メアリと魔女の花
映画『メアリと魔女の花』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:メアリと魔女の花 
製作国:日本 
製作年:2017年 
日本公開日:2017年7月8日 
監督:米林宏昌 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

あらすじ

田舎町の赤い館村に引っ越してきた11歳の少女メアリは、7年に1度しか咲かない不思議な花「夜間飛行」を森の中で発見する。それは、かつて魔女の国から盗み出された禁断の花だった。一夜限りの不思議な力を手に入れたメアリは、魔法世界の最高学府・エンドア大学への入学を許されるが…。

ジブリのDNAを受け継ぐ米林宏昌

ある日、映画館で映画を観たとき、シアター廊下で本作『メアリと魔女の花』のポスターを目にした見知らぬ若い女性二人が「なんかジブリにしか見えない」とボソッと言っていたのをふと思い出します。

ポスターや予告動画を見た人から「スタジオジブリのパクリ」との声もぶつけられている本作ですが、そういう人はこのアニメ映画が誰の手で作られているのかよくわかっていないのでしょう。

本作はジブリで活躍していた“米林宏昌”監督と“西村義明”プロデューサーが独立して新たに立ち上げた「スタジオポノック」の長編第1作です。

スタジオジブリはご存じの方も多いようにアニメ制作班を解散し、事実上、長編アニメ映画から撤退しました。去年、スタジオジブリの名を冠してレッドタートル ある島の物語が公開されましたが、あれは厳密にはスタジオジブリ“プロデュース”作品でした。ジブリが描くアニメ映画はもう生まれないわけです。まあ、引退宣言をした宮崎駿監督が長編映画制作にまた挑戦するという“引退撤回”をつい最近行ったので、今後どうなるのか不明ですが…。

しかし、当然ですが、ジブリのアニメ映画は宮崎駿監督ひとりで描かれたものではありません。世間に名も覚えられていないたくさんのアニメーターの人によって支えられてきました。あなたがジブリアニメで好きなあのシーンも、自分の持てる技術力を駆使して作画している人がいたのです。

そのジブリ・アニメーターの中でも最も優秀な一人が“米林宏昌”(愛称「マロ」)でした。『もののけ姫』では動画を担当し、『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』ではより重要なポジションである原画を任され、『崖の上のポニョ』では宮崎駿監督を唸らせるほど高い実力を発揮。『借りぐらしのアリエッティ』(2010年)で初監督を経験します。続く監督2作目の『思い出のマーニー』(2014年)は宮崎駿監督のクレジットなしで脚本も手がけ、アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされるなど、世界的にも評価されるに至ります。

↑“米林宏昌”監督第1作。

↑“米林宏昌”監督第2作。

その“米林宏昌”監督の最新作なので、つまり「スタジオジブリのパクリ」どころか「スタジオジブリ本家」なんですね。絵柄が似ているのは当然です。描いた本人ですから。

今回の『メアリと魔女の花』、スタジオジブリの名を冠さないというのは非常にリスキーな挑戦です。現に事情をよく知らない人から「パクリ」呼ばわりされていますし。それでもこの道を選んだというのは“米林宏昌”監督の覚悟なのでしょう。

表面的にはジブリらしさがたっぷり詰まった映画になっていますし、それでいてジブリ作品を深く観てきた人には新しい挑戦も感じられる…この夏、観て損はない一作でしょう。






↓ここからネタバレが含まれます↓





すっごい、動くよ!

“米林宏昌”監督の前作にあたる『思い出のマーニー』は非常に静的な作品で、動きも少なく、登場人物の心情変化を中心とした作品になっていました。対する、今作『メアリと魔女の花』はもうこれでもかというほど、動く、動く。本作の特徴はこの徹底的に動きまわる絵です。

ダイナミックな動きの描写なら夜は短し歩けよ乙女などの“湯浅政明”監督でも見られることですが、本作ほど濃度の高い描写の中で動かし続ける作品は他にはありません。

手描き長編アニメ映画を見慣れている日本人は忘れがちですが、これってとてつもなく凄いことです。今や欧米のアニメ界ではCGが主流。ゆえにその欧米のアニメーターからは「いまだに手書きで長編アニメーションを作っていることが驚き」と日本のアニメを称賛する声が聞かれます。世界的アニメ業界は、一昔前はストーリー性のオリジナリティを重視して評価する傾向がありましたが、ここ近年は純粋にアニメーションの技術を評価する流れが出てきているように思います。だからこそ、制作に膨大な時間と労力がかかるストップモーションアニメや手描きアニメーションが米アカデミー賞でもノミネートされるのです。つい最近も「アヌシー国際アニメーション映画祭」にて湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』が長編部門で最高賞(クリスタル賞)を受賞したばかり。

本作は間違いなく世界のアニメ業界で高く評価されることは確実でしょう。すでに『思い出のマーニー』でも名が知れている“米林宏昌”監督ですから、また米アカデミー賞でノミネートされるかもしれません。

手描きアニメという芸術

一般観客はどうしてもアニメ映画を楽しいか楽しくないかの“エンタメ”面で見がちですし、ちょっと目の肥えた映画ファンでも“ストーリー”が良いかどうかで論じがちですが、それ以前にアニメーションはそれ自体が“芸術”としてまず評価されることを忘れてはいけません。

そもそも本作は、宮崎駿うんぬん以前に、手描きアニメーション文化を継承するという非常に巨大な意義のある作品です。株式会社カラーの庵野秀明、スタジオポノックの西村義明らが背景美術スタジオ「でほぎゃらりー」を立ち上げ、日本の手描き背景美術文化を守ろうと動いていることからもわかるように、世界で評価されている日本の手描きアニメ技術は、後退する偉人たちと大量生産を強いる商業主義の中で徐々に消え失せようとしています。

そうした中で本作が生まれたことは実に喜ばしく、宮崎駿の絵のDNAを受け継ぐ“米林宏昌”監督の実力、ジブリの高畑勲監督にこっぴどくしごかれた“西村義明”プロデューサーの忍耐力、名も知れぬ多くのアニメーターたちは素晴らしいと思います。個人的には、こういうアニメ作品に多くの企業スポンサーが集まる日本の風土も良いもんだなぁと。なんだかんだで日本人は世界で一番アニメが好きな人種ですね。

ジブリ論争は「ぽいっ」と

本作に対する「ジブリの過去作に似ている」という声について、“西村義明”プロデューサーは、「ジブリで映画を作ってきた人間としてうれしく思いました」と非常に素直なコメントを残しています。「パクリ」などと煽り言葉を言う人や、「ポスト宮崎駿」を盛んに口にするだけのマスコミのように、宮崎駿幻影という呪いに憑りつかれている外部の人はたくさんいますが、内部に位置する後を継ぐアニメ業界の人たちは私たちが思っているほど執念はしていない…そんな印象を本作を観て受けました。

とにかくのびのびと自由に作っている、そんな感じです。

実はストーリーも力の継承がテーマになっていて、魔法の花「夜間飛行」はそのまま“手描きアニメ”にも置き換えて解釈することもできます。“手描きアニメ”という魔法はとても綺麗で魅力に満ちているけれど、それに執着して呪いにするようなことはしない。終盤のメアリの“魔法を使わない”という選択もそういうことなのでしょう。ラスト、メアリが夜間飛行の花を投げ捨てるように、世間の宮崎駿うんぬんの戯言を「ぽいっ」とする…私は私らしく行こう…そんな意思表明かな。

“米林宏昌”監督のフィルモグラフィーを見ていると、ジブリの魔法を“借りぐらし”する時代が過ぎて、“思い出”に浸る時代も終わり、いよいよ自分の“花”を咲かせる時代が来た…そんな変移を感じさせます。

作品の主人公と監督が重なってアニメ史を語ると言うのは、モアナと伝説の海にもありましたが、やはり想いがこもっちゃうものなんでしょうかね。

メアリと魔女の花

もっと子どもにトラウマを

とまあ、“芸術”面ばかりを書き殴ってきましたが、“エンタメ”や“ストーリー”はどうなのかも一応書くと…。まず、子ども向けファンタジーとして普通に良く出来ていると思いました。お話しはもともとの原作からしてオーソドックスな「子どもと魔法」の物語の典型なので、新鮮さは薄いのですが、絵の力でなんとか魅力を引き上げている雰囲気です。

個人的に欲を言うなら、もっと悪役を際立たせてほしかったなぁと。これは、本作に限ったことではなく、細田守監督作品でも思うことなのですが、“配慮”でもしているのか昨今のファミリー映画は悪役がマイルドすぎるのが気になる。本作のマダムとドクターは悪役としては弱いかな。例えば、宮崎駿の子ども向けファンタジーの代表『天空の城ラピュタ』は、勧善懲悪が著しく、悪役が異常に怖いです。『千と千尋の神隠し』の湯婆婆やカオナシのように子どもにトラウマを植え付けるくらいのマッドな奴が見たかったですね

今回は選手宣誓みたいな作品なので、今後、どんなアプローチで来るのか、楽しみです。本作のようなジブリてんこ盛りとはいかないでしょうから…。

ますます多様化している日本のアニメ映画界。“米林宏昌”監督はその柱として国内外で注目され続けるでしょうが、私も注目していきたいと思います。

(C)「メアリと魔女の花」製作委員会