サイコキネシス 念力
Netflix映画『サイコキネシス 念力』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Psychokinesis 
製作国:韓国 
製作年:2018年 
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信 
監督:ヨン・サンホ 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

あらすじ

シン・ルミはまだ若いながらも、美味しいと評判のチキンの店を営んで立派に生活していた。しかし、そこへ街の再開発計画で商店街を潰そうとする建設会社の集団が現れて、店を破壊する。商店街の住人は権力の横暴になすすべもなかった。一方、娘と疎遠になっていたシン・ルミの父は、変な味のする水を飲んだことで不思議な力を手に入れてしまい…。

ネタバレなし感想

アベンジャーズに負けてられない!

ゾンビと一緒に列車に乗ってしまい、さあ大変!な韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』は日本でも口コミで支持を広げ、ふだん韓国映画を見ない層にもリーチするような目覚ましい仕事を遂げてくれました。
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この映画は、韓国映画界では珍しい「ゾンビ」というジャンルでヒット作を作るというエンタメ映画の枠を広げた大きな功績を残したわけですが、それで才能を見事に発揮した新鋭監督“ヨン・サンホ”は、また新しいエンタメ映画の拡大を次作でやってくれました。

それが本作『サイコキネシス 念力』です。

簡単に言ってしまえば、本作は「ヒーロー映画」。ある日、突然、超人的能力に目覚めた主人公が社会に蔓延る悪を倒して正義をうんたらかんたら…というやつです。面白いのは、この『サイコキネシス 念力』の超人的能力を発揮する主人公は、どこにでもいるボンクラな“おっさん”だということ。日本でも偶然ですが“おっさん”が超人的ヒーローになる『いぬやしき』という実写映画が公開されていますが、なんでしょう、アジアのヒーローはダメオヤジ的な“おっさん”がトレンドなんですかね

そのおっさんを演じるのは、『7番房の奇跡』でも名演を披露した“リュ・スンリョン”。そして、その娘を『サニー 永遠の仲間たち』や『少女は悪魔を待ちわびて』など代表作を抱える名女優“シム・ウンギョン”が演じます。まあ、この二人が揃っていれば安定ですね。さらに、『トガニ 幼き瞳の告発』や『新感染 ファイナル・エクスプレス』で印象的な役だった“チョン・ユミ”が、今作では全く正反対のキャラで登場するのでそれにも注目です。

“ヨン・サンホ”監督は、『悪女 AKUJO』のチョン・ビョンギル監督と並んで、韓国映画界を新しい世界へと開拓していってくれる人物だと思うので、今後も注目したいですね。
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『サイコキネシス 念力』は、韓国では2018年1月に劇場公開しましたが、日本含む世界では4月にNetflix配信となっています。 世間は「アベンジャーズ」一色ですが、同じアジア人として、韓国ヒーローも応援してみてはどうですか?






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ネタバレあり感想

よし、金儲けだ

本作を観た人の大半は思った以上にコミカルだなという印象を感じたでしょうが、確かに凄く漫画的でした。“ヨン・サンホ”監督自身がアニメーション畑の人というのもあるのかもしれませんが、今作は『新感染 ファイナル・エクスプレス』以上にキャラクターの戯画化が激しいです。

その真骨頂が超能力を手に入れてしまうダメオヤジのシン・ソッコン。職場でコーヒーを常習的に盗みながら、清掃のおばさんにも盗みを勧めつつ、いざおばさんが捕まると知らんぷりという序盤のシーンからして、この男のクソっぷりがわかります。そして、超能力があることを自覚した瞬間、真っ先に金儲けに走るあたりは、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』でも見た流れ
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まあ、『サイコキネシス 念力』はちゃんと犯罪ではなく、ナイトクラブでマジシャンとして働こうとするあたり、まだ真面目ですけど。

ただ、その超能力の使い方が前半はとにかくダサく、腰をクネクネさせたり、舌をチロチロさせたり、そりゃあ娘も呆れるよというカッコ悪さ。ネクタイを蛇のように動かすとかも、なぜか“リュ・スンリョン”がやるとイカサマ臭く見えるという、完全にビジュアルで損しているパターン。おっさんは辛いんです…。

鳥だ!飛行機だ!いや、おっさんだ!

このコミカルさは普通にやったら一定の観客からは幼稚すぎると反発を受けるタイプであり、邦画なんかがよくやりがちな禁じ手なのですけど、今作の場合、あえて低俗な笑いをとっている狙いがしっかりあり、その答えとなるのが後半のダメオヤジ能力全開放シーン。

留置所の鉄格子を破壊し、全員を吹き飛ばした後、警察署のビルの壁をぶち破り、一気に空高く舞い上がる一連のシーン。これまでのダサさが一転して、一気にカッコよさが急上昇する場面であり、最高のカタルシスをもたらします。これぞヒーロー映画の醍醐味です。

本作はアニメーションをもともと手がけていた“ヨン・サンホ”監督らしい持ち味があって、それは超能力の見せ方。ちゃんと変にカットを挟まず、シームレスで見せることで「本当に超能力だ!」という感じを上手く演出していますよね。これが下手だと、作っている嘘の能力だと(もちろん映画だから実際には作っているのですけど)観客が感じてノイズになるので、そこはさすがだなと。

その“超能力は見せ方を間違えると嘘っぽくなる”というのをギャグにしているのが、中盤で描かれる商店街を壊そうとする建設会社のミン社長が超能力を使ってやられた映像を警察に見せるシーンですね。「ストップ!決定的証拠です。ぱぱぱぱぱぱぱ!」とか言いながら、コマ送りで見せるのですけど、全然超能力にはその材料からは説明になってないのが笑えます。コマ送りのアニメではなく、シームレスな実写だから超能力をリアルに描けるという説得力は、“ヨン・サンホ”監督ならではの視点じゃないでしょうか。

サイコキネシス 念力

韓国のヒーロー論

韓国はヒーロー映画が乏しいので、まだまだ私も「韓国のヒーロー論」を語れる素材が少なく、語り口に困るのですが、それでも本作を観て思ったことがひとつ。

アメリカはヒーローのベースには「愛国心」があって、今はそのカウンターカルチャーもしくはオルタナティブな側面を担っているのが現在のアメコミ映画だと思っています。

一方の韓国はベースに愛国心はありません。これは日本も同じ。ただし、日本と違って、明確に権力と対立する構図があるような気がします。本作でも劇中で建設会社を恐怖でコントロールする女上司が言っていました。韓国では国が力であり、私たちは奴隷なのよ…と。成功したければ、それに乗っかりなさい…と。

韓国映画ではヒーロー映画以前にも社会派作品ではたいてい政府、警察、大手メディア、大企業など権力組織は敵になりがちです。日本人にしてみればここまで悪く描くことはないのに…というくらい徹底してクズに描かれたりします。

それはもちろん映画としてそういう大味のほうが面白いというのもありますが、実際の韓国の歴史が原点にはあるんですね。例えば、本作の再開発をめぐる住民との対立。これはソウル龍山(ヨンサン)再開発地区立ち退き住民火災事件というのが本当にあって、死者もでて大騒ぎになっています。また、あの高圧的な女上司だって、ちょうどタイムリーなことに大韓航空の女性専務の傍若無人なパワハラが問題になっているニュースと重なるものがあります。決して戯画化されたフィクションだとバカ笑いもできないわけです。

そんな中での、このダメオヤジのヒーローの登場は、韓国が未来にどうなっていきたいかを模索しているようにも感じます。私は「ヒーロー映画を創るということ」は「その国や社会の理想を追求すること」だと思っています。その取り組みは始まったばかりです。

いつか本作のおっさんも交えて、日中韓のアジア版アベンジャーズを作れるようになるといいですね。

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↑ヨン・サンホ監督の『新感染 ファイナル・エクスプレス』。エンタメと社会風刺のバランスが絶妙。
(C)Netflix