マザー!
映画『マザー!』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:mother! 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年
日本では劇場未公開:2018年にDVDスルー
監督:ダーレン・アロノフスキー 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

ある家で暮らす詩人と彼の若い妻。ある日のこと、ひとりの訪問者がやってくる。妻は訪問者を快く思っていなかったが、詩人は受け入れて家に泊める。そして、訪問者の数はしだいに増えていき、彼らを招き入れたことから不穏な出来事が次々と起こり始める。やがて、平和だった家は地獄のような悪夢へと変化を遂げていき…。

ネタバレなし感想

公開中止も納得の衝撃作

女優“ジェニファー・ローレンス”の受難が日本では起こっています。主演作でゴールデングローブ賞で最優秀主演女優賞を受賞『ジョイ』(2015年)が日本ではまさかのビデオスルー。そして、本作『マザー!』にいたっては劇場公開が予定されていたにもかかわらず、本国の映画会社の意向で急遽中止に…。なんか良くないものでも憑いているのでしょうか…。

最近は批評的にも当たっていない女優で、『パッセンジャー』も評論的にはイマイチだったし、日本でも3月に公開される『レッド・スパロー』も批評家からの反応は芳しくない。実力はじゅうぶんある女優なのに作品運に恵まれていないのでしょうか。

でもこの『マザー!』に関していえば、評価がゴタつき、扱いに困るのも理解できます。それくらい論争を巻き起こす火種が満載の映画ですから。

監督は“ダーレン・アロノフスキー”『レクイエム・フォー・ドリーム』で一躍有名となり、『レスラー』『ブラック・スワン』で高い評価を受けた言わずと知れた奇才監督です。その作風はとにかくエッジが効いており、毎回、良くも悪くも観客を動揺させてきます。どの作品も全ての観客が手放しで拍手喝采を送るような作品でなかったですしね。『ブラック・スワン』だって上映終了時の客席がザワザワしてましたよ。

今作も案の定、鑑賞した人の心をザワつかせ、本国での評価、とくに一般観客の反応は困惑そのもの。賛否両論以前に「なんだこれは…」となっているのだと思います。

なぜここまで反応が落ち込んだのか。

本作は事前の宣伝では「サイコスリラー」とか「ホラー映画」とか紹介されており、それが昨今のハリウッドで流行のエンタメ系ホラー作品と誤解されたのではないかという説もあります。確かにエンタメ要素はゼロです。映画全体がメタファーのような風刺的要素全開の作品になっていますから。

そして、一番の否定感情の原因は…ネタバレになるので言えませんが、風刺している対象の問題ですよね、きっと。たぶん“ダーレン・アロノフスキー”監督のフィルモグラフィー上、最も直接的で刺激的な映画になっているのではないでしょうか。

批評的には決して酷評ではなく、巨匠マーティン・スコセッシが擁護したことでも話題になりました。好きな人はドハマりするでしょうし、私自身、割と好きなタイプの映画です。一般受けは絶対にしないと断言もできますが。

それにしても“ジェニファー・ローレンス”は『パッセンジャー』に続き、またしても男に振り回される可哀想な女の役ですね。そういうキャラなのかな…。







↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

私は私、君は家だ

燃えさかる女性の姿とともにタイトルが出現。その後、クリスタルみたいな不思議な物体を置く男。すると焼け焦げた家が修復するように元通りになっていき、ベットで“ジェニファー・ローレンス”演じる女性が目を覚まします。「あなた?」と呼びかけながら誰かを探して家の中を歩き回る女性。そこへ現れたのは“ハビエル・バルデム”演じる夫らしき男。

この時点で本作の構造を察する人もいるでしょうが、とりあえず置いておきましょう。本作では登場人物の名前が一切劇中で明かされません。これも深い意味がありますが、とにかく映画の感想が書きにくいことだけは確かです。便宜上、「夫(家主)」と「妻(家)」としておきます。

この夫(家主)はどうやら詩人で今はスランプであまり書けていない様子。そして、妻(家)は家事…というよりは家の壁を塗ったりと修復しているようです。

そこへ精神外科医だという男が来訪してきます。夫(家主)は歓迎して家に泊めますが、妻(家)は不満を隠せません。すると、翌朝にはその医者の男の妻も訪れて、さらにはその医者夫婦の息子二人が乱入し、喧嘩を始めます。しかも兄が弟を殴って殺してしまい、家には血が流れました。

家を弔いの場として提供したことで、夫(家主)と妻(家)は口論しますが、子どもがいないという核心に触れたことで二人は体を交わり、妻(家)は妊娠。しかも、構想がわいてきたといって夫(家主)の執筆作業も捗るようになり、全ては順調にいくかのように見えました。

ところが夫(家主)の詩が完成し、初版が完売したのも束の間、家にファンが大量に押し寄せ、事態はとんでもないことに…そして、最終的には振り出しに戻っていくのです。

マザー!

ハビエル・バルデムは顔がコワイ神

ここまで書かなくても整理がつくと思いますが、本作はもちろんただの夫婦のお話ではありません。本作の一連の物語は完全に聖書のメタファーとなっています。

夫(家主)が創造主たる。来訪してきた医者の男がアダム、その妻がイブ、その息子である兄は聖書における歴史上最初に殺人の加害者となったカイン、弟は人類最初の殺人の被害者であるアベル。妻(家)が生んだ赤ん坊はイエス・キリストです。終盤に家に押し寄せてきたのは、神を信奉する一般人といったところでしょうか。

問題は妻(家)ですが、これは母なる大地であり、地球ということなのでしょう。

この暗喩は監督がインタビューで語っているので考察するまでもないし、そもそも露骨すぎるぐらいだと思うのですぐわかったと思います。

私自身はそこまでキリスト教に詳しくないので全容の把握はしきれていませんが、それでも例えば、医者の男を泊めた際に夜中にトイレで介抱しているシーンでチラっと映る男の腹部脇の傷は、神が女を作るときに男のあばら骨を使ったことを意味するのでしょうし、弔いの夜に来訪者が再三の注意にもかかわらず腰かけたことでシンクが壊れて水浸しになる場面も、人類が一度滅ぶ大洪水を示すことはわかります。

医者の妻が非常に鬱陶しいキャラなのも、過ちを犯すイブという意味では、ぴったりな描写なのかもしれませんが、“ミシェル・ファイファー”がイブで、“エド・ハリス”がアダムって、凄い世界だな…。まあ、それ以前に“ハビエル・バルデム”が神なのは、怖すぎるよ…。この人、「パイレーツ・オブ・カリビアン」で死神だったのに…。
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女性視点で聖書を見直す

“ダーレン・アロノフスキー”監督が宗教を題材にするのはこれが初めてではなく、『ノア 約束の舟』ではダイレクトに宗教の内容を描きました。こちらも宗教関係者から賛否が別れたのですが、今作はそれ以上に踏み込みましたね。

映画を語るとき「これは神視点だ」とか言ったりしますが、本作は世にも珍しい「母視点」だというのが特徴です。

とくに終盤。家に大量の群衆が押し寄せて、あれよあれよという間に阿鼻叫喚の地獄絵図に変わっていくパート。映画的な演出としても非常に見ごたえがあって、宗教にハマっていく人々の姿は「母」の視点で見るとこんなにも怖いのかと、観客もまた“ジェニファー・ローレンス”とシンクロしていきます。略奪、強奪、破壊、銃声、爆発、虐殺…なんでそんなことするんだよ!という怒りの連続。赤ん坊を死なせ、あげくに血肉を食べるシーンにいたっては狂気。それでいて神は赦しましょうとか言うわけですから。

だからといって、“ダーレン・アロノフスキー”監督は別に反キリスト教の映画を作りたいわけではないと思います。今作はあくまで「母視点」だというだけ。

これは聖書がいかに「男性視点」だったかという証でもあります。もともと聖書は非常に女性差別的だという指摘があって、無論、宗教団体は反発していますが、そこに切り込んだのが『マザー!』です。“ジェニファー・ローレンス”のあの存在。考え方によってこの世界で最も差別されている“女性”ですからね。差別されている側の視点で見れば不快になるのも当然です。

聖書といえども主観があって、つまりそれは視点を変える余地があるということ。そして、視点を変えれば違った世界が見えてくる。これは『神様メール』というヨーロッパ映画とテーマ性が偶然にも同じです。
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こちらも「男性視点」の宗教を「女性視点」にリニューアルするような作品でした。『神様メール』はコミカルに、『マザー!』はドギツくそれに挑戦しています。

まあ、宗教的にはそれこそタブーなのでしょうけど。

でも同じ本を読み続けるぐらいなら、たまには視点を変えるのも良いのではないでしょうか。

↑ダーレン・アロノフスキー監督の『ノア 約束の舟』。宗教を描くのが好きなのでしょうか? 

(C) 2017, 2018 Paramount Pictures