ワン・オブ・アス
Netflixドキュメンタリー『ワン・オブ・アス』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:One of Us 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:ハイディ・ユーイング、レイチェル・グレイディ 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★

あらすじ

独自のルールを厳格に守り抜くことで排他的な社会を形成するユダヤ教ハシド派。しかし、信念と伝統に縛られたその超正統派コミュニティに疑問を持ち、そこから抜け出そうとする者もいた。初めて外の世界に触れた彼らに待ち受けていたのは、信じられないほどの自由。そして、思わぬ苦難。アメリカに生きる元ハシド派の人々を追いかけた衝撃のドキュメンタリー。

ネタバレなし感想

宗教の知られざる裏側

賞レースがヒートアップしている中、今回、紹介する『ワン・オブ・アス』というドキュメンタリーは、米アカデミー賞ドキュメンタリー賞のノミネート“候補”の15作に選ばれた作品です。ノミネートされるかはわかりませんが、非常にインパクトの強い作品なのは間違いありません。

本作の監督は以前に『ジーザス・キャンプ〜アメリカを動かすキリスト教原理主義〜』というドキュメンタリーを製作したことで話題になりました。当時の米アカデミー賞ドキュメンタリー映画賞にノミネートされましたし、映画評論家の町山智浩さんが取り上げて解説したりして、多少日本でも注目はされましたよね。この作品はキリスト教の中でも「福音派」と呼ばれる人たちの活動を追いかけたものでした。傍から見れば非常に過激に見えるようなその活動内容に迫った内容は、とにかくショッキング。宗教の負の側面について否応にも考えさせられます。

そんな監督がキリスト教福音派の次にターゲットにしたのは、やはり宗教。それはユダヤ教の「ハシド派」と呼ばれるコミュニティです。

まず私たち日本人には「ユダヤ教」自体があまり身近でなく、よくわからないですよね。

世界三大宗教は「仏教、キリスト教、イスラム教」らしいですけど、そこにさらに加えて5大宗教として語るなら、ヒンドゥー教と、そしてユダヤ教が挙げられてきます。ユダヤ人の民族宗教であり、唯一神ヤハウェを神とし、タナハを重要な聖典としています。ユダヤ教があまりピンとこない理由は、おそらくその歴史にあるのでしょう。ホロコーストの悲劇を経験したユダヤ人は世界中に散らばり、ユダヤ教も他の宗教と違って特定の国家と強い結びつきがありません。

しかし、そんな歴史の影に埋もれたように見えても、ユダヤ人の影響力は大きいです。スティーヴン・スピルバーグなど映画界の大物もユダヤ系ですし、先日、来日したトランプ大統領の娘イヴァンカ・トランプもユダヤ教に改宗しています(夫がユダヤ教のため)。

そのユダヤ教も、正統派、保守派、伝統派、改革派などいくつかの“派”が存在しており、その中でもとくに過激とされているのが正統派のひとつで超正統派とも呼ばれるハシド派なんですね。

それがどう過激なのかは、実際に本作を観てください。自分の知らない世界の闇をまた知ってしまった感じですが、知らないよりは知るべきですから。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

自分がどこに属したいのかわからない

本作は『ジーザス・キャンプ〜アメリカを動かすキリスト教原理主義〜』のトランス状態になった子どものような衝撃的映像はほとんどないので、そういうのを期待していると物足りなかったかもしれません。しかし、この映像の乏しさはハシド派が閉鎖的で外界から断絶している証拠でもあるわけで、深刻さの裏返しと思えばいいでしょう。

黒い帽子、黒い服、長い髭…独特の姿の男たちが一堂に集まる風景。ここはどこか遠くにあるマイナーな異国の地…ではありません。ニューヨーク・ブルックリンです。

ハシド派の実態を語るのは3人の脱退者。

エティは、夫の家庭内暴力に耐えきれず夫を警察に通報しますが、「たとえ何があっても仲間を警察に突き出してはいけない」というハシド派の戒律により、コミュニティから非難されます。口での抗議だけならまだしもですが、その抗議は常軌を逸しており、監視・脅迫まで…。最終的にハシド派全面支援の夫に裁判で負けてしまい、親権を夫に奪われる結末。救いはありません。

アリは、若いうちにハシド派を抜け出した若者。印象的なのはインターネットをめぐる話。徹底的に情報化社会を敵視するハシド派から出て、初めてネットの世界に触れたアリ。「ウィキペディアを見て言葉が出ないくらい驚愕した」「神からの贈り物だと思った」そんな発言をする若者が今のアメリカに存在するなんて…。そんな彼にも幼いころにサマーキャンプの校長にレイプされた過去があり…。“まだ汚れていない”2歳の妹がいるという言葉もズシンときます。

ルーザーは、コミュニティを飛び出し、俳優を目指します。が、道は険しく。十代の頃はビデオ店でこっそり映画を買って、夜中にこっそり見たと語り、映画が外の世界を知るアイテムだったエピソードはちょっと『ウルフパック』を思い出しました。

重要なのはこの3人はハシド派から離れても辛い目に遭っていることです。ハシド派と外の世界、二つのコミュニティから拒絶されて行き場を失う姿。「自分がどこに属したいのかわからない」…悲しい言葉でした。

ワン・オブ・アス

日本も無関係ではない

こういう宗教を題材にした作品の感想でたびたび見られるのですが、「日本では関わりのない話です」みたいなコメントを見ると個人的にはガッカリします…

確かにユダヤ教、それもここまで厳格な宗派は日本では身近ではありません。

いや、でもちょっと待ってください。宗教でなくとも、こういう宗教的な規律で人をコントロールすることは日本でも珍しくないでしょう。一番最初にそれを大規模に体験するのは「学校」です。髪型、髪の色、靴、スカートの丈の長さといったファッションは統一され、インターネットやスマホの利用などプライベートに関わる領域にも管理は及ぶこともあります。このコントロールについて実施者側は「社会のため」「教育のため」ともっともらしいことを言います。でも、本当にそれが正しいのかと議論することさえ許されない風潮も存在し、反発すれば非社会適合者としてレッテルを貼られます。

それって本作が題材にしているハシド派と根本的には何ら違いはないのではないでしょうか。

だからといって宗教など人をコントロールするコミュニティを全否定しているわけではありません。コミュニティを抜けたからと言って宗教を捨てたわけではないし、作品中でも安息日には開放的に楽しく過ごす元ハシド派の人たちが映っていました。

本作の描きたいテーマはタイトルのとおりです。「個人のためのコミュニティ」なのか「コミュニティのための個人」なのか。

元ハシド派の支援グループ「フットステップス」だってコミュニティです。こんな個人の幸福を最大限に尊重するコミュニティが増えていってほしいものです。

©Netflix