パトリオット・デイ
映画『パトリオット・デイ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Patriots Day 
製作国:アメリカ 
製作年:2016年 
日本公開日:2017年6月9日 
監督:ピーター・バーグ 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★

あらすじ

2013年4月15日。ボストン警察の殺人課に所属する刑事トミーは「愛国者の日(パトリオット・デイ)」に毎年開催されるボストンマラソンの警備にあたっていた。50万人の観衆で会場が埋め尽くされる中、トミーの背後で突如として大規模な爆発が発生。壮絶な102時間が始まる。

他人事では観られない

2017年もテロ事件が止まりません。

5月22日にはイングランド・マンチェスターのコンサート会場で22人が死亡する自爆テロ事件。5月24日にはインドネシア・ジャカルタで1人が死亡する自爆テロ事件。5月31日にはアフガニスタン・カブールで死者150人以上のテロ事件。6月3日にはイギリス・ロンドンで死者数名の通り魔事件。6月5日にはオーストラリア・メルボルンで1人が死亡する立てこもり事件。6月7日にはイラン・テヘランで13人が死亡する同時攻撃テロ事件。

「911」以降、負の連鎖が続いていますが、一体いくつの悲劇が起きたのでしょうか。あまりに連続するものですから、記憶から風化されるというよりはパンクしそうです。

そんな数多のテロ事件のひとつである、2013年に起きた「ボストンマラソン爆弾テロ事件」を題材にした映画が本作『パトリオット・デイ』です。

監督は、つい最近の4月にもバーニング・オーシャンが日本で公開されたばかりの“ピーター・バーグ”。主演は“マーク・ウォールバーグ”。この二人のタッグは、『ローン・サバイバー』『バーニング・オーシャン』と続いて3度目です。

「またこの二人かよ、主役くらい変えたらいいのに」と思うのも無理ないテンプレですが、今回は“マーク・ウォールバーグ”が演じる意味が一際強い作品なのです。というのも、彼は舞台となるテロが起こったボストン出身なんですね。なんでもティーン時代はかなりの悪ガキだったそうで、何度も地元警察のお世話になっていたらしく。そんな人が、大人になってボストン警察官を演じているのも不思議な縁です。本作は、ボストンへの地元愛があるからこそ生まれた映画といえるでしょう。

でも、その“マーク・ウォールバーグ”も当初は映画化に難色を示していたそうで。そういう反応を示したのは彼だけではありません。それもそうです。なんていったってたった3年前の出来事ですから。ハリウッドで映画にするということは少なからずエンターテイメントの要素が加わるわけで、不謹慎と考えるのも当然。被害者や遺族も相当辛いだろうし、当事者が本作を観るのは覚悟がいるはず。実際、当事者ではない私でさえ目を背けたくなるほどでした。

しかし、いざ公開してみれば、評価はトップクラス。この流れはポール・グリーングラス監督の『ユナイテッド93』という映画を思い出しますね。こちらは2001年9月11日の全米同時多発テロでハイジャックされた航空機を生々しく描いた作品。公開前から批判されましたが、公開後は一転して高評価。

↑こちらもかなりの衝撃的な再現。

本作はあの“ピーター・バーグ”監督であり、そんなエンタメで茶化した内容になるわけありません。その点は非常に期待して良いです。

ただ、過去2作の実録ドラマと決定的な違いがあって、それは市民生活に密接な事件だったということ。過去2作は離れた場所でしたから「あー、大変だったんだなー」という傍観者の視点で観れます。ところが、今回は街中。犠牲者は普通の市民です。他人事では観られないです。

無論、それは東京オリンピックを控えた私たち日本人にとっても全く関係ない映画ではないです。費用負担のことで頭が一杯の行政の皆さんはぜひ本作を観て頭を切り替えてほしいし、市民の皆さんは一致団結して安全性を確保するように行政のケツを叩かねば…そう思わせる映画です。






↓ここからネタバレが含まれます↓





器用にドンパチを描ける“バーグ”コンビ

さすが“ピーター・バーグ”監督、映像の生々しさや緊迫感が凄まじいです。

最初の衝撃シーンであるマラソン現場での爆発から一気にやられます。悲鳴、土煙、血だまり、血まみれの人、地面に転がる肉片…男性、女性、幼い子どもまで、数えきれない犠牲者たち。覚悟してましたが、ここまでリアルでくるとは…。これ、日本公開版はカットなしでオリジナルをそのまま流しているのかな? 作り手側も相当キツかったろうに。でも、逆に製作陣の「妥協なく映像化するんだ」という姿勢が真っすぐ伝わってきたので、ここからは私も一層身を引き締めて映画に臨みました。

対する、後半の衝撃シーンを飾るのは住宅地での警察とテロリスト二人の銃撃戦。いや、銃撃戦というか、銃弾vs爆弾みたいな感じでしたが。この場面、映画的なオーバー演出なのかと思ったら、爆弾反撃もテロリストが仲間を轢いていく展開も本当にあったことなのだから、衝撃しかないですよ。さすがに爆発の威力は盛っていると思いますが…。

この2つの衝撃シーンで、凄惨な史実を再現する社会的使命という映画化の真面目な部分と、純粋なエンタメを提供するという映画化の娯楽部分を、双方とも満たすあたり、さすがのバランス感覚。この器用さは、“マイケル・ベイ”や“ローランド・エメリッヒ”といった他の大作爆発映画監督にはない持ち味だと思います。

パトリオット・デイ

アメリカ万歳にはならない巧みさ

本作は『パトリオット・デイ』というタイトルだし、さぞ「アメリカ万歳!」な映画なのだろうと考える人もいるかと思いますが、実際はそれほどうっとおしいものはありません。

これも“ピーター・バーグ”監督らしい最小限のドラマで、史実に対するこの俯瞰した冷静な描き方ができるからこそ。

また、本作は“マーク・ウォールバーグ”演じる主人公トミーが、過去2作ほど事件の中心にはいない人物であり、あまりヒーロー然とはしていません。彼の役目は目撃者であり、観客の目になること。むしろ、この悲劇に向き合ったボストン市民(もしくはマサチューセッツ州民)にスポットをあてています。序盤で犠牲になる市民の生活を描くなど、群像劇的ともいえるつくりです。しかも、そのなかにテロの首謀者である犯人たちの暮らしも描いているわけです。

今回の犯人は移民ですが、下手したらトランプ論調的に「移民排斥」につながりかねない映画。しかし、本作は犯人さえもマサチューセッツ州民の一員として対等に描いているので、ここもバランスが上手い。

“ピーター・バーグ”監督はなんなんだ、綱渡りの名人かなにかなんでしょうか。

今後も『Stronger』という「ボストンマラソン爆弾テロ事件」で両足を失った被害者の映画が公開されるそうで、またこの事件と向き合う日が来るでしょう。

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