オー・ルーシー!
映画『オー・ルーシー!/OH LUCY!』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Oh Lucy! 
製作国:日本・アメリカ  
製作年:2017年 
日本公開日:2018年4月28日 
監督:平柳敦子 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

Plot Summary

退屈な職場で働くだけの毎日を送る43歳の独身OL節子。ひょんなことから通うことになった英会話教室の授業で、教室内では金髪のカツラをかぶり「ルーシー」というキャラになりきることを強いられた。アメリカ人講師ジョンによるこの風変わりな授業によって節子の眠っていた感情が解き放たれ、節子はジョンに恋をするが…。

ネタバレなし感想

マイ・ネーム・イズ・ルーシー

日本社会の負の側面を描いてカンヌでパルムドールに輝いたことでちょっとした議論も巻き起こした『万引き家族』ですが、他にも日本の闇に切り込んで世界的に高く評価された邦画が2018年は公開されていました。

それが本作『オー・ルーシー!』です。

アメリカの映画批評サイト「RottenTomatoes」では批評家からなんと100%の超高評価支持を獲得し、称賛の嵐。インディペンデント・スピリット賞では新人作品賞にノミネートされるなど、その評価はじゅうぶん注目に値します。…なのですが、日本では話題にあまりならず。海外で評価される日本作品は国内では冷遇されがちという日本映画業界のガラパゴスっぷりをここでも残念ながら発揮している状況です。まあ、本作は公開時期が地域によってズレているので、話題になりにくいのですけど…。

監督はニューヨーク大学大学院で映画を学んだ“平栁敦子”という人で、その修了作品として製作された短編『Oh Lucy!』が世界で評価され、それを長編映画化したのが今作となっています。

本作は、製作総指揮にウィル・フェレルやアダム・マッケイというコメディ映画のトップクリエイターの名前が並んでいることからも窺えるように、独立系ながら立派な貫禄です。たまに「日本の映画は海外に比べてダメだ」なんて聞きますが、それは世界で支持されている邦画の存在を知らないだけ。世界にはこんなに新しい才能を開花させている日本人監督がいるんですから。

主演は女優としての実績はじゅうぶんで日本なら誰でも知っている“寺島しのぶ”。個人的には本作は“寺島しのぶ”のベストアクトではないかと思います。その彼女がなんとあの『パール・ハーバー』や『ブラックホーク・ダウン』などの大作で有名になった“ジョシュ・ハートネット”とガッツリ共演するという謎の組み合わせ。さらに、その二人に、『孤狼の血』でも名演を見せた“役所広司”や、『デッドプール2』でキュートな姿を見せた“忽那汐里”が絡んできて、これだけ聞くとカオス。唯一、“寺島しのぶ”演じる主人公と姉妹役で出演する“南果歩”の存在が慣れ親しんだ感があります。

内容はブラックコメディと言うのが一番いいのかな? 海外で評価されるユーモアを生みだせる“平栁敦子”監督は凄いですね。どうしても邦画のコメディはバラエティ番組っぽくなってしまって、海外受けしづらかったりしますし。また、血縁や会社など既存のコミュニティから脱却した幸せの在り方を提示する作品でもあり、これは最近の世界的映画界で支持されているテーマ性とも一致します。

おそらく日本人が観た場合と外国人が見た場合とで、笑いのポイントなど印象が変わってくる作品でもありますから、そんなことを考えながら鑑賞するとよいのではないでしょうか。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

コミュニケーションに欠かせないもの

本作を観て思い出したのが、自分が外国人と会話したときのこと。

例えば、相手が英語圏の外国人で、自分が拙い英語で必死に言葉を伝えようとする場面があったとします。当然、言語としての会話は全然ダメダメなんです。でも、なぜかコミュニケーションしている!という不思議な解放感も感じたのですよね。これは言語が通じ合える日本人相手では体感したことがないようなものでした。

言葉が通じない異国の相手の方がコミュニケーションできている幸せを感じるという不思議な逆転現象。なぜそんなことが起こるのか。その答えはこの映画にあったと思いました。

節子は家では独りぼっち、職場では中年独身OLという立場のせいか浮いています。そして、その職場では全くコミュニケーションなんて成立していません。裏では陰口を言い合い、上司なんてろくに節子を見ずに会話するだけ。こんな極端な事例でなくても、同一コミュニティにいる日本人どうしだと、相手への偏見や先入観、はたまた遠慮や忖度がまず先に立ってしまい、コミュニケーションがおざなりになることが多くないでしょうか。

対して、節子は外国人相手になると妙な解放感に包まれていました。それは英会話教室の講師ジョンだけでなく、旅行先の外国人誰に対してもです。この理由はきっと、外国人は節子に偏見や先入観を持っていないからでしょう。“行き遅れた中年独身OL”という哀れみの目もないし、“生意気なババア”とも思いません。だから素直にコミュニケーションをとります。劇中でもちゃんと節子の表情や言葉を注目してくれる外国人の姿が印象的に映し出されていました。あの節子の職場では絶対にあり得ないことです。

もちろん本作は「日本人=悪」で「外国人=善」みたいな単純な話ではなく、コミュニケーションって何?という疑問の答えを提示しているのだと思います。

オー・ルーシー!

What's up?

本作は異文化コミュニケーションをテーマにしたドタバタ喜劇としてももちろん面白いです。

節子(ルーシー)・小森(トム)・ジョンのなんだかよくわからないけど勢いで進んでいく英会話レッスンとか。正直、こういう、ありますよね。ちなみに、絶対に一部の別の講師については英会話以外の目的もあるのだろうなと推察できる、怪しすぎるあの英会話教室の雰囲気からして笑えます。

舞台をアメリカに移してからの、節子と綾子の英語コミュニケーションも最高です。わりと乏しいボキャブラリーでも会話を押し通していくあたりの、観客側をハラハラさせる感じも愉快。「She steal boyfriend and marry」など強引にもほどがあるセリフでも、文法的に間違っていようとも、日本にいた時よりも明らかに自分の意思をハッキリ伝えるようになっているのがいいですよね。

その中に、日本人がよく考えがえがちな「外国人は皆ハグするんでしょ」思考とか、風刺がグサリと入るのも心地いい。当たり前ですけど“平栁敦子”監督はちゃんと日本人から見た外国人、外国人から見た日本人の双方を理解したうえでギャグに落とし込んでいるので、スマートなユーモアセンスになっています。これは2つの国に精通した人でしかできない技です。

その異文化コミュニケーションをテーマにしたドタバタ喜劇としてだけでクオリティを確保しつつ、その上に深いテーマを乗せるわけですから、そりゃあ、海外から評価されるのも納得です。

電車は今日もやってくる

本作はコミュニケーション不全に陥ったときに起こる「因果応報」な事態を描いている作品でもありました。

節子、綾子、美花は因果応報的な負のスパイラルにハマっていました。とくに男絡みで。奪われ、奪い、騙し、騙され…の連鎖。ハッキリ言ってこの親族、似た者同士です。他者から見れば、どうしようもない女たちです。

でも私は嫌いになれないというか、誰しもこういうコミュニケーション不全な状態ってあるものです。それこそ節子の職場のようにコミュニケーション不全が慢性化しているコミュニティは社会にたくさんありますから。

そんな本作では劇中、この因果応報が起こらない瞬間があります。それは節子の同僚のヨシコという女性のエピソード。退職を迎えて温かく見送られたように思えたヨシコでしたが、実は陰で悪口を言われまくっていたことを暴露する節子。送別会をぶち壊した帰り、電車のホームで悲しそうに立つヨシコを目撃。本作の冒頭でホームから飛び降り死するシーンを目撃している観客からしてみれば、これはヨシコも死ぬのかと思うわけです。しかし、ヨシコはそのまま電車に乗っていきます。これはきっと直前に節子が「ごめんなさい」と叫んだから…とも思えます。

そして、この電車ホームのシーンはまたラストにも繰り返されます。ハグし合う節子と小森のカット。そこへ奥から電車が近づいてきて、映画は終わり。どうなったかは明かされませんが、あの二人の生きる実感を得た表情をみるかぎりは最悪の想像は浮かびません。

孤独を感じたら、「What's up?」でいきましょう。相手は誰でもいいですから。

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↑『オー・ルーシー!』とテーマが似ている気がする『スイス・アーミー・マン』。こちらは死体とコミュニケーションをして生きる希望を見い出します。
(C)Oh Lucy,LLC