スプリット
映画『スプリット』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Split 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本公開日:2017年5月12日 
監督:M・ナイト・シャマラン 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

あらすじ

見知らぬ男に拉致され、密室に閉じ込められた女子高生3人組。実はこの男は年齢も性別さえもバラバラな23もの人格を持った人間だった。ひとりの体の中で次々入れ替わる人格に翻弄されながら、必死に脱出方法を思案していく女子高生たちだったが、待ち受けていたのは常人には想像できない存在だった。

衝撃のラスト(変化球)

まさかのオチを見せてくれる予想外のストーリーが売りになっている"M・ナイト・シャマラン”監督の最新作が2017年、公開されました。

実は私、本作を観る前から"M・ナイト・シャマラン”監督に騙されてました。タイトルを勘違いしてました。『スピリット(Spirit)』だと思ってて、観る直前に気づきましたよ。はい、ただの私の凡ミスです。本当のタイトルは『スプリット(Split)』。「分裂する」という意味の単語ですね。そりゃあ、多重人格(解離性同一性障害)の人間が中心となるお話しなのだから、そういうタイトルになるのは当然。なぜ誤解したのか…。

まあ、そんなどうでもいい話は置いといて、語るべきなのは監督の"M・ナイト・シャマラン”。彼のフィルモグラフィーはなかなかの山あり谷ありです。『シックス・センス』(1999年)で一躍有名となり、『アンブレイカブル』(2000年)や『サイン』(2002年)と続くと、「"M・ナイト・シャマラン”監督作品=衝撃的なラスト」という感じが鉄板となっていったのですが、その後は迷走期に投入。得意なはずのサスペンススリラーを捨てて、なぜかファンタジーやファミリーSFに走りだし、「どうした? シャマラン」と多重人格を疑いたくなるレベル。なかには"M・ナイト・シャマラン”監督ファンでさえ擁護できないような黒歴史映画もあって、完全にネタ監督として嘲笑される存在に終わるのかと思いました。

↑迷走期に作られた唯一?のサスペンススリラー。
ミツバチ大量失踪事件から着想を得たという
馬鹿馬鹿しさが個人的に逆に好きになってる一作。

ところが、2015年の『ヴィジット』で見事に復活。「やっぱり俺たちのシャマランは小規模サスペンススリラーでこそ光るんだよ!」となったわけです。

そんな"M・ナイト・シャマラン”監督の最新作である本作『スプリット』。案の定、宣伝では「衝撃のラスト」と書かれてるのですが、本作の衝撃はこれまでの過去作の衝撃とは種類が違います。ネタバレになるので言いづらいですけど、ストーリーのトリックによるものじゃないです。はっきり言って今回のオチは、「そうきたかぁー!ヤッホーイ!!」みたいな人と「えっ…だから何? 何なの?」みたい人に真っ二つに分かれると思います。"M・ナイト・シャマラン”監督ファンは確実に楽しいはず。

あと、「女子高生3人」vs「23の人格の男」という宣伝文句はあまり期待しないほうがいいでしょう。

オチの関係上、良くも悪くも「今」しか楽しめない、賞味期限の短い映画なので、早めに観た方がいいのは絶対に間違いありません。もちろんネタバレなしでね。






↓ここからネタバレが含まれます↓





バック・フィーバー

劇中で「バック・フィーバー」という言葉がでてきます。ケイシーの回想シーンで登場するこのフレーズ。これは狩猟においてハンターが獲物を前にしたときに恐怖や興奮などの感情の乱れのために思いも寄らぬ行動(引き金を引くのをためらったり、逆に撃ち過ぎてしまったりするなど)をとることを意味します。「バック・フィーバー(buck fever)」の「buck」は雄鹿のことです。

この言葉、まさにシャマラン監督作品にぴったり。

例え弱者であってもひとたび“武器”と“環境”が揃ってしまうと予想外の行動をとっていく…本作におけるその弱者がケヴィンとケイシーです。

ケヴィンがバック・フィーバーのすえにいきついたのが、あの超筋肉男“ビースト”。一方、ケイシーがこの先どこにいきつくのかハッキリさせない終わり方でしたが、続編で語られるのでしょう。

今回、多重人格者のケヴィンを演じた“ジェームズ・マカヴォイ”はさぞかし役者冥利に尽きる体験だったでしょうね。『X-MEN』シリーズでプロフェッサーXを演じた彼ですが、本作における終盤のあの刃物も銃弾も効かない姿はもはやミュータントの領域。シャマラン監督は『X-MEN』がしたかったのか…。

シャマラン監督らしい「いや~な感じ」の描写も随所にあって楽しかったです。冒頭の車での拉致シーンも素晴らしかったですが、個人的にはケイシーに性的行為をしていたことが判明するあの叔父が「野生動物は裸だから君も裸になりなよ」と裸で言っているシーン。あの気色悪さったらないですよ。

その逆にクスッと笑わせるシーンもシャマラン監督の持ち味。ヘドウィグがなぜかノリノリで踊りまくる場面は別にあそこまで長尺で撮ることもないのに、でも愉快だから良し。あとケイシーと一緒に拉致された女の子のひとりが部屋から脱走して隠れた先が“ロッカー”という、ホラーにおいて一番ダメな場所なのもギャグなんでしょうね。

シャマラン・フィーバーしてました。

スプリット

賞味期限のあるオチ

このオチは想像してなかった。というかこれをオチにするとは思わなかったというほうが正しいかも。

普通はストーリーのトリックを身構えますよね。多重人格の話なら「実は多重人格じゃなかった」とか「実は別のキャラも多重人格だった」とか。でも、本作は違って、むしろ多重人格の部分はミスリードでさえあるという…。「女子高生3人」vs「23の人格の男」を期待しているとがっかりするし、そもそも23の人格も出てこないし…。

本作のオチは簡潔です。

実は『スプリット』は『アンブレイカブル』と同一世界の話だった! そして、物語は今後公開予定の『Glass』へ続く…。

↑ブルース・ウィリス演じる主人公がヒーローとして覚醒していく話。
『スプリット』とは真逆です。

これをオチだと言い放つシャマラン監督がいろいろな意味で凄い。仮に劇中で過去作の要素が出てきても、ファン向けのイースターエッグかな?と思うのが一般的ですから。

個人的なこのオチの第一印象は、そういう“どんでん返し”でくるのか!とニヤニヤでしたが、ふと冷静になってみるといろいろ思うところはあります。良くいえば“攻めている”、悪くいえば“突っ走りすぎ”。だって、『アンブレイカブル』を観てないと「ぽかーん」だし…。数年後に本作を観ても、たぶん作品の関係性は明らかになってますから、何が衝撃なのか全然通じないでしょうし。だから「今」しか楽しめないのです。

これは前作『ヴィジット』で高評価を得たシャマラン監督が勢いに乗ってるからできたこと。観客も俺の勢いに乗ってこいよ!ってことなんでしょう。それにたぶんシャマラン監督もストーリーのトリックで観客を騙すのに飽きてきたのかもしれないですね。

私として今回のオチに対する評価は…「保留」で。いや、元も子もない言い方をするなら、結局、『Glass』が面白いかどうかにかかっているんじゃないですか。これで『Glass』がつまらなかったら、赤っ恥ですからね。

シャマラン史上、最後の衝撃的なラストにならないことを祈るばかりです。

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