ディストピア パンドラの少女
映画『ディストピア パンドラの少女』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Girl with All the Gifts 
製作国:イギリス・アメリカ 
製作年:2016年 
日本公開日:2017年7月1日 
監督:コーム・マッカーシー 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

爆発的に蔓延した真菌の突然変異が原因の奇病により、大多数の人間は思考ができず生肉のみを食すハングリーズと化した近未来。生き残った人々は壁に囲まれた基地内での生活を余儀なくされていた。そんな中、とある基地ではウィルスと共生して思考能力を保っている子供たちの研究が行われていたが…。

突然変異を遂げたゾンビ映画

ゾンビ映画というのはエンターテイメントとして非常に人気の高いジャンルです。バイオハザード ザ・ファイナルのような世界的超大作もあれば、アイアムアヒーローのような日本を舞台にした作品もヒットしました。また、作品によってホラー要素が濃いものがあったり、コメディ要素が強めだったりと、幅があるのも特徴です。ゾンビ映画を普段親しんだことのない人にしてみれば、死人が「う~う~」声をあげながら迫ってくる“子どもっぽい”映画に思うかもしれませんが、あらゆる方向性へ展開できる潜在的可能性を持っている奥が深いジャンルだと私は思います。

そんなゾンビ映画の可能性をあらためて実感できる作品が本作『ディストピア パンドラの少女』

本作はあらすじを見るかぎりは、よくあるベタなゾンビ映画です。「ハングリーズ」や「セカンドチルドレン」といった固有名詞が出てきたり、隔離された施設での謎の研究とくれば、SF要素の強いゾンビ映画なのかな?と思うでしょう。真菌の突然変異によって人がゾンビ化した世界と聞くと、「The Last of Us」という世界的に高い評価を得たTVゲームを連想する人も多いのではないでしょうか。

確かにそのとおりなのですが、本作はそこから意外な要素が強調されていきます。これは予告動画からは全くわからないです。ネタバレになるのでこれ以上書けませんが、本作のオチを観終わったとき、ゾンビ映画にこういう展開のさせ方があったのかと、私は感心しました。原作である小説「パンドラの少女」の著者自身が脚本を手がけたこともあって、安直なエンタメ作品にはなっていません。

もちろんスリラーの部分も非常に良く出来ていて、映像にぐいぐい引き込まれます。そして、数々の映画祭で新人賞として注目された主演の女の子“セニア・ナニュア”の演技は素晴らしいです。

突然変異を遂げたゾンビ映画、ぜひその目で確かめてください。






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怒涛の30分間

まず本作の他のゾンビ映画にはない意外な要素の話はさておき、スリラーの部分の出来が非常に良かったです。とくに序盤の車で基地を脱出するシークエンスまでで、作品にグッと魅了されます。

謎の施設で車いすに拘束されながら授業を受けている子どもたち。この時点で何が何だか観客にはわかりませんが、軍曹が一人の子どもの前に腕を差し出すと豹変。まさに「ハングリーズ」…一気に映画の緊迫感が増します。

メラニーが研究室へ連れていかれる過程で、初めてカメラが外の世界を向き、映し出されたのはフェンスの向こうにいる大量の大人ハングリーズたち。ここでいかにも定番なゾンビ映画の様相をみせます。そして、研究室にてメラニーの解剖が行われようとしたその時、サイレンが鳴って…。ここのシーンが個人的に印象に残っていて、サイレン直後に研究室の向こうから駆け寄って来る人影がガラスごしに見えるわけですが、兵士かな?と思ったらまさかのハングリーズ乱入。阿鼻叫喚の地獄絵へと変貌するテンポよさが上手いです。

最後は、メラニー、ヘレン・ジャスティノー先生、コールドウェル博士、パークス軍曹、他兵士たちを乗せた軍用車が基地を後にして平原を疾走していく。ここまでわずか30分間。掴みが完璧です。

監督の“コーム・マッカーシー”はTVドラマで活躍してきた人ですが、短い時間で魅せるテクニックがいかんなく発揮されてました。

ディストピア パンドラの少女

授業の時間です

怒涛の勢いで始まった本作の物語は、このまま半分ゾンビなメラニーという爆弾を抱えたことで起こるサスペンスを観客に提供していくのかなと思ったら、ちょっと様子が違います。

とくに子どもたちのハングリーズが登場してからです。序盤の施設にいた管理下におかれたハングリーズの子どもたちと異なる、まるで野生状態のような意思を持ったハングリーズの子どもたち。最終的には、密閉されたラボにとどまるヘレンが、メラニーがまとめるハングリーズの子どもたちに青空教室をしているシーンで結末を迎えます。これは、よくある人間とゾンビの共存エンド以上の深みがあるシーンだと思いました。

なぜならこんなに共存に必要な手段を明確にみせるゾンビ映画はありませんでしたから。その手段とは「教育」。

本作はゾンビ映画の体裁で「教育」を描く映画だったんですね。そもそもメラニーが他の子と何が違うのかといえば、“学ぶこと”に人一倍積極的なのです。外に出てからも常に学ぶ姿勢を見せていました。

本作の世界観は普通に現実に当てはまると思います。例えば、世界中に兵士として血生臭い行為をせざるを得ない子どもたちがたくさんいるわけで、そういう子たちに必要なのはやはり教育なのです。管理や支配でもない。優れた科学技術でもない。圧倒的な力を持つ戦士でもない。教育こそが世界を変えるのだと…本作はそう伝えているのでしょう。

ゾンビ映画が教育の大切さを教えてくれるとは思いませんでした。

(C)Gift Girl Limited / The British Film Institute 2016