ローガン・ラッキー
映画『ローガン・ラッキー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Logan Lucky 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本公開日:2017年11月18日 
監督:スティーブン・ソダーバーグ 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

あらすじ

足が不自由で仕事を失い、家族にも逃げられて失意の人生を送るジミー・ローガンは、まもなく開催されるNASCARレースのさなかに大金を盗み出すという大胆な計画を練る。戦争で片腕を失った元軍人で冴えないバーテンダーの弟クライドをはじめとする頼りがいがあるのかないのかわからない仲間を揃えて、実行しようとするが…。

ネタバレなし感想

引退、やめました

「スタンドアップコメディ」というのがあります。小さい劇場やバーのステージでひとりのコメディアンが観客を前にトークする余興的なショーです。日本にも漫才はありますが、このスタンドアップコメディはちょっと中身が違います。それは「風刺」の要素が強いんですね。政治はもちろん、人種、宗教、犯罪、災害、その他の社会問題と、とにかく風刺しまくるのです。「えっ、こんなことまで笑いにしちゃっていいの?」とびっくりすることもありますが、そういう文化は凄いなとつくづく思います。Netflixでスタンドアップコメディが配信されているので気になる人は観てみると良いです。

何でこんな話をしたかというと、本作『ローガン・ラッキー』もまた、スタンドアップコメディみたいなものだからです。

監督は“スティーブン・ソダーバーグ”。長編デビュー作『セックスと嘘とビデオテープ』で、わずか26歳(!)にしてカンヌ国際映画際パルム・ドールという栄誉に輝き、2000年には『エリン・ブロコビッチ』と『トラフィック』でアカデミー監督賞にダブルノミネートし、受賞。続く2001年の『オーシャンズ11』ではエンタメ・ジャンルでも大成功をおさめ、その後もユニークな作品を連発。もはや向かうところ敵なしな監督だったわけですが、『サイド・エフェクト』と『恋するリベラーチェ』を公開した2013年に監督業を引退すると発表。

映画好きからは「引退しないで!」「戻ってきて!」の声多数でした。ところがそれから4年ないしで復帰ということで、なんか散々帰ってきてとか言っておいてあれですが「あれっ?」って感じです。これは「引退」というかただのちょっとした休暇だったのでは…。

まあ、とにかくその“スティーブン・ソダーバーグ”の引退撤回後の最新作となる本作は、まさしく“スティーブン・ソダーバーグ”のスタンドアップコメディともいえるような様相になってます。

時事ネタは当然のこと、加えて映画などのエンタメネタも満載。自分の過去作さえも笑いにしてます。これはネタがどれだけわかるかで面白さの振れ幅が大きく揺れ動くタイプの映画ですね。

じゃあ、ネタがわからなかったら面白くないのかというと、そこは“スティーブン・ソダーバーグ”。そんなこともなく、ちゃんとカバーしてくれる丁寧さも完備。

それこそ俳優の豪華さだけでも見ごたえがあります。“スティーブン・ソダーバーグ”作品の常連である主演の“チャニング・テイタム”も魅力ですが、一番は“ダニエル・クレイグ”じゃないでしょうか。「007」シリーズのジェームズ・ボンドで世界的に有名になりましたが、本作では爆破が得意なイカツイ囚人役という見たことないルックで登場。そういえば“ダニエル・クレイグ”も007引退を匂わせてまた出演することになりましたね。“スティーブン・ソダーバーグ”にも“ダニエル・クレイグ”にも振り回されっぱなしですよ…。

単純明快“ケイパー映画”なので気軽に鑑賞してください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

『オーシャンズ』シリーズとの違い

「まるで『オーシャンズ』シリーズの“従兄弟”のような作品」と説明されているように、本作は基本は『オーシャンズ』シリーズと同じ“ケイパー映画”。チームを作って、計画を立てて、犯罪を実行する…シンプルなストーリーです。

ただ、『オーシャンズ』シリーズのあのノリをそのまま期待したことで、ちょっと肩透かしを食らった人もいるかもしれません。同じ“ケイパー映画”といっても、『オーシャンズ』シリーズと本作は真逆な部分さえ目立ちますから。

『オーシャンズ』シリーズは、なんというか、全体を通して「イケイケなパーリーピーポー感」たっぷりに展開される痛快な犯罪遂行が魅力でした。出演陣もジョージ・クルーニー、ブラッド・ピットなどとにかく華やか。最近だと『ワイルド・スピード』シリーズっぽいがそれに近いノリです。

ところが、本作『ローガン・ラッキー』は、登場人物の置かれている状況や環境からして違います。田舎の州に暮らす、ブルーカラー、ワーキングプア、離婚、退役軍人…いわゆるかつての輝きを失った白人の中流階級以下の人たちです。本作も出演陣も、チャニング・テイタムやアダム・ドライバーなど、こういってはあれですが、『オーシャンズ』シリーズと比べたら華のないどこか野暮ったい人を演じることの多い人です。

そんな時代に取り残された人たちがこの閉塞感から抜け出すために犯罪にすべてを賭ける本作。なんだか日本では劇場未公開だった『最後の追跡』という犯罪映画でも見たような構図です。まあ、こちらはもっとコテコテのド田舎の話でしたけど。
『ローガン・ラッキー』は『最後の追跡』よりはエンタメ寄りなので見やすい人も多かったと思います。でもやっぱり本作は中身まで全部エンタメ100%な作品ではないので、全体的にはコミカルなクライムサスペンスではあっても、芯には「哀愁」を感じさせるつくりになっていました。それが劇中で何度か使われる、ジョン・デンバーの「故郷に帰りたい(Take Me Home, Country Roads)」ですね。日本だと「カントリー・ロード」としてカバーされ、『耳をすませば』で有名にもなりましたが、本来は「West Virginia」という単語が出てくるとおり、故郷を想うアメリカの田舎らしい歌です。

つまり、大金を得て人生を挽回しようとしてますが、本音を言えば「昔に戻りたいな…」という懐古主義を感じさせます。

“スティーブン・ソダーバーグ”監督も、今のアメリカの現状を鑑みると、どうしたって『オーシャンズ』シリーズのような単純お気楽な映画は作れないと判断したのかもしれません。そういう意味では、なるほど今の時代に撮ったケイパー映画として本作はベターな仕上がりではないでしょうか。

ローガン・ラッキー

監督・俳優・脚本家、笑いどころ満載

本作の芯にあるのは単純お気楽な映画ではない…といっても、あまり肩肘張らずに鑑賞できるバランスに調整されており、そこはさすがの“スティーブン・ソダーバーグ”節。

過去に手がけた作品でも、感染症の拡大と対応のせめぎ合いをリアルに描く『コンテイジョン』や、乱用される抗うつ薬の恐怖を描く『サイド・エフェクト』など、社会問題に切り込みながらもそこまで説教臭い堅さは出さない“飲み込みやすい”映画が多かったです。その作家性が本作でもいかんなく発揮されていました。

また、今回は今流行りのキャラ映画としてもツボをおさえた作りになっているのも“飲み込みやすさ”をさらにアップさせています。

本作でジミー・ローガンを演じ、監督と何度もタッグを組んでいる“チャニング・テイタム”については今さら語ることもなし。今回は凄く田舎に住み着いている熊っぽい見た目でなんか可愛い。『マジック・マイク』では自分のリアルなキャリアをそのまま活かした男性ストリッパーという役柄でしたが、今回は炭鉱夫。でも似合ってました。

一方で、今作で自分のリアルなキャリアをそのまま活かした役柄だったのが実は“アダム・ドライバー”です。彼は役者以前は海兵隊で、怪我で退役した過去があるんですね。だから元軍のクライド・ローガンというキャラはピッタリです。まあ、片腕がなくて義手という、もろに『スター・ウォーズ』のパロディのほうが目立っちゃってるけど。

それで同じく『スター・ウォーズ』つながり(?)かはしりませんが、ストームトルーパーだった“ダニエル・クレイグ”が爆弾魔囚人で登場。ジェームズ・ボンドが捕まってグレたみたいになってます。これは「007」シリーズの悪役もいけるんじゃないか…。

この3人のコミカルな演技がとても見ていて楽しい。これら俳優好きには堪らない一作ですね。

ただ、個人的に本作で一番のお笑いポイントは、脚本家の存在なんじゃないかと思います。本作の脚本を手がけたのは“レベッカ・ブラント”という人。公式サイトでは「ウエストバージニア州ローガンで、代々地元の炭鉱で働いてきた家庭で育った。この作品に出てくる爆破装置の作り方をインターネットで調べた後、TSA PRE資格が永久に無効となるという通知を受けたという。本作『ローガン・ラッキー』が初めて書いた脚本である」と紹介されています。

なんじゃその経歴は…と思ったら、なんとこの“レベッカ・ブラント”、架空の人物疑惑があるらしいじゃないですか。とにかく正体不明です。もうこのエピソードだけで「この映画らしいな…」と半分呆れ半分笑いですよ。

…う~ん、「単純お気楽な映画ではない」と書いたけど、あの言葉は撤回しようかな。やっぱりお気楽な映画です。

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