サウスサイドであなたと
映画『サウスサイドであなたと』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Southside with You 
製作国:アメリカ 
製作年:2016年 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:リチャード・タン 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

1989年のシカゴ。法科大学院で学んでいたバラク・オバマは、弁護士事務所に勤めていて彼のアドバイザーでもあったミシェル・ロビンソンと出かける。互いを気にかけ合う二人にとって、これは運命の初デートとなる。この出会いの先に、アメリカ史に名を残す大きな出来事が待っているとは、二人はまだ知らずに…。

映画館デートは万国共通?

初デートの行き先で今なお人気上位にランキングされる場所が「映画館」です。そんなに値段も高くはなく、比較的アクセスもしやすく、必然的に二人隣り同士になれて、観終わった後は感想を語ればいいので会話のネタにも困らない。それでいて映画という力でもって特別な体験をしたような気分になれる。まるでデート場所として最初からデザインされていたかのようなスポットです。まあ、私のような年に何百と映画を観るような人間には、特別も何もない、いつも通う場所なのですが…。

統計がないのでわかりませんが、実際、初デートで映画館に行った人はどれくらいの割合になるのでしょうかね。

そんな「初デートは映画館」という定番コースを経験するのは庶民だけではありません。あのアメリカ元大統領もまた同じ体験をしていました。

その人物とはアメリカ第44代大統領“バラク・オバマ”、そしてその妻でファーストレディの“ミシェル・オバマ”の二人です。そして、その二人の初デートを描いた作品が本作『サウスサイドであなたと』です。

オバマ大統領の青年期を描いた伝記映画は他にもバリーがありましたが、こちらは大学時代。初めて自立した大人の世界に足を踏み入れ、自分探しに悩む初々しいバラク青年の姿が印象的でした。一方、本作は1989年、バラク青年がすでに己が何者かを理解し、社会で才能を活かして活動し始めた時期の話です。

舞台はシカゴのサウスサイドと呼ばれる地域。サウスサイドは昔から治安が悪いことで有名で、毎日のように発砲事件が起こっているそんな場所。そこで当時、バラクのアドバイザーとして一緒に仕事していた同僚(先輩)のミシェルに惹かれたバラクが彼女を“お出かけ”に誘う…その1日の話です。

言わずもがな雰囲気はリチャード・リンクレイター監督の「ビフォア」シリーズにとても似たものがあります。それでも作品の内部にはそれとは違った別の雰囲気も漂ってくる、不思議な作品です。ギャングやドラッグにまみれたステレオタイプな暗い黒人ストーリーではない、教育を受けた黒人のロマンスという新鮮さもありますし、やはり後の大統領になるという決定的な点も作品の裏で独特の趣を引き出しています。もちろん、恋愛映画としてもとてもロマンチックな仕上がりになっていますから、難しく考える必要はなし。

かなり気軽に見られるオススメしやすいブラック・ムービーです。Netflixで配信中なので、お家デートで観る映画にどうぞ。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ミシェルがデートだと認めない理由

本作は冒頭は非常に軽いノリで始まります。ジャネット・ジャクソンの「Miss You Much」を流しながら“デート”のお相手を迎えにいくバラク。


一方の家で準備をするミシェルは、家族にからかわれつつも、オシャレには余念がありません。このそわそわ感がいかにも初デートという雰囲気で良いシーンです。

ところでさっきから「初デート」と表現してますが、実は終盤までこの劇中の出来事は初デートかどうか確定しません。というのも、ミシェルがこれは“デート”じゃない、“出かけるだけ”だと言い張るからです。中盤で参加した集会でも、他の参加者から「結婚しているの?」なんて聞かれ「付き合ってもいないです」とプチ切れ状態で答えるミシェル。観客も周囲も「もう、照れちゃって」みたいな気持ちで見守っていますが、実際、ミシェルの内心には単なる照れ隠しではない、もっと複雑な思いがあるんですね

道中、女性であり黒人であるので仕事しづらいと不満をもらすミシェルの言うとおり、彼女はこれからの自分のキャリアに相当危機感を感じています。これは憶測ですが、バラクのような優秀な“男”の黒人が同じ職場で評価を高めることに、自身が脅かされるような不安感も感じていたのでないでしょうか。女性はどうしても恋愛や結婚がキャリアにおいてはマイナスにつながりやすいです。「こいつは結婚するのなら、どうせ辞めるだろうし、あんまり重要な仕事をさせなくていいな」とか。ゆえに、終盤、映画を観終わった後、職場の上司にばったり遭遇してしまい、バラクと二人で映画を観たことが職場で噂になることを恐れる彼女の姿は過剰に見えるかもですが、そういう事情を鑑みれば理解できるでしょう。しかも、この場面ではバラクがよりによって上司から評価されてますから。完全にミシェルは蚊帳の外です。

そういう意味で本作はジェンダー映画としてもとても良く出来た脚本だと思います。

黒人人種問題を裏で語る

本作は、よくありがちな陰惨なブラック・ムービーではないのですが、ちゃんと人種問題にもスマートに言及している作品になっています。

そのひとつが、二人が立ち寄る“アーニー・バーンズ”の美術展。“アーニー・バーンズ”は非常に有名な黒人アーティストで、黒人の生活を躍動感満載で描くのが特徴。その絵には、世間が連想するような黒人のネガティブな暗いイメージはありません。差別から解放された本来の黒人の姿を二人は見るわけです。

そしてもうひとつが、最後に二人が観る映画。観ていたのは、スパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』です。初デートで映画館は鉄板と書きましたが、それでもデートにふさわしくない映画があるとは一般的には言われます。ホラーなどの残酷なジャンルとか、難解なドラマとか。この『ドゥ・ザ・ライト・シング』も、別に難解な作品ではありませんが、普通デートで観るようなタイプの映画じゃないです。少なくとも日本人、もしかしたら白人も。でも、黒人の二人が観るのは納得できます。人種差別を扱った論争的なこの作品は、全く無関係ではないですから。

本作の、黒人人種問題への直接的なメッセージ性を避けつつ、登場人物や登場素材だけで暗に示すというのは、伝記映画として上手い作りで感心しました。二人の未来を知っている観客にとって、これはリアルで回収される伏線ですよね。

サウスサイドであなたと

異なる者どうしをひとつに

それでもって、主人公のバラク。冒頭から見ていると、軽いノリのインテリ男にしか見えないのですが、話が進むにつれ潜在的な偉大さがどんどん露わになっていきます。

公民館(コミュニティ・センター)の議題で荒れる聴衆。そんな聴衆の前に立って話し始めるバラクは、政治に落胆・失望する人々を、言葉巧みにプラス思考で盛り上げていきます。アメリカの建国精神にまで触れるさまは、まさに主導者です。確かにこの男は大統領になる男なわけですよ。

ここからさらに映画を観終わった後の場面。映画の展開に不満げな上司に、これまた言葉巧みに上手く話を合わせつつ、別の視点の意見を提示しつつ、揉め事にはさせないテクニック。「こいつ、やるな」感をまた露わにするバラクですが、最後に魅せる彼の行動にグッときます。不安いっぱいのミシェルに、アイスを買ってあげてからの、ファーストキス。聞いた話を覚えている「できる男」さももちろんながら、バラクはミシェルのジェンダー的苦悩もわかっていたように見えます。この圧倒的包容力。

言葉の力で、アメリカ国民を魅了し、将来の奥さんもゲットしたバラク。そうか、政治ができる人は、恋愛もできるんだよ…(えっ)。

ここでちゃんと恋愛映画に着地するあたり、本作の良いところ。何とも言えない未来への多幸感いっぱいの余韻。この二人にはぜひ幸せになってほしい…と思ったけど、よく考えたらこの後に結婚して大統領&ファーストレディになるんだった。でも、そういうことを忘れてしまうくらい、このふたりには平凡な幸せを未来に夢見る私たちと何ら変わらない普通の人にしか見えないです。

単なるアメリカ大統領の伝記映画と侮れない、重層的な作品でした。今のアメリカ大統領のステキな映画は作られるかな…(遠い目)。

©Netflix