真白の恋
映画『真白の恋』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:真白の恋 
製作国:日本 
製作年:2017年 
日本公開日:2017年2月25日 
監督:坂本欣弘 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

渋谷真白は、生まれてからこれまで、家族と共に富山で暮らしている。父の営む自転車店の店番をしたり、飼い犬の世話をしたりと、元気に日々を過ごしていた。ある日、兄の結婚式で神社を訪れた真白は、東京からやって来たフリーカメラマン、油井景一に出会う。それは真白の生まれて初めての恋になった。

ネタバレなし感想

これがほんとの普通

2017年もいろいろな邦画を観てきましたが、その中でも恋愛モノでいったらこの映画が一番だったかもしれない。そんな風に思うほど良い作品でした。

それが本作『真白の恋』です。

「恋をした真白は普通の女の子でした」とキャッチコピーにあるとおり、主人公の真白は普通の女性です。この「普通」というのが大事なポイントなんですが…。

いや、よくある漫画チックなノリの青春学園系作品でも「私は普通の女の子!」みたいな前振りで展開するじゃないですか。でも、たいていはそういう作品は普通ではないです。こんな個性豊かな人は普通いないだろ…というくらいの濃いキャラ付けがされていたりします。まあ、別にこれはこれでそういうジャンルの作品なので良いのですけど…。

対して本作は拍子抜けするくらい普通で、特徴がなさ過ぎて困るぐらいの主人公となっています。やっていることも店番とか、犬の散歩とかですから。

前田敦子が主演した、就職もせず、家業も手伝わず、ただひたすらに食っちゃ寝の毎日を送って実家で過ごす女性タマ子を描いた『もらとりあむタマ子』という映画がありましたが、ほとんどそれに近いノリです。本作の真白もこのまま行けば『もらとりあむタマ子』コースを歩んでいく可能性が高い気がして、不安になるレベル…。



しかし。この真白。出会いがあったんですね。はい、もう『タマ子』は負けました。

『タマ子』との比較(という名のいじり)はこれくらいにして、本作はそんな出会いから始まる彼女のちょっぴりとした人生の成長を切り取った作品で、繰り返しになりますが、良い映画でした。

あとは事前情報を一切見ずに鑑賞することをおすすめします。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

普通じゃない?

みんな顔見知りというくらいの町にて、のんびりまったりしながら父と母と実家で暮らす真白は、この町にやってきたフリーカメラマンの油井と出会います。見知らぬ人に警戒しながらも、ちょっとしたことで助けてもらい、しかもその時に預かったカメラで偶然自分を撮ってしまう真白。その後、油井はその写真を気に入り、真白に渡します。それがきっかけで真白は油井に自転車を貸し、油井は真白にカメラを教えて、交流を深めていく二人。

ここまでのストーリーは非常にベタなロマンスものの王道です。カメラを覗く油井の顔が真白と接近してドッキドキなんてシーンはもう古典的ですらあります。

あとはこの「The 普通」な恋愛ロードを突っ走るだけ…そして、普通はここで恋路を邪魔する妨害が出てくるのがありがち展開です。

本作でも“それ”は登場します。でも、“それ”は「別のライバルの出現」でもなければ、「油井は既婚者だった」みたいな修羅場でもない。

“それ”は真白が「軽度の知的障がい者」だったことでした。

障がい者を扱った作品といえば『映画 聲の形』がありました。
『映画 聲の形』感想(ネタバレ)…皆が抱える「伝わらない」という障がい
ただあの作品はコミュニケーションを描く作品だったのに対し、本作における真白と油井は普通にコミュニケーションできています。油井も真白の知的障がいについて気にしていませんし、真白も自身の知的障がいを隠すつもりもありません。

この二人を阻むのは親や兄、言い方を変えると社会という外部の存在なんですね。

真白の恋

感動ポルノがダメな理由

しかも、その外部も、いわゆる差別のような相手を傷つけようとする「攻撃」ではなく、あくまで守ろうとする「保護」を行っているだけです。

これを劇中の言葉でいうと「過保護」と表現することもできますが、私は実際はもっと別物だと思います。

映画や番組でもいいのですが、障がい者を描くとき、よく「感動ポルノ」が問題になります。勘違いしないでほしいのですが、決して障がい者で感動してはいけないと言っているわけではありません。

どうしてそれが問題なのかは私なんかよりも当人の言葉で説明するほうがよいでしょうから、以下の世界的講演会「TED」の“あるスピーチ”を見てもらえればわかると思います(リンクは下記に掲載)。
ステラ・ヤング: 私は皆さんの感動の対象ではありません、どうぞよろしく | TED Talk
このスピーチで障がいを抱える講演者が言う言葉、「障がいは悪いということはありません。立派ということもありません」「障がい者が普通だと思われる世界に住みたい」がまさに本作のテーマそのものを表しているでしょう。

セリフでも語られていましたが「障がい者は普通に恋をしてはいけないのか」。本作がいいなと思うのはこの問題を提起するうえでそこまで過剰なドラマを用意していないことです。だから障がい者を普通に描くことをテーマにしておきながら、作品自体が「感動ポルノ」になっている矛盾が起きないようになっています。これは製作陣のバランス感覚が見事です。

本作を監督したのは“坂本欣弘”で、呉美保監督や富樫森監督の元で助監督を務めており、これが本格的な映画監督デビュー作だそうで、凄いですね。

原作・脚本を担当したのは、あの岩井俊二の元でキャリアを始め、女性の心理を巧みに描いてきた“北川亜矢子”。なんでも知的障害者の実弟を持つ自身の経験を反映させたらしく、なるほどだからここまで自然なのかと納得。

私は本作を高く評価してしまいましたが、本当はこの映画が高く評価されないことが望ましいのかもしれません。なぜならその高評価は現代の日本が「障がい者の人々を普通に扱えていない」裏返しともいえるわけですから。

真白を『もらとりあむタマ子』感覚で半笑いで見守るのが、真の普通な視線なのかもしれませんね。そういう時代が来ることを願っています。

(C)sagan pictures