スノーデン
映画『スノーデン』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Snowden 
製作国:アメリカ・ドイツ・フランス 
製作年:2016年 
日本公開日:2017年1月27日 
監督:オリバー・ストーン 

【個人的評価】
 星 5/10 ★★★★★

あらすじ

2013年6月、イギリスのガーディアン誌が報じたスクープにより、アメリカ政府が秘密裏に構築した国際的監視プログラムの存在が発覚する。その情報を提供したのは、アメリカ国家安全保障局NSAの職員である29歳の青年エドワード・スノーデンだった。そして、彼の辿ってきた人生が明らかになる。

もう監視社会になってます

「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が可決・成立しました。これにより「日本が監視社会になる」と危惧する声も一部からは聞かれます。

そんな日本人にも聞き捨てならない衝撃的な告発が2013年にありました。その告発をしたのが“エドワード・スノーデン”という若者。アメリカ国家安全保障局NSAで働いていた彼の語ったことは? その内容とは要するに「アメリカ政府には米国民や他の国々の人々をインターネットを介して監視するための大規模なシステムを保有している」というもの。もちろん日本も監視されてます。つまり、「監視社会になる」どころか「もう監視社会になってた」のです。

世界中を大騒ぎにした一連のスノーデン事件。それでも知らない人もいるかもしれないし、聞いたことがある人でも詳しくは理解していない人もいるでしょう。そもそも“エドワード・スノーデン”って結局何者なの?と思っている人だっているはず。

そこでピッタリなのがこの事件をドラマチックに描いた本作『スノーデン』です。“エドワード・スノーデン”の半生と告発に至るまでの経緯を、“ジョセフ・ゴードン=レビット”主演で再現した社会派ドラマ。これを観れば、何の知識がなくともスノーデン事件のだいたいがわかるでしょう。

本作の監督はアメリカ政府権力に批判的なアメリカ人“オリバー・ストーン”。これまでも幾度となくアメリカの暗部を曝け出す作品を制作してきた政治派映画監督で有名です。

“オリバー・ストーン”といえば、最近は6月に自身がロシアのプーチン大統領に長時間インタビューするなどしたドキュメンタリー作品『THE PUTIN INTERVIEWS』を公開して物議を醸していました。米露関係の悪化を防ぎたいという思いがあったとのことですが、作品内でプーチン大統領が見せたシリアでのロシア軍の作戦を写したというビデオ映像が、米軍のアフガニスタンでの戦闘映像ではないかとの疑惑が浮上。米露関係の溝を埋める以前に、炎上ネタを提供しただけになってしまったようです。

その“オリバー・ストーン”監督がスノーデン事件をどう描くのか。この視点でも興味深い作品だと思います。






↓ここからネタバレが含まれます↓





スノーデン事件を知るきっかけに

スノーデン事件については既にドキュメンタリーがあります。それが、第87回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞したシチズンフォー スノーデンの暴露。本作『スノーデン』にも登場した、スノーデンから香港のホテルで初めて告発を聞くローラ・ポイトラス監督が製作した作品です。劇中で描かれていたようにホテルで撮影したスノーデンの生の映像が収められています。

そのドキュメンタリー作品について私の感想では「フィクションじゃないのが信じられません」と書きましたが、明らかに映画向きな実話でした。題材はこれ以上ないものですから、映画化すれば一定の面白さはあるに決まってます。

スノーデン

問題は“オリバー・ストーン”が監督をしているということです。

政治主張の強い“オリバー・ストーン”監督。当然、本作も政治色強めにアレンジされてました。ブッシュ政権への反対デモやオバマ大統領のニュースなど、何も隠さず堂々と政治要素を入れてくるあたり、相変わらず。

しかも、今回はスノーデンの境遇が“オリバー・ストーン”自身と重なる部分もあるんですね。どこにでもいそうな普通の愛国心溢れるアメリカ青年が、しだいに母国に疑心を持ち始め、やがて反旗を翻す…。監督も「これは21世紀版の俺だな」とか思ってたかもしれません。“オリバー・ストーン”の考える真の英雄譚です。

しかし、実際のところ、“オリバー・ストーン”とスノーデンは似て非なる人物だと思います。いや、むしろ対極にあるといっていいのではないでしょうか。“オリバー・ストーン”は、ガンガン自分の政治的主張を展開し、主観と映画という力でもって作りあげた強烈なメッセージにより大衆の心を動かそうとしている人です。一方のスノーデンは、こんな祖国の穢れた実態を知っても、「アメリカ、死ね」とは言わないし、特定の政党や政治家への批判活動はしない。あくまで客観的なエビデンスを重視し、議論を促す…問題提起のための情報提供者という立場を一貫して崩していない人なんですね。

別にどちらが正しいとか悪いとか、そういうことを言いたいわけではありませんが、少なくともこの映画においてはスノーデンの本質が“オリバー・ストーン”の主張に上書き保存されているため、見えにくくなっているのは事実だと思います

まあ、オリジナルデータともいえる方は『シチズンフォー スノーデンの暴露』に残っているのですから、あまり気にしなくてもいいかもですが…。

個人的には『シチズンフォー スノーデンの暴露』を観ればいいのではと思うのですが、ドキュメンタリー映画というだけで観る気も起きない人もいます。そういう意味では、本作を制作した価値はあったということで良しとしましょう。

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