孤狼の血
映画『孤狼の血』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:孤狼の血 
製作国:日本  
製作年:2018年 
日本公開日:2018年5月12日 
監督:白石和彌 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

昭和63年、暴力団対策法成立直前の広島・呉原で地場の暴力団・尾谷組と新たに進出してきた広島の巨大組織・五十子会系の加古村組の抗争がくすぶり始める中、加古村組関連の金融会社社員が失踪する。所轄署に配属となった新人刑事・日岡秀一は、破天荒なベテラン刑事・大上章吾とともに事件の捜査にあたるが、この失踪事件を契機に尾谷組と加古村組の抗争が激化していく。

ネタバレなし感想

世界よ、これがヤクザ映画だ

最近、Netflixで配信されている『アウトサイダー』『Darc ダーク』といった外国人の制作した日本を舞台にしたヤクザ映画を観たことで思ったことがありました。どれも日本をとてもリスペクトしていて、ヤクザという日本映画史にも欠かせない要素に、海外視点ながらもちゃんと向き合っている作品だとは思うのですが、何かが足りない…と。
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このモヤモヤ感はなんだろうと思いつつ、うやむやなまま過ごしていたら、この映画を観て「これだ!」と天啓を得た気分になりました。それが本作『孤狼の血』です。

ヤクザの組同士の抗争&警察汚職バディものという、これぞ王道なストレートド直球であり、話自体もそこまで意外性があるわけではありません。しかし、今作は配給と制作が東映であり、これまで暴力ヤクザ映画をずっと作り続けてきた歴史がそうさせるのか、重ねてきた経験値が段違いでした

昨今の映画館は大衆受けするエンタメor恋愛がメインとなっており、そんな作品ばかりがズラッと並びますが、そんな中でも『孤狼の血』の公開はなかなか挑戦的です。それでも日本は『アウトレイジ』を始め、ヤクザ映画など暴力性のある作品もそれなりに公開されている方だと思うし、たぶん日本人気質なんじゃないかと思いますが。宣伝では、「コンプライアンスを過度に重視する日本の映像業界への挑戦」と謳われていますが、個人的にはカウンター的作品というよりは、日本が積み上げてきた暴力映画の集大成な感じです。本作はあらためて日本のヤクザ映画の凄みを見せてつけてきました。

監督は、今や日本のバイオレンス映画のトップを走るクリエーターと言っても過言ではない“白石和彌”。監督デビューは2010年ですが、この10年もしない短い間にすっかりとてつもない存在感を発揮するようになりました。『凶悪』(2013年)や『日本で一番悪い奴ら』(2016年)など、バイオレンスとエロスに対する情け容赦ないコンボ技を華麗に決めていき、2017年は『彼女がその名を知らない鳥たち』でいろいろな賞に輝くなど、あれよあれよという間に頭角を現していく姿は怖いくらい。しかも、2018年は本作の他に『サニー/32』『止められるか、俺たちを』と計3本の作品を公開し、ちょっとスピード速くないですか。あの、せめて“白石和彌”監督作品は年に一本ってことにしてくれませんか(身勝手なお願い)。

本作はヤクザ映画やバイオレンス映画が好きな人は絶対に観るでしょうけど、ぜひとも普段はそういう作品は観ないなという方にも鑑賞してほしいですね。“白石和彌”監督作品を一本も観たことがないという人には最初の一作としてオススメです。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

何をしてもええんじゃ

本作は“白石和彌”監督作品の中ではかなり見やすい部類になっていたと思います。その理由はおそらくヤクザ映画というフォーマットに沿っていたからじゃないでしょうか。ヤクザ映画リテラシーのある人なら、「ここはこうなって、アイツはああなるよな…」という鉄板ネタ展開を予測しやすく、ゆえに一定の安心感があり、だからこそ思ったとおりになったときのカタルシスがある…そんな感じです。

そのためか、広島県警、広島仁正会、五十子会、加古村組、全日本祖国救済同盟、尾谷組、呉原金融など、非常にたくさんの組織が絡み合う物語なのに、全然混乱しませんでした。まあ、個人差があるでしょうけど…。

ヤクザ映画というフォーマットに沿っているからこその特徴を挙げるなら、例えば、ヤクザ映画では欠かせない暴力表現。もうすっかりバイオレンス映画に見慣れてしまって感覚がマヒしているせいかもしれないですが、本作も特段珍しい暴力表現はないなと個人的に思いました。でも、なんというか、“ちゃんとやってくれる”気持ちよさが良いです。

あえて期待どおりじゃなかったシーンといえば、終盤に日岡秀一が養豚場で大上章吾殺害の手がかりを探す場面。私はてっきり豚をその場で殺してその胃内容物から証拠を見つけるくらいのクレイジーさを見せるかと思ったのですが…(鬼畜)。そういえば、なんで豚の糞から作られた堆肥で育った野菜は美味しく食べられるのに、豚の糞自体を食べるのはあんなに嫌なんだろう…(アホな疑問)。

あとは死体の描写。埋設されて腐敗した死体、海に捨てられて水で膨れた死体、バッサリと斬られた首…どれもハッキリ映します。このへんも容赦なくて良いのですが、ここは日本人の死生観も見せるようなさりげなさがありますよね。これですよ、外国人の皆さん。

そういう意味では順当なバージョンアップを見せた現代版ヤクザ映画を見せてくれたようなものですね。『ちはやふる 結び』のときも同じ感想を書きましたが、本作も際立った個性はないにせよ、個々のポイントで高パフォーマンスな技を決めていってくれるおかげで最終的には大満足…というパターンでした。

痛い、臭い、狭い

こういう暴力描写は、韓国映画だとか、海外の日本舞台のヤクザ映画にもあるし、そこで個性を出すのは今や難しいのは百も承知。でも、それらの他国映画にはない要素で本作は比較できない高みに到達していると思います。その重要なポイントは“臭い”

男臭いというか、下手したらただ臭いだけかもしれない。でもそこがいい。

出てくる登場人物全員が漂わす、言葉にしづらいですけど、あらゆるモノが入り混じったような臭い。汗、血、泥、鉄、体臭、口臭、タバコ、酒、性…。それがコイツらはそこに生きているという実在感を与えます。体を綺麗にする…みたいなシーンはないですからね。展開が進めば進むほど、汚れていく登場人物たち。冒頭から養豚場という臭い場所の定番から始まり、ラストは線香の匂いが漂ってきそうなお墓でタバコ。ずっと臭いですよ。もし本作が4DXで公開されていたら、終始劇場が匂うかもしれない…(それはそれで嫌だな…)。

その匂いを際立たせるのが接写の多さ。登場人物にやたらとカメラが近く、顔を舐めろと言わんばかりの“どアップ”もあるしで、とにかく暑苦しい。そもそも日本の生活環境は土地柄もあって狭いのが特徴。そこで撮影するのは難しいため、ドラマなどでは例えば主人公の暮らす部屋が不自然なくらい広々としていたりとかは多いのですが、今作は狭いまま撮っているんですね。

終盤、最後の見せ場としてトイレで五十子会会長が尾谷組に殺されるシーンがありますが、あそこもわざわざ個室で会長の首に刀を突き刺す一之瀬をぐるっと回りこんで撮っており、かなり手が込んでいます。

こういう日本らしい環境でのヤクザ活劇。これですよ、外国人の皆さん(2度目)。日本はネオンがギラギラ輝いているだけじゃないんです。

孤狼の血

絶賛暴走中の役所広司、狂いだした松坂桃李

当然、本作に多大な貢献をした役者陣は語るまでもなく素晴らしいです。

クレイジーな正義の制裁者である刑事の大上章吾を演じた“役所広司”については、もう、また賞を獲る気なんですか。『三度目の殺人』のときもそうでしたが、一度ノり始めると怖い人だな~と。
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正直、最近はずっと“役所広司”のターンになっているような…誰にも止められない感じ。暴れ放題です。このままだと邦画は“役所広司”に占拠されてしまうぞ…。

その大上章吾とタッグを組むことになる日岡秀一を演じた“松坂桃李”も、ちゃんとその“役所広司”の暴走に張り合えているから凄い。彼もイケメンですから、そういう俳優は今の日本の映画界ではどうしてもキラキラ青春恋愛映画の“カッコいい男”役に安易に起用されがち。でも、“松坂桃李”はしっかり独自の立ち位置を確保しつつあり、2018年は『不能犯』『娼年』と尖った役に立て続けに挑戦。そして、今作ですよ。今年はすっかり忘れているでしょうけど、『パディントン2』で可愛いおとぼけクマのキャラに吹き替えしていたんですからね。
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あとは、最初は怖そうなのにしだいに小物臭を見せていく吉田滋を演じた“音尾琢真”と、明らか初登場時は弱そうなのに最終的にしっかりヤクザな姿を見せる瀧井銀次を演じた“ピエール瀧”の対比が良かったなとか。一之瀬守孝を演じた“江口洋介”は初のヤクザ役らしいですけど、全くそうは見えない貫禄が凄いなとか、キリがないほど惚れ惚れする俳優演技の乱れ撃ちでした。

久しぶりに日本ヤクザ映画の良さに気づいて、スッキリした映画体験。願わくば、本作、ぜひ世界公開…いや、それは無理でも世界配信はしてほしい。これが日本のヤクザ映画なんだと、世界にアピールしてほしい。頑張ってください、東映さん。

おすすめ PiCKUP!
↑白石和彌監督作『彼女がその名を知らない鳥たち』。
↑白石和彌監督作『日本で一番悪い奴ら』。
(C)2018「孤狼の血」製作委員会