすくなった時代の流れというか。良くも悪くも個人の力が強くなった現代らしいドキュメンタリーでした。願わくば、それが社会を良い方向に変えていくといいですね。

©Netflix