母が教えてくれたこと
映画『母が教えてくれたこと』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Other People 
製作国:アメリカ 
製作年:2016年 
日本では劇場未公開:2016年にNetflixで配信 
監督:クリス・ケリー 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

あらすじ

恋人と別れて、仕事もイマイチなニューヨーク在住のコメディライターのデヴィッドは、余命わずかな母親のため故郷へ戻ってくる。実家には、保守的な父親と、10年ぶりに会う年の離れた妹がいて、孤独感を味わう毎日。そして、母の体調は日に日に悪くなっていき、デヴィッドの気持ちも落ち着かず…。

ネタバレなし感想

隠れた名作インディペンデント

インディペンデント映画好きなら当然Netflixを利用していると思います。もし「インディペンデント映画は好みだけどNetflixは眼中になかったな」という人がいたら、今すぐお試し登録だ!…というダイレクト・マーケティング(まあ、私はNetflixから1円も貰ってないのですけど)。

そんなお節介ではありますが、Netflixにインディペンデント映画が集中しているのは事実。今、日本在住の映画ファンが海外のインディペンデント映画に気軽に触れられる数少ない場になっています。ただ、あんまりNetflix側もそこのところをセールスポイントとして大きく宣伝はしてないので、このブログは勝手に全面アピールしていきたいと考えてます。思わぬ拾いものがあるかもしれませんよ。

今回、紹介する『母が教えてくれたこと』も、Netflix配信の隠れた名作インディペンデント映画です。

本作は、アメリカのコメディバラエティ番組『サタデー・ナイト・ライブ』の脚本を手がけてきた“クリス・ケリー”の監督デビュー作。監督としては新鋭ながら本作の評価は非常に高く、2016年のインディペンデント・スピリット賞で出演した“モリー・シャノン”が助演女優賞を受賞したほか、多くの部門でもノミネートされました。アメリカのエンタメ業界雑誌「Variety」でも「2016年に最も過小評価された映画」 のひとつとして紹介したほどです(ちなみにこの「2016年に最も過小評価された映画」 の中には他にもシング・ストリート 未来へのうた怪物はささやくが掲載されていました)。

本作のあらすじを読んでもらうとわかるとおり、いわゆる“難病モノ”です。それに邦題と合わせると、日本でも高く評価された湯を沸かすほどの熱い愛を連想する人が少なくはないはず。あれは余命幾ばくもない母が問題を抱える家族の面々のために何かをしてあげるという映画でした。しかし、本作は、この世を立ち去る者がこの世に生き続ける者に教訓もしくは励まし的な届け物を与えていく…そういう話ではありません。もちろん、その要素も全くないわけではないですが、そこが主題ではないんですね。

じゃあ、何なのか? それは見てのお楽しみということで。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

役者の演技にどっぷりと

主人公がコメディライターということからもわかるように、本作は“クリス・ケリー”監督の半自伝的な物語だそうです。そのせいか、ドラマ自体はとてもリアルで生々しく、胸を打ちます。悪いイメージの“難病モノ”にありがちなステレオタイプなストーリーには感じさせません。

そのリアルなストーリーに役者陣の素晴らしい名演が加わるわけですから、そりゃあ、いい映画になるのも当然。

平滑筋肉腫という珍しい癌に苦しむ母・ジョアンを演じた“モリー・シャノン”は、さすが助演女優賞を受賞しただけあって、お見事。“難病モノ”の病気を背負う役というのは、いやらしい見方をするなら、たいていの役者にとって評価にもつながりやすい役ですが、“モリー・シャノン”はきっちり体を張ってましたから、納得の評価ですね。どちらかといえばコメディ畑の女優でしたから、こういう作品で評価を得られて良かったなと思います。

主人公デヴィッドを演じた“ジェシー・プレモンス”も繊細な役をとても上手くこなしていました。最近だと『ブリッジ・オブ・スパイ』に出演していた印象くらいしかなかったのですが、こんな良い主演映画に巡りあえるとは。

インディペンデント映画は飾り気がないからこそ、純粋に役者の演技にどっぷりつかれて酔いしれるのが良いですね。

コメディの副作用は熟知している監督

コメディライター“クリス・ケリー”監督なので当然のように本作にもコメディの要素が比較的目立っているのも特徴です。なので半分はコメディ映画でした。

吐きっぱなしの母の目の前で股間を舐める愛犬を「見たくないわ」と言われて家族がしきりに止めさせようとするくだりや、讃美歌を隣に負けじと歌うシーン、作り話にしてはハチャメチャな会話をする祖父母などなど、笑っちゃう場面はいくつもありました。

牧師が400ドルで売ってるという病気が治る杖もアホな話。癌には効かないけど、腰痛には効くみたいだから…って、すっごく露骨な難病ギャグ! ちゃんと後半に「あの牧師逮捕されたのよね」というオチがついてましたが。

それでいて変歯で笑わそうとする人には冷たい反応など、ちゃんとギャグは場を凍らせるという副作用もわかったうえでの使い方

これらユーモアセンスと“難病モノ”との混ぜ合わせ方のバランスが絶妙で、さすが本職といったところ。これのおかげでいわゆる“お涙頂戴”になっておらず、とても気持ちよく観ることができます。

母が教えてくれたこと

他者に気づいてあげて

本作の原題は「Other People」です。まさにこの「他者」というのが本作のテーマになっています。

冒頭、母・ジョアンを失い、ベッドで集まって悲しみにくれる残った家族たちがいきなり映ります。これこそジョアンにとっての「Other People」です。そしてこのシーンで印象的なのは、留守電が入り、相手の人の「病気って聞いたのだけど」と場違いな会話が流れてきます。ここでこの残った家族たち「Other People」のさらに外側にいる「Other People」を示す…この演出が効いてます。

結局、本作は「他者に目を向けること」を描いたお話しだったと思います。自分に余裕がなくなってくると他人がどうでもよくなってきますからね。よくわかります。

例えば、デヴィッドの父は、息子がゲイだとカミングアウトしてもそれと向き合わなかったわけで、最後にその事実と直面して、受け止めることになります。対するデヴィッドもまた、仕事が上手くいっていないことに加え、LGBTQにありがちな孤独感に、自ら心を閉ざしていました。実は彼の周りの人間は結構心配して手を差し伸べてくれる良い人ばかりなんですが。「宗教が助けてくれるかと思ってた」というデヴィッドのセリフのとおり、全体的に受け身なんですね。

他者を意識するといえば、本作はモブキャラ、どころか背景にさりげなく映るちょっとした人物にさえ製作者の意図的なものを感じます

例えば、ゲイバーでデヴィッドが話し込んでいるとき、背景で車いすの男性が横切ったり、はたまた便秘薬が見つからない!とパニックになっているデヴィッドに「ここにあるよ」と教えてくれた女性店員が足をひきづっていたり。

この名も知れぬ「Other People」も辛い人生を今まさに生きている最中なんですね。世界には苦しみながらも生きている人がたくさんいる!なんていう言葉は偽善的で恥ずかしいですが、でも事実。だからといって、自分を甘やかすな、弱音を吐くなと言いたいのではなく、“支え合おうよ”という優しいメッセージだと感じました。わたしは、ダニエル・ブレイクにも通じる“相互補助”の大切さですね。

“難病モノ”としてとても真っ当で普遍的な魅力のある作品でした。

©Netflix