ミッドナイト・スペシャル
映画『ミッドナイト・スペシャル』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Midnight Special 
製作国:アメリカ 
製作年:2016年 
日本では劇場未公開:2017年にDVDスルー 
監督:ジェフ・ニコルズ 

【個人的評価】
 星 9/10 ★★★★★★★★★
 

あらすじ

アルトン・マイヤーという名の少年は、男二人と共にどこかへ向かっていた。そして、政府と謎の宗教団体のメンバーも彼らを追いかける。逃避行のなか、少年の目は青く光り輝き、周囲では不可解な超常現象が次々と起こっていく。一体この少年は何者なのか…。


ネタバレなし感想

大人のSF家族ドラマ

今年5月、日本ではドゥニ・ヴィルヌーヴ監督最新作『メッセージ』が公開されました。米アカデミー賞でも8部門にノミネートされた本作は、私含め、SF映画好きは首を長くして今か今かと期待していた作品でした。

そんな『メッセージ』に似たSFを通して家族を問うような作品としてオススメなのが本作ミッドナイト・スペシャル

監督は“ジェフ・ニコルズ”で、米アカデミー賞で主演女優賞にもノミネートされた最新作『ラビング 愛という名前のふたり』が日本で現在公開中。『ミッドナイト・スペシャル』は“ジェフ・ニコルズ”監督のフィルモグラフィー上はその前作にあたるのですが、日本では残念なことにDVDスルー。『イーグル・ジャンプ』に続いて、こんな良い作品が劇場未公開とは悲しいです…。

でも、本作に関していえば、DVDスルーになる事情もわからなくはない。というのも、本作はジャンルがかなり掴みづらいんですね。公式宣伝には「超常現象スリラー」と書いてあるのですが、確かに超常現象も登場しますし、追いつ追われつのサスペンスもあります。しかし、それらは本題ではないのです。

じゃあ何か?と聞かれると「家族ドラマ」だと答えるしかない。これは“ジェフ・ニコルズ”監督の過去作、『テイク・シェルター』(2011年)や『MUD マッド』(2013年)を観て惹かれた人ならわかると思います。”ジェフ・ニコルズ”監督は作品によって構成要素は変われど一貫して「家族ドラマ」を描いてきた人です。ところが、その描き方はいつもちょっと変化球。


例えば、『テイク・シェルター』では、ハリケーンに襲われるという強迫観念にとらわれている父親が主人公です。災害シーンもでてくるし、神経をはりつめた父親が家族に厳しくあたるシーンもあります。まるでディザスターパニックやスリラーのようです。でも、やっぱり最後まで観るとほんのり温かくなる家族ドラマだったことがわかります。

本作もまさにそれです。

あとは、これ以上の事前情報なしにぜひ見てほしいと思います。なので映画のあらすじやキャラクターについてはもう語りません。

ただ、SF家族ドラマといっても『E.T.』のような作品を想像しているなら本作は全く違いますよ。ファミリー向けでは全くないです。“大人の”家族ドラマですね。

SF好き、丁寧な家族ドラマを期待する人は観て損はないです。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

よそ見、厳禁

“ジェフ・ニコルズ”監督作品の特徴は、一切説明的でないストーリーテリング。ぼーっと観ていると今どういう状況で、登場人物が何を思い、何をしているのか、ついてこれなくなります。よそ見厳禁です。なので、この手の映画を“読み解いていくこと”に慣れていない人は、「?」ばかりが頭に浮かび、「なんだか味気ないよくわからない作品だったなぁ」という感想で終わりかねません。

冒頭、テキサスでアルトン・マイヤー君(8歳)が誘拐されたというニュース(アンバーアラート)から始まります。そして、そのニュースを伝えるテレビが映る部屋には、謎の男二人とゴーグルをした少年が。彼らがまさに報道された張本人たちであることは明白ですが、会話を聴くに男たちと少年に信頼関係が見られ、ただの誘拐犯罪ではないっぽいぞ…と観客は思います。なんだ…?です。

そして、部屋から出て、車に乗り、夜のハイウェイを走り抜ける場面へ。ここで通報されたことを無線で傍受し、車のライトを完全に消して暗視スコープで夜道を走るという荒業にでます。この手慣れた感じ、こいつらただものじゃないということが伝わってきます。しかも、途中に事故で車と追突し、駆けつけた警官を撃つぐらいです。でも、無線で救急車を呼んだり、撃ったことを後悔する言葉を言ったりと、悪い奴らではないことも漂います。この時点では、彼らの正体はさっぱり不明。とりあえず、並々ならぬ覚悟があるらしいことだけしかわかりません。 ほんと、なんだ…?です。

一方、舞台はガラリと転換し、謎の「牧場(Ranch)」と呼ばれる宗教団体で大勢に説教してる偉そうな男と、数字を唱える信徒らしき人たち 。さらに、そこにFBIが現れて中止させ、信徒たちを連れ出し、問診し始めます。その紙に書かれているのは「アルトン・マイヤーについて何か知っているか」。加えて、NSA(アメリカ国家安全保障局)の男が宗教トップの男へ質問した結果、この指導者の養子がアルトンであり、アルトンが発作時に話す奇怪な言葉を宗教の経典にしたということが判明。しかも、この経典が、解読不可能なはずの国家機密だというじゃないですか。えっ、どういうこと?です。

また、男二人とアルトン側に話が戻り、別の協力者の家で一晩泊まった翌朝、ここで衝撃シーン。地震が起きたと思ったら、アルトンの目から青い光線がええっ!です。

ここから怒涛の衝撃シーンの連続。再び、車で移動中に、アルトンが急に上を向き、ラジオに同調するかのようにスペイン語をしゃべりだす。極め付きは、休憩に立ち寄ったガソリンスタンドで、隕石(実際は衛星の破片)があられのように降ってくる唐突なプチ・インディペンデンス・デイ状態。ええっーーーーー!!です。

終始、こんな感じ。もちろん、徐々に情報がわかってはくるのですが。アルトンを誘拐したのは父親のロイで、もう一人の男は父親の幼なじみで州兵のルーカスだったということとか。ある座標の場所に向かっているらしいとか。この情報のパズル、実に楽しいです。

ミッドナイト・スペシャル

でも、本作の肝は「見せない・語らない演出」。その演出、いずれも不吉さを絶妙に醸し出してます。

例えば、ロイたちが泊まった協力者エルデンの家で、エルデンとアルトンが光線でつながるような最初の衝撃シーン。なんでエルデンはあんなことしたのかは明確に説明されません。でも、その前にエルデンが例の宗教に所属していたというやりとり、そして衝撃シーンを挟んで、次の場面で信徒たちへのインタビューから、エルデンはまだ信仰に未練があることが察しつきます。

あとは、サスペンスでよくある暴力シーンは意図的にカットしています(ロイたちが襲われるシーンと、最後の車で突破するシーンくらいです)。銃を握りしめるとか、ガムテープをポケットに入れるとか、観客に予感させるだけ。一番、上手いなと思ったのは、後半の誘拐されてしまったアルトンをロイたちが車で追いかけて軍の交通規制にひっかかるシーン。あそこは全くセリフがなく黙って通りすぎるだけですが、飛び立つヘリ、車にある血痕、これだけでアルトンをを拉致した宗教団体の追手が警察(もしくは軍)に射殺されてアルトンが政府の手に渡ったことが示されます

こういう映画的に巧みな演出を観てるだけで、私はもう大満足でした。映画を“観てる”じゃなくて“読んでる”っていう感じが堪らないですね。

あの世界とは…

語らないといえば、一番謎なのは少年・アルトンの能力の正体。ただ、これは最後まで回答はないです。まあ、彼はストーリー上のマクガフィン的な存在なので、明確な背景設定を用意する必要はないのだとは思いますが。

本作は一見すると『E.T.』や『SUPER8/スーパーエイト』のような地球外生命体と少年との邂逅によるSFドラマだと思いがちですが、中身は全く別物。まず、子どもが主役ではなく、親の視点が物語の基本軸となっていること。そして、宇宙人的存在は一切見せず、未知の存在と交流を深めていく話ではないこと。むしろ、別れがテーマです。このへんがスピルバーグ系譜のジュブナイルSFとは一線を画すところ。あくまでジェフ・ニコルズらしさ満載の作品でした。

アルトンが言う「この世界の上にある別の世界」。

もしかしたら、子の独立や死といった「親にとっての避けられない別離」のメタファーなのかも…と思って私は受け取りました。そう考えると、ラストの謎の構造物とともに現れた世界や光が意味するものは、親の知らない“向こう側”ということでしょうか。

家族にとって必ず経験するイベントを映画的表現で大胆にアレンジしつつ、家族ドラマといってもお涙頂戴のウェットにはならない。演出が冴えわたるSF家族ドラマの新たな傑作でした。