マッドバウンド 哀しき友情
Netflix映画『マッドバウンド 哀しき友情』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Mudbound 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:ディー・リース 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

ミシシッピ州の農園に住む白人のマッカラン家と黒人のジャクソン家。2つの家族はともに過酷な田舎の生活に苦しみ、さらには戦場におくられた大事な家族の一員を心配しながらも、ときに協力して日々を過ごしていた。しかし、同じ境遇でも、肌の色の違いが2つの家族を隔てる壁として大きく存在していた。

ネタバレなし感想

Netflixでなければ、オスカーも…

そろそろ米アカデミー賞のノミネート候補作が出揃い始めた感じでしょうか。でも、残念なことにそのほとんどが日本ではまだ公開されていません…。

そんななかで気になるのは「Netflixオリジナル作品」はどうなるのか?です。今年のカンヌ国際映画祭で起こった「映画館で上映しない作品は映画じゃねぇ!」騒動は映画界のVOD(動画配信サービス)に対する拒絶反応をあらためて浮き彫りにしたわけですが、公開スタイルはどうであれ、それで作品の質が左右されることはありません。無論、質の高い作品もあるわけです。2017年も『オクジャ』『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』のような批評家から称賛されるNetflixオリジナル作品も存在しました。
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しかし、きっと米アカデミー賞では扱われないでしょう。まだまだ保守的な賞ですからね。もったいないです。

ところがここにきてNetflixオリジナル作品でなければ絶対に米アカデミー賞のノミネート候補になっただろうと言えるような映画が登場しました。

それが本作『マッドバウンド 哀しき友情』です。

この映画は公開されるやいなや、2017年のゴッサム・インディペンデント映画賞で「特別賞」を受賞するなど、独立系の映画祭のあちこちで賞をとるかノミネートされ、注目が一気に集まりました(ちなみにゴッサム・インディペンデント映画賞の去年の特別賞は、米アカデミー賞で作品賞に輝いた『ムーンライト』でした)。

もし米アカデミー賞にノミネートされるなら男優・女優ともに助演賞はじゅうぶんありえるクオリティです。ただ、群像劇なので主演なのか助演なのか判断に困るのですけど。

※追記:第90回アカデミー賞で助演女優賞、脚色賞、撮影賞、主題歌賞にノミネートされました!

内容は1900年代中頃のアメリカの田舎町を舞台に、貧しい農家として必死に生きる白人の家族と黒人の家族を描いたものです。当然、人種差別が主題になってくるのですが、面白いのは『それでも夜は明ける』のような徹底的に白人に痛めつけられる黒人を描く“いかにも”な作品ではないということ。邦題にあるとおり、白人と黒人の哀しい友情がキーワードとなっていて…これ以上はネタバレになるので言及を避けますが、とにかく「白人側の辛さ」も胸にくる作品は珍しい気がします。

2017年、絶対に見逃してはいけないNetflixオリジナル作品の一本なのは間違いないです。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

すべてがうまくいくと信じている

繰り返しになってしまいますが、この作品は「徹底的に白人に痛めつけられる黒人を描くこと」が特徴にはなっていないんですね。

本作の肝は「同じ境遇に置かれた白人家族と黒人家族の対比」です。

まず、白人家族であるマッカラン家。農地を買って田舎町で農業生活を始めることを決めたヘンリーを主に、その彼と結婚して子どももいるローラ、ヘンリーの弟で快活な性格のジェイミー、ヘンリー兄弟の父である頑固なパピーで構成された、典型的な地方の白人ファミリーです。

一方の黒人家族であるジャクソン家。マッカラン家がやってくる前から先祖代々農業を営んでいたハップを主に、その妻のフローレンス、息子のロンゼル、さらにその下の子どもたちえ構成された、これまた典型的な地方の黒人ファミリーです。

この2つの一家は置かれている環境や境遇が同じなわけです。非常に厳しい農業に従事しているし、そして互いに家族のひとりが第2次世界大戦勃発とともに戦争に行ってしまいます。

ところが環境や境遇が同じでもこの2つの一家が辿るルートや立ちふさがる障害は別のものになっていく…そこが見どころと言えるでしょう。

例えばスタートからして違います。ジャクソン家のハップは譲渡証書にこだわる姿が冒頭で描かれていたとおり、自分の土地を持って独立したいと思っています。そこへ後からやってきたはずのマッカラン家が後発なのに一瞬で優位に立ってしまう。結果、貧富の差が生まれる。また、ジェイミーは爆撃機の操縦士に、ロンゼルは戦車隊の一員として戦地へ赴き、無事、帰還するわけですが、町の対応の温度差も歴然。

もちろん、この理由は人種差別です。マッカラン家のヘンリー兄弟の父のような完全な人種差別を全開に振りまく人もいますが、ヘンリーやローラはそこまで人種差別的言動は見られません。表向きは。そう、ヘンリーやローラも表面上はジャクソン家を対等に扱っているようにみえて、実際は悪意のない上から目線的な偏見がにじみ出ているのです。ヘンリーが何かと命令的なのは家系がかつて奴隷を使っていたゆえの血なのかもしれないですし、ローラさえも百日咳の子どもを助けてくれたフローレンスに雇ってあげましょうかと言います。奴隷の歴史を真剣に考慮するだけの知識があるなら、そんな発言をしないでしょう。

ただマッカラン家のような白人だけに問題があるわけでもなく、ハップの過剰な対立意識も一因になっています。機械の導入を進めるマッカラン家に「別にラバでいいじゃないか」と怪訝な感情を抱き、結果、自業自得な状況を招いたりとか。この保守的な黒人の父がその頑固さゆえに家族に不幸を招くという意味では『フェンス』にも通じますね。
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マッドバウンド 哀しき友情

俺の物語は愛で終わる

そんな物理的にはお隣でも決して真の意味では隣り合うことはなかった2つの一家。それが重なるきっかけとなるのがジェイミーとロンゼルの二人。ともに戦場へ行って生還した二人、ジェイミーは家族に歓迎されるもPTSDに苦しみ、ロンゼルは戦場にはなかった差別を再び経験し辟易しています。愛する家族がいる地元に戻ってきたはずなのに孤立している二人が、いつしか心を通わせ合うのもわかります。

しかし、その二人の交流の必然も、この古臭い価値観が渦巻く町では理解されず…。最悪の悲劇が起こります。あまりにもツラすぎる惨劇。人間の内包する悪がドロッとこぼれでるような…。

徹底的に白人に痛めつけられる黒人を描くことが特徴にはなっていないと書きましたが、この終盤で起こるKKKによるロンゼルの暴行は確かにおぞましいです。しかし、ジェイミーの苦痛も尋常ではありません。彼はどの暴力がいいか選択させられるわけですが、差別しないという選択は選べない…。また、KKKのインパクトで忘れがちですが、夫を殺して自らも死んだヴェラの凶行など、白人側の絶望感も印象的です。

最終的にマッカラン家とジャクソン家は家族の一人を失い、ここでもまた同じ境遇なわけです。しかし、その違いは決定的でした。

人種差別を描くうえで、バランスというのは大事です。「徹底的に白人に痛めつけられる黒人を描くこと」はよく行われがちですが、それを黒人の人たちが必ずしも歓迎しているというわけではないのは『ディア・ホワイト・ピープル』でも描かれていたとおり。
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その点、本作はバランスがいいですよね。単なるブラックスプロイテーションでも、悲劇ポルノでもない、絶妙さ。本作の監督は“ディー・リース”という黒人の女性監督ですが、上手いです。“ディー・リース”監督の過去作も『Pariah』など高評価なのですが、日本未公開。見たいなぁ…。

ハップは独立して新しい農地を手に入れ、ロンゼルはドイツに行って妻と子どもに会う、幸せな光景で終わる本作。「俺の物語は愛で終わる」、まさに映画のマジックです。どうしてこんな当たり前の未来が選択肢にないのでしょうか…。

©Netflix