LION ライオン 25年目のただいま
映画『LION ライオン 25年目のただいま』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Lion 
製作国:オーストラリア 
製作年:2016年 
日本公開日:2017年4月7日 
監督:ガース・デイビス 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★
 

あらすじ

1986年、インドのスラム街で暮らす5歳の少年サルーは、ある出来事から遠く離れた地で迷子になる。25年後、そのままやがて養子に出されてオーストラリアで成長した彼は、友人の勧めでわずかな記憶とGoogle Earthを頼りに、本当の家族が暮らす故郷を探しはじめる。

感動の実話は、あなたも無関係じゃない

テキサス州のクロス・プレインズという小さな田舎町にゲームが大好きなひとりの男の子がいました。彼の名前は“ジョン・ハンケ”。ゲーム会社を立ち上げることが夢だった彼は、大学を卒業後、ゲーム会社「Big Network」を設立。でも、ヒットするようなゲームはそう簡単に作れません。そんなとき、地球上のあらゆる場所の衛星画像を閲覧できるソフト「Keyhole」を開発します。その革新性に目を止めたのが他ならぬGoogleでした。彼はGoogleにすぐさま引き抜かれ、2005年に「Google Map」と「Google Earth」を公開するにいたります。

世界的に有名なサービスも、実はそのルーツを辿れば、小さな田舎に暮らしていた夢を抱えた子どもに行きつくのです。

本作『LION ライオン 25年目のただいま』もまたそんな話といえなくもないでしょう。

物語は「あらすじ」に書いたとおり。『チア☆ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話』のように、邦題で物語のオチがバレているという点では、映画的な好奇心をくすぐるものは薄いかもしれません。でも「“LION ライオン”って何?」と疑問に思うでしょう。この秘密は…観ればなるほど!と合点すると同時に、映画的なテーマがより強調される仕組みになってます。

忠告としては、成長して得た仲間とともに「Google Earth」をいかに駆使して故郷を突き止めるかという『ミッション・インポッシブル』的な展開を期待しないでくださいということ。

あくまで主題は“ルーツ探し”。内面的なドラマです。そして、それは誰にも当てはまることだと思います。変わった境遇の人の伝記ドラマというだけではない…感動の実話は他人事じゃないのです。

惜しくも米アカデミー賞では受賞を逃がしましたが、6部門でノミネートは凄いこと。しかも、監督のガース・デイビスは本作が初の長編映画です。

監督と役者の才能に裏付けされた確かな感動を期待してください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





サルーのドキュメンタリー

本作を手がけたガース・デイビス監督はドキュメンタリー作品から映画界に入ったという経歴もあってか、本作もドキュメンタリーチックでした。

優れたドキュメンタリー作品を作るには情報の整理と見せ方が重要ですが、本作はそれらが非常に秀逸です。

例えば、序盤の大都市カルカッタ(コルカタ)での迷子パート。ここの舞台となるロケーション映像が本当に美しく、ディストピア的ともいえる独りぼっち感がより際立つ構成で観客もサルーとシンクロします。アカデミー賞で撮影賞にノミネートされるだけあります。私はなんかピクサーのアニメーション映画『ウォーリー』を連想してしまいました。幼少期のサルーの無邪気さもすごく『ウォーリー』に登場したロボットっぽいのです。

↑個人的にはピクサー作品で一番好き。

そんな美しい映像を「綺麗だな…」とぼけーっと見てみると色々重要な点を見逃します。そうした映像のなかに、実は後半にサルーが故郷を探しあてていくうえでキーとなる地理情報がちゃんと描かれています。そういえば、映画の冒頭も空から地域を俯瞰してみた映像から始まってました。

こういう積み重ねが後の“ルーツ探し”のカタルシスにつながっていきます。

Google Earthが発見させてくれること

本作のテーマは“ルーツ探し”だとは先に書きましたが、私たち日本人は“ルーツ探し”に関心がない人が多いです。たぶんこれは島国という地理的な背景と歴史的経緯から、民族や人種を気にする価値観が薄いからなのでしょう。日本人が関心あるのは出身都道府県か、血液型くらいなものです。

奇遇にも本作の主人公のサルーもまた、私たち日本人と似た状況に行きつきます。養子に出されたサルーがインドから離れてたどり着いたのは、オーストラリアのタスマニア。ここは四国と九州を合わせたくらいの陸地面積の島で、要するに世界から隔離された閉鎖的世界なわけです。もちろん、故郷のスラム暮らしよりは裕福でしょうけど、何不自由ない生活の中で、自分のルーツなんて気にする必要はなかったはずです。

また、列車で迷子になった時点のサルーは、大都市カルカッタ(コルカタ)で世界の広さに圧倒されるばかりで、自分のルーツどころか自分と世界の関係性なんて正確に理解するにはほど遠い状態でした。

そして、大学に進み、“ルーツ探し”の道具に提案されたのが「Google Earth」。「Google Earth」を利用してサルーは“世界にいる自分”をはっきり認識します。そういう意味では本作における「Google Earth」は、故郷を発見するためのツールではなく、世界と自分のつながりを実感させてくれるツールなんですね。

本作はどうしても宣伝で「Google Earthで故郷を探す衝撃の実話!」といった感じで手法ばかりを押しがちですが、本質はそこじゃない。おそらく「Google Earth」以外にも故郷を特定する方法は何かしらあったでしょう。

LION ライオン 25年目のただいま

“ルーツ探し”は皆している

そんなサルーが20年も経って変わり始めたきっかけとなったのが「大学」。 大学の仲間たちにルーツを聞かれ、初めて考えるようになります。ルーニー・マーラ演じるルーシーとの出会いも転機です。彼女との恋愛模様はドラマ上は蛇足に感じるかもしれませんが、サルーが他人にもルーツがあるんだと知るうえでの最初の重要な人物だと思います。この他人のルーツの存在を認識させてくれる相手は、その後、マントッシュや育ての母にいたるまで続いていきます。

“ルーツ探し”を思いついてもなかなか前には進みません。その原因は、インドにある7200以上の駅から迷子になった最初の駅を特定する技術的な難しさ…ではなく、内面的な葛藤です。本当にルーツ探しをしてよいのか…。しかし、自分の境遇は確かに特殊かもしれないけど、誰でも“ルーツ探し”はしているんだとわかってきます。

そう考えると、不良キャラ的な立ち位置であるマントッシュは、サルーよりも一足早く自らの“ルーツ探し”をしていたとも解釈できますよね。あの家を出ているのですから。

じゃあ、“ルーツ探し”の決心がついたかというとそうではない。故郷を探すべきか、いや止めた方がいいかも、いやそれでも探すべきだ、いやどうせ無駄に終わる、いやここで諦めるのもさすがに、いやしかし探してどうする…心はブレブレです。それでも。それでも、サルーの手はパソコンに伸び、「Google Earth」を彷徨う。人はルーツに導かれるのです。無意識に。まるでDNAに刻み込まれた本能みたいなものなのかもしれません。

映画のラストで示される「LION」の意味。自分は出身地の名前はおろか、本名さえも覚えていなかった…人は案外、自分を知らないものなんだと、教えてくれる映画でした。

最後はどこまで続くかにみえる線路でのサルーとグドゥの姿で終わります。きっとこの線路のように人生のルートは続いていくし、辿って遡ることもできる。「Google Earth」には表示されない世界に行ってしまったグドゥにも、いつかは会えると信じて…。

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