三度目の殺人
映画『三度目の殺人』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:三度目の殺人 
製作国:日本 
製作年:2017年 
日本公開日:2017年9月9日 
監督:是枝裕和 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★

あらすじ

勝利至上主義の弁護士・重盛は、殺人の前科がある男・三隅の弁護を仕方なく担当することになる。解雇された工場の社長を殺害して死体に火をつけた容疑で起訴されている三隅は犯行を自供しており、このままだと死刑は免れない。しかし、三隅の動機はいまいち釈然とせず、重盛は面会を重ねるたびに、本当に彼が殺したのか確信が持てなくなっていく。

ネタバレなし感想

“是枝裕和”監督の法廷心理劇

2017年上半期の邦画の中で予想外?の大ヒットとなった22年目の告白 私が殺人犯ですは、犯罪心理劇の皮をかぶったエンターテイメント・サスペンスでした。

これはこれで実に楽しいもので結構ですが、今度は人の心をグラグラと揺らつかせるような緊迫感溢れるシリアス犯罪心理劇を見たいという人にピッタリの作品が登場しました。

それが本作『三度目の殺人』です。

監督は“是枝裕和”。“是枝裕和”監督といえば、最近も『そして父になる』『海街diary』『海よりもまだ深くといった家族を題材にしたどちらかといえばポジティブを模索するようなヒューマン・ドラマばかりを手がけてきました。ところが最新作はタイトルに「殺人」とあるように犯罪モノです。といっても直接的な残酷描写はないのですが、それでも“是枝裕和”フィルモグラフィの中では異色。とある殺人事件をめぐる弁護士と検察の、非常にリアルで濃密な法廷心理劇が繰り広げられます。しかし、そんな法廷心理劇でもちゃんと家族の物語になっているのが“是枝裕和”監督らしいところです。そこはこれまでの“是枝裕和”監督の家族ドラマが好きな人も期待してよいでしょう。

俳優のポテンシャルをいつも最大限に引き出してくれる“是枝裕和”監督作品。本作で揃った役者陣も、いつもの是枝組の面々と、新しく仲間入りした面々が半々で、皆、抜群の名演を披露しています。

主人公で弁護士を演じる“福山雅治”は『そして父になる』での好演が印象的でしたが、今回も実は父親役。こういう「仕事はエリートで家庭はヒビだらけな男」が似合ってるんですね(当の本人はきっと良い人だと思うけど!)。そして、殺害された被害者の娘役に“広瀬すず”です。“広瀬すず”を『海街diary』で見出したのが“是枝裕和”監督ですから、ある意味また親元に戻った感じでしょうか。今回は『海街diary』とは全く違う闇を抱えた少女を演じており、彼女の役者としての成長をさらに再確認できます。“是枝裕和”監督は“広瀬すず”の成長に応じてこれからも撮っていきたいと言ってますから、今後も“是枝裕和”ד広瀬すず”の組み合わせは鉄板になるのでしょう。

是枝組の初入閣メンバーで、かつ本作の顔として全てを持っていくのが、殺人の容疑者を演じた“役所広司”。詳しくはネタバレになるのであれですが、表情や細かい手の動き、佇まい…全部が常軌を逸している怪演で、さすがのベテランの貫禄。展開の乏しいドラマで、よくここまでのものを引き出してくるなと驚愕です。本作で何らかの賞は取ってほしいなぁ…。それ以外だと、出番は少ないですが、検察官役の“市川実日子”もここぞというときに絶妙な名演を見せるので注目です。

気をつけなければならないのは、本作は「実はこの人が犯人でした」という展開で驚かせるミステリーサスペンスではないということ。だから『22年目の告白 私が殺人犯です』とは全然違います。そこは心にとどめておいてください。

2017年の邦画の中では、俳優陣の熱演、ドラマの緻密性、どれをとっても本作はトップレベル級。“是枝裕和”監督の法廷心理劇を見逃すのはもったいなさすぎます。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

これが司法のリアル

本作はドラマや役者の演技云々を語る前に、まず日本の「司法」という世界を徹底的にリアルに描き切っているのが素晴らしいです。

私たち一般人にしてみれば、司法の世界はどうしてもどこか遠い場所のように思えてなりませんし、被害者か加害者にならなければ関係ないと考えてしまいがち。でも、裁判員制度がある以上、自分が人を裁く側になる可能性がじゅうぶんありうるわけです。しかし、それにしたって私たちは司法について知らなさすぎです。本作を観て、あらためて自分がどれだけ司法を理解していないかを実感しました。

弁護士が容疑者に接見する際の事前の打ち合わせ、弁護士と検察の双方揃っての打ち合わせ、弁護士が遺族へ挨拶する過程…次々と見せられる知られざる司法の裏側に「へぇ~」と馬鹿みたいに関心していました。弁護士と検察官って、あんな感じの距離感なんですかね…。

監督は今作を製作するにあたって、裁判を傍聴することはもちろん、1年以上にわたり弁護士への取材を敢行し、さらに作品の設定通りに弁護側、検察側、裁判官、犯人に分かれて模擬裁判を実施し、そこで見られた反応や言動を脚本に落とし込んでいったそうです。この監督自身が先陣を切ってリアルさへこだわる姿勢…なかなか近年の邦画にはないものであり、さすがドキュメンタリー製作も経験してきた“是枝裕和”監督なだけあります。普通は有識者にチェックしてもらうだけになりがちですし、それだとどうしても事実性よりも商業的思惑のほうが優先されかねないですから。

こういう映画作りは今の日本の映画界にとって本当に貴重だと思います。

人は人を裁けるのか

本作のテーマは監督が名言しているとおり、「果たして人は人を裁けるのだろうか」という根源的な問いかけです。

宗教を信じる人なら人を裁くのは神だと言うかもしれないですが、残念ながら人を裁くのは人しかいません。不完全な人間という存在が人を裁く以上、判決は絶対的なものが出るわけでもない。監督が弁護士に意見を聞いたとき、「法廷は別に真実を究明する場所ではないですし、私たちには真実は分かりません。法廷は利害調整をする場所です」と言われたというのもまさに司法の現実がよく示されています。だから、司法はダメだというのではなく、そういうものなんですね。メディアや被害者遺族なんかはとくに「真実を知りたい」なんて言葉をよく口にしますが、その願いを司法は叶えてくれません。

その司法の本質を映像で問いかけてくる演出の数々が本作は目を引きます。

本作はとにかく異なる人同士が対峙する場面が多いです。弁護士と容疑者、弁護士と検察官、弁護士と遺族、遺族の妻と娘、父と子…。しかし、その対峙の多さにも関わらず、そのほとんどは打ち合わせ的な利害調整に過ぎないというのがミソです。数少ない対峙が真実追及になるのは、終盤で突然の殺害否定の告白に困惑した重盛が三隅に「本当のことを教えてくれよ!」と迫るシーンくらいでしょうか。

三度目の殺人

そして、その対峙シーンではいずれも明暗の演出が効いていて、明るい部分と暗い部分がはっきりしています。まるで登場人物は決して踏み込もうとしない真実の議論を暗示するかのようです。とくに終盤、死刑判決が下ってからの接見室では、三隅は窓から差し込む日光で光り輝き、重盛がそれに照らされるという構図になっており、非常に印象的でした。そして、最後は十字路に立つ重盛。殺害現場にも、飼っていた小鳥の墓にもあった十字模様が、重盛に突きつけられる。ラストは三隅が重盛を裁いたようにも思えます。

「三度目の殺人」とあるように、何が“3度目の殺人”なのかはいろいろ解釈がとれるようになっていて、監督自身も製作段階でかなり悩んでいたそうですが、少なくとも真実が殺されたのは間違いないでしょう。

映画も忖度して観ている

本作は日本の法廷のシステムが抱える問題を問いただす社会派映画でありながら、それだけにとどまらない深みを見せるのが面白いです。

その深みとは、映画批評へのメタ的な言及にもつながるような気がしていて。それこそ、劇中にも出てきた「忖度」という言葉。私たちも映画を見ていると「この登場人物のこの時の気持ちはこうなんだろうな」と忖度しまくるわけですが、それが真実かわかりません。少なくともいえることは、その忖度した結論がどんなものになるかは、その鑑賞者にとって映画を解釈するうえで都合がいいものと同義です。私たちはそうやって映画を理解・解釈・分析・批評“した気分”になれます。

本作でも、結局、犯人は誰だったのか…という疑問は野暮です。本作の真相を推論するのは個人の自由ですが、結局、それはあなたの忖度の結果に過ぎません。本作は正解のあるミステリーではないため最後に答え合わせもないですし、真相を解き明かすヒントも散りばめられていません。でも、それはわかっていても忖度はしますよね。

犯人以外でも、例えば、被害者の娘である咲江の扱い。父からレイプされたという告白が本当かはわかりません。でも、彼女の被害者性がどんどん前面にでてくると、どうしても「哀れな真の被害者」的な存在として、理解したくなりますし、そう理解する方が気分がいいです。でも、それは真実にも向き合っていないし、あくまでこちらの都合の良さでしかないわけで。まさにその傲慢さを突きつける映画として最近はエル ELLEなんていうとんでもない作品もありましたが…。

もちろん「映画を解釈するのは悪い」と言いたいわけでもなく、そういう不確かなものなんだってことは心にとどめておこうという話です。

本作が描くテーマが意義深いのは否定しようがないですが、苦言を言うなら、作品のトーンが全体的にちょっとハイブローすぎかなとは思いました。もう少し、ふっと緩むような場面が挿入されると、逆に不意を突かれて良かったなと個人的には思ってます。それこそ“是枝裕和”監督お得意の子どもをだすとか…。

ともあれ“是枝裕和”監督の才能を違う切り口で堪能できました。「しばらくホームドラマからは距離を置くことになる」と口にしていますから、今度はどんな作品で驚かせてくれるのか。次の作品と接見するときが楽しみです。

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