モアナと伝説の海
映画『モアナと伝説の海』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Moana 
製作国:アメリカ 
製作年:2016年 
日本公開日:2017年3月10日 
監督:ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★
 

あらすじ

モトゥヌイと呼ばれる島では、外洋に出ることが禁じられていた。ある時、島で作物や魚たちに異変が発生する。海の不思議な力に選ばれた少女モアナは、いまもどこかで生きている伝説の英雄と言われたマウイを探し出し、島を救うために大海原に旅立つ。 

ディズニーの光と闇を知る二人

世間ではよく「ディズニーはアニメーションの優等生」などと言われることがあります。

でも、多くの今は善人と評される人物でも悪いことをした時期があるように、実はディズニーにも暗黒時代があったのです。それは2000年代。この時期、ディズニーは儲かると言う理由で自社の有名過去作の安易な続編をOVAで乱発し、版権で金を搾り取ることに執心。さらに、当時、協力関係にあったピクサーの作品の続編を“勝手に”作る強引な契約を交わしていたほど。完全にアニメーターは金を稼ぐための奴隷でしかなく、失望した多くの優秀なアニメーターがディズニーを辞めていきました。

そんなディズニーを去ったアニメーターの中に、ロン・クレメンツジョン・マスカーという二人の人物がいます。『リトル・マーメイド 』や『アラジン』などディズニーの黄金期を支えた、まさにトップクラスのアニメーターでした。そんな彼らさえ辞めるなんて、よほど腐敗したディズニーが辛かったのでしょうね。

しかし、ディスニーは生まれ変わりました。契機はピクサーのジョン・ラセターがトップになったこと。アニメーターを何よりも尊重するジョン・ラセターが、真っ先にしたことのひとつが、ロン・クレメンツとジョン・マスカーをディズニーに呼び戻すことでした。

ディズニーに戻ったロン・クレメンツとジョン・マスカーが監督したのが『プリンセスと魔法のキス』(2009)。ニューオーリンズに住む黒人の少女が夢を実現するために奮闘する物語で、往年のディズニーらしさとこれまでのディズニーになかった要素が見事に融合していました。ここからディズニーは高評価な傑作を連発。今の輝かしい姿を取り戻しました。


そして、ロン・クレメンツとジョン・マスカーが再び監督したのが本作『モアナと伝説の海』。ディズニーらしいミュージカル調で、プリンセスではない、非白人の少女が主人公ということで、『プリンセスと魔法のキス』との共通点が多く、でもさらなるパワーアップを魅せています。

とくに本作の監督たちのディズニーとの関わりの歴史を知っておくと、違う形でより深く心に刻まれる作品になると思います。






↓ここからネタバレが含まれます↓





絶望した、でも戻ってきた

本作の感想を見ると「目新しさがない」という声も聞かれます。でも、私は別の見方ができると思いました。

本作は一見すると王道な物語です。窮屈な狭い世界で暮らし、外の世界を夢見る少女が、冒険に出て成長する…普通と言ってしまえばそれまでの話でしょう。

でも、先にも言ったとおり、監督のロン・クレメンツとジョン・マスカーがディズニーで辿った歴史を知ると、別の深みが浮かび上がってくると思いませんか?

本作の物語は、ロン・クレメンツとジョン・マスカーが経験したことそのものです。闇に覆われた世界と島は、例の暗黒時代のディズニーとその時代。モアナの故郷であるモトゥヌイという島の住人たちは、かつて海で出ていたことを封印し、内にこもるようになったわけですが、これなんてまさに昔の栄光を忘れて儲け主義に染まったディズニーの状態そのままです

モアナは不安にかられながらも、島と世界を良くするために、よく知らぬ大海原へ“出ていく”。ディズニーを辞めたロン・クレメンツとジョン・マスカーも同じ気持ちだったでしょう。そして、モアナは大冒険をして、また島に“戻ってくる”。ディズニーに戻ってきたロン・クレメンツとジョン・マスカーに重なります。

本作は“行って戻ってくる”だけの話ですが、実はそこにこそ意味がある。少女の成長とか、女性の社会進出とか、そういうテーマ以前に、本作はディズニーに失望したアニメーターたちの軌跡なのではないでしょうか

そうやって捉えると、過去の栄光にすがるマウイはディズニー史でいうところの何なのか…考えると面白いですね。彼の栄光はタトゥーという形で昔ながらのセルアニメで描かれるわけですから。

ディズニー史の暗喩といえば、本作と同時上映の短編『インナー・ワーキング』も、そのブラック企業ぶりがかつてのディズニーっぽいです。たぶん、ディズニーのクリエーターたちは昔の暗黒時代のディズニーには戻らせまいと必死なんじゃないでしょうか

他にも細かいところにも、ロン・クレメンツとジョン・マスカーらしい彼らの集大成的な要素がたっぷり詰まってます。海を舞台にするところなんて『リトル・マーメイド 』だし、まるで生き物のように愛らしく描かれる“海”は『アラジン』の魔法のじゅうたんを思わせます。また、マウイのタトゥーのアニメーションといい、本作は3Dと2Dが上手く融合しており、これもアニメーターだった二人だからこそのこだわりなのだと思います。

ズートピア』では社会の人種多様性をメタ的に描いたわけですが、今回はディズニーらしい自己実現をディズニーの歴史をメタ的に描くことで示す。ロン・クレメンツとジョン・マスカーしか作れない世界でした。

モアナと伝説の海

ポリネシアにもっと光を

あと、忘れてはいけないこととしては、本作はポリネシアの人々に焦点を当てたという意味でも、非常に価値ある一作でしょう。

ポリネシアと呼ばれる海洋諸島に暮らす人々の歴史は、常に強者に踏みにじられる散々なものでした。捕鯨産業が盛んになると、列強の国々が島に入り込み、住人は労働者として酷使。しかも、持ち込まれた感染症や外来の生物が島の生活や生態系を破壊。太平洋戦争になると植民地支配され、第2次世界大戦終了後は核実験の試験として水爆を投下されまくる。現代では地球温暖化で島自体が沈みそうになる。悲惨すぎます。なんかポリネシアの人々に恨みでもあるのか。

現代の世界でもポリネシアの人々は、黒人やユダヤ人といった他のマイノリティと比べても、全然クローズアップされないです。私は、もっとポリネシアを映画の主題にするべきだと思うのですが…本作がきっかけになると良いですね。

ロン・クレメンツ監督とジョン・マスカー監督には、いまだ光の当たらないマイノリティに、ディズニーの光を当ててほしい…そのクリエイティブ精神を持って、どこまでも遠くに行ってほしい(How Far I'll Go)…そんな風に心から願います。
 
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