万引き家族
映画『万引き家族』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:Shoplifters 
製作国:日本  
製作年:2018年 
日本公開日:2018年6月8日 
監督:是枝裕和 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

Plot Summary

街の片隅に建つ古い平屋に、家主である初枝の年金を目当てに、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀が暮らしていた。彼らは足りない生活費を万引きで稼ぐという一家だったが、いつも笑いが絶えない日々を送っている。そんなある冬の日、近所の団地で震えていた幼い女の子を見かねた治が家に連れ帰り、信代が娘として育てることになるが…。

ネタバレなし感想

こんな騒ぎもまた映画の醍醐味

是枝裕和監督、出演キャストの俳優たち、他、製作スタッフの皆さん、カンヌ国際映画祭にて『万引き家族』のパルムドール受賞、おめでとうございます。これを喜ばない映画ファンはいません。

この受賞は日本映画界全体にとっても活力となるような出来事だったわけですが、なにやら世間ではそれとは別に本作が火種になっていろいろと騒がしくなっているようで…。SNS時代ならではなのかなと思ったりも。

でも、本作と同じように犯罪で団結する家族を描いた傑作『ゴッドファーザー』だって、公開当時は一部で「犯罪を行うマフィアを賛美している」と批判されたりもしていたといいますし。結局、今も昔も変わらない、映画界には付き物の反応なのです。だから適度にスルーするのが一番ですよ。私は『万引き家族』で“リリー・フランキー”が敵対する相手のベッドに馬の生首を放置する行為を行っていたとしてもドン引きはしませんよ(そんなシーンはありません)。

というか、犯罪行為で絆を得る家族なんて映画ではよくありますから。日本人も大好きな『怪盗グルー』シリーズだってそうじゃないですか。そう考えると『万引き家族』の子どもたちなんてミニオンだと思えばいいんですよ。“樹木希林”がミニオン語で会話しているところを想像してみてください。シュールすぎますよ(繰り返しますが、そんなシーンはありません)。
『怪盗グルーのミニオン大脱走』感想(ネタバレ)…「ミニオンズ」のスピンオフです(嘘)
個人的に一番好きな犯罪家族は『シャークネード』ですけど。正義のためとはいえ、この映画の主人公家族、サメを殺しすぎです。
『シャークネード5 ワールド・タイフーン』感想(ネタバレ)…ようこそ、日本へ
はい、そんな感じでふざけまくって脱線した文章を書いていますが、本作はテーマが“あれ”なだけにどうしても重たいトーンになりがち。結果、作品に対する反応もシリアスに、真面目に…と傾いていきます。それでも、いや、だからこそユーモアで語るのもいいと思います。

私、個人的には、本作は政治的に語るべきとは強要しないし、ましてやそんな本作の諸々の炎上騒動にムキになって反応することもないと思っています。逆に言えば、観た人の自由です。本作を右であろうが左であろうが政治で語ってもいいし、演技や撮影で語ってもいいし、センチメンタルに見てもいいし、ただの興味本位でもいい。本作は別に道徳の教材ではありません。パルムドールを獲ったからって作品自体が偉いわけでもありません。ただの映画です。

本作、そして本作を取り巻く喧々諤々な騒ぎを見て思うことは、世の中には映画を趣味にする人もいれば、映画で政治を語る人もいるし、息抜き程度にしか思わない人もいて、さらに仕事として接する人もいる。もちろん、ブログやSNSで感想や考察を書いて自己満足に浸る人もいる。

映画と人の関係ってそういうものです。多様で取りまとめようがない。でも、それらカオスな姿を全部ひっくるめて、私は映画って面白いなぁと思うわけで。

だから、本作も好きなように観てください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

是枝監督は疑似家族を客観視する

本作はパルムドール受賞と聞いてしまうと、何か画期的な内容なのかと思ってしまいますが、わりとこれまでの是枝裕和作品のエッセンスをそのまま引き継いでいるので、ある意味、いつもの是枝作品だなという安心感さえ感じます。しかも、今作は“疑似家族モノ”という完全な世界的潮流にある題材です。是枝裕和監督はずっとこの題材に向き合ってきた人なので、今作で評価が一種の最頂点に達したのは当然ともいえます。

そんな是枝裕和監督の作家性の特徴は、“神”視点的な客観性にあると私は思っていて。例えば、同じ“疑似家族モノ”で高い評価を得た『わたしは、ダニエル・ブレイク』のケン・ローチ監督は、徹底的に主題となる人物に寄り添うことで、本来だったら絶対に共感できないような立場のものにもシェアしているような気分を与えてくれます。
『わたしは、ダニエル・ブレイク』感想(ネタバレ)…私は何も貧しくなんてない
また、最近の“疑似家族モノ”映画で個人的にグサッときた『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』のショーン・ベイカー監督は、主題となる人物の視点と観客を一致させて、全く別の世界を見せてくれます。
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』感想(ネタバレ)…夢の国はどこにある?
一方の、是枝裕和監督は登場人物と観客には距離を置かせて客観視させるタイプが多い気がします。とくに『そして父になる』『海街diary』『海よりもまだ深く』と家族モノが続いてきた中で、2017年の『三度目の殺人』は家族を描いてはいるのですが、もろに観客に裁定させることを突きつけるような脅迫的な側面が強い一作でした。
『三度目の殺人』感想(ネタバレ)…本当のことを教えてくれよ

万引きの“見る見られる”要素

それを自然と意識させるのが撮影で、その上手さが今作でも光っていて、何度か俯瞰的なカメラワークが出てきます。それはもちろん状況説明としても機能しています。冒頭、“リリー・フランキー”演じる治とその息子・祥太が帰る場面。何気なく会話して歩いているようですが、綺麗な住宅の玄関の脇の道に入っていき、どんどん暗い画面になっていく中で、もうすでに対比が効いています。

一番印象的な撮影は、家族が花火を見上げるシーンでしょうか。普通だったらカメラは家族と一緒に花火を見上げる視点になるべきなのですが、なんとここではカメラは上から家族を映すのみ。打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? いえ、上から見るんです。これにより、作中の家族を客観的に見ていた観客の視線と、家族たちの視線が向き合うかたちになって、ちょっとドキッとさせられます。しかも、家族は音しか聞こえない花火を見ているわけですし、非常にメタ的。

こういう見える見えないという視点のトリックは他にもたくさんあって、“松岡茉優”演じる亜紀が働く風俗店のマジックミラーなんて、まさにそのものですね。見られていないようにみえて見られている。秘密に気づく信代の職場の同僚や、ゆりに万引きさせる祥太に一言いう駄菓子屋のオヤジなど、「見られた!」感というのも「万引き」という今作の題材と一致して面白いです。

最終的に本作のラストは、走り去っていくバスの中の祥太、そして、またもや団地の外廊下で独り遊ぶ“ゆり”を映して、裁定できない立場にいる子どもの視点で終わるというのも忘れられません。

こうやって視点というキーワードだけでもいくらでも語れる映画です。

万引き家族

万引きの“装う”要素

このように本作における「万引き」という題材は、「見る見られる」という要素を象徴するものでもありますが、もう一点あるとすればそれは「装う」ということ。

辞書で「万引き」について調べると「買い物客を装い、商品をさがすふりをして盗むこと」と説明されています。つまり、ただの窃盗とは違って、この“装う”というのが重要です。

治はゆりを“万引き”します。そして、以前は祥太を“万引き”したわけでした。もちろん何に装ったのか。それは“家族”です。では、装っているかどうかをどう判断するのか。それは考える以上に難しい。そういう映画だったと思います。

家族が逮捕されて以降は『三度目の殺人』的な警察等の権力による問いかけによって、否応なしに直接的に「家族とは何か」という議題を突きつけてくるので、大方の観客の頭に問題提起はされるでしょう。

でも、本作のその問いはもっと広いテーマとして受け止めることもできるのではないでしょうか。なぜなら社会に生きていれば私たちは誰だって「見る見られる」の関係性の中で「装う」ことをしているではないですか。このブログもそうですし、SNSもそうです。ただ、ネットの世界はミュートやブロックという機能を使って自分が嫌だと思った存在を抹消できます。でも、現実はそうはいきません。「見る見られる」の関係性からは解放されません。だから常に装い続けることになります。

つまり、本作の「万引き」は、利用・搾取などあらゆる行為に置き換えることもできるわけで。そう考えると、私たちは皆、“万引き家族”といえるかもしれません

万引き家族

これからはJK風俗です

そんなドラマを生み出した今作の役者陣ですが、全員上手すぎるので、あらためて褒めるところを列挙するのも馬鹿々々しいくらい。ただ全体的にハイブローな感じがした『三度目の殺人』と違って、今作は温かみがやっぱりありますね。だいたい“樹木希林”が出てくれば温かくなるんですけど。

本作のベストアクターは個人的には“安藤サクラ”かなと。ドラマの主軸となるキャラクターだったのもありますが、本作を撮る前に出産を経験して母になったことで、圧倒的な“母性”が凄まじく。主演作で賞もとった『百円の恋』の時と比べて、演技の深みが別次元。その彼女に劇中で「出産しないと母になれないでしょう」と厳しく突きつける是枝監督は鬼か。

あと個人的に本作が世界にアピールできたことで良かったなと思うのは、日本の風俗の今のトレンドをちゃんと示せたなということ。いや、なんか海外映画が描く日本の風俗って、ポールダンスしているか、エキセントリックなラブホテルか、和風な格好の芸者がいるかしかなくて、残念に思っていたもので。これからはJK風俗が当たり前に描かれるようになるかなという期待。

そんなしょうもない感想でオチにしておきます。

おすすめ PiCKUP!
↑2017年の是枝監督作『三度目の殺人』。『万引き家族』が“見られる側”の物語だとしたら、『三度目の殺人』は“見る側”の物語。
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