さようなら、コダクローム
Netflix映画『さようなら、コダクローム』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Kodachrome 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信 
監督:マーク・ラソ 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

あらすじ

クビになりかけている中年音楽プロデューサーのマットのもとに、ある日、見知らぬ女性が訪れる。彼女が言うにはマットの父であるベンは余命わずかで、自身の持っている古い写真フィルムを現像できる唯一の場所まで一緒に行ってほしいというのが最後の願いだという。そして、マットとベン、看護師のゾーイの3人で旅が始まる。

ネタバレなし感想

知っていますか、コダック

米アカデミー賞の授賞式が行われている会場の名前は「ドルビー・シアター」といいます。しかし、2012年以前の名称は「コダック・シアター」でした。

この「コダック」というのは、知っている人はご存知のあの世界最大の写真用品メーカー「Kodak」のことです。正式な社名は「Eastman Kodak Company」ですが、日本でも「コダック」という呼び方が一般的。創業1881年の老舗で、世界で初めてロールフィルムやカラーフィルムを発売したり、デジタルカメラを開発したりと、撮影業界を支えてきた大黒柱でした。無論、映画業界も大きな恩恵を受けています。

しかし、アナログなフィルムの衰退によって経営が悪化し、倒産しかけます。2012年以降の大規模なリストラと事業の見直しによってなんとか今は持ち直している状況です。

そんなコダックの今はなきフィルムのブランドのひとつが「コダクローム」であり、その名をタイトルに冠した映画が本作『さようなら、コダクローム』です。

どういう話かというと、病気で余命わずかな父の願いでコダクロームのフィルムを唯一現像できる、カンザスにある「Dwayne's Photo」へ車で向かうというもの。この「Dwayne's Photo」も実在していて、1956年に創設され、2010年までコダクロームを取り扱っていました。

物語自体は典型的なアメリカン・ロードムービーであり、特段変わったこともありません。アメリカ映画にありがちな、自分を見つめ直す系作品ですね。日本のような島国ではこういう自国を旅することで人生リフレッシュみたいな感覚ってなかなか難しいです(まあ、それでもやっている人はいますけど)。

しかし、どんどん加速度的に発展して経済社会も人間精神も追いつけていない気分になる昨今、忘れていたものの価値を再確認させるような温かい映画です。それはアメリカ人だけでなく、日本人にだって心に響くでしょう。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

人生が下降したとき、旅は始まる

レコード会社に勤める音楽プロデューサーのマットは、自分が支えてきたミュージシャンに「あんたはトロい」と厳しい言葉を吐き捨てられ、上司からは「音楽はもはや売り物じゃない」と時代遅れの考え方を指摘され、仕事は窮地に。結婚もしておらず、仕事一筋のマットにとって、「仕事が認められない=人生が認められない」も同じ。クビにするまでの猶予として2週間やるから成果を出せと言われ、岐路に立たされます。

しかし、そこへ余計な火種を持ち込むかのようにやってきたのはゾーイという女性。彼女は父であるベンの看護師で、あなたの父親はガンでもう長くありませんと告げられます。ところが、マットは悲しむどころか、どうでもよさげ。「奴とは10年話していない」「あいつは母を残して消えた」と怒りの声をあげるのでした。

「コダクロームは知っている?」というゾーイの言葉から、写真家だった父はフィルムの現像所まで息子と一緒に行きたいと願っていることを知るも、そういう余裕すらないマットは拒否。それでも自分のクビをつなげる可能性のある才能あるバンドに道中で出会えると聞いたことで、完全に仕事のためにその父の願いを嫌々聞き入れることにします。

こうしてマットとベンという険悪な親子、そしてその間を気まずそうにつなぐ看護師のゾーイとともに旅が始まるのでした。

さようなら、コダクローム

カッコいいけど、クズなエド・ハリス

こういうロードムービーでは俳優の素の演技量が問われるもので、その点では本作の俳優陣はとても魅力的でした。

まずマットを演じた“ジェイソン・サダイキス”『シンクロナイズドモンスター』でクソ男な役を熱演したことでも記憶に新しいです。
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本作では、確かに時代に乗り遅れている感のある中年キャリア男にぴったりな役で、いかにもロードムービーしたほうがいい系の風貌でした。こういう父との確執を抱えながら表向きはそれを出さずに生きている人って意外とたくさんいますから親近感が湧きやすいのではないでしょうか。

対する、マットの父であるベンを演じるのは名優“エド・ハリス”。最近だと『マザー!』に出演していました。
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本作はでは、正直、カッコよすぎますよね。車の後部座席で風に揺れながらカメラを構えている姿だけでも絵になります。これが小日向文世とかだったらそうはいかないよな…(唐突に失礼な文章)。しかし、その漂うクールさをぶち壊すかのように、本作では“ヤリチン”クズ野郎っぷりを披露。もう年なので“行為”自体はしませんが、口からは出るわ出るわセクハラ的発言の数々。息子はもちろん、周囲の人間をどん引かせます。

そのベンを介護してきたゾーイを演じるのは“エリザベス・オルセン”。今ではマーベル映画のスカーレット・ウィッチ役ですっかり顔を知られた感じですね。『gifted ギフテッド』のクリス・エヴァンスでもそうでしたが、アメコミヒーローを演じる俳優がこういう日常系ドラマに出演していると、なんだかホッとするのは私だけでしょうか。

作品の価値は何?

本作は一見すると、デジタルを蔑視し、アナログを賛美する、ベタな説教臭い話に思いかねないです。確かにベンのセリフでも「最近の人は写真をたくさん撮る。何十億枚と。でも現像はしない。データは電子のチリだ。後世の人が探しても写真は出てこない」という内容があったり、音楽業界で働くマットもストリーミング時代についていけないことで苦しんでいたり、そういう対比要素はあります。

それでもマットが劇中で「何を作っても見なければ意味はない」と言うように、結局はアナログであろうとデジタルであろうと「創作物の価値を問う基準」は変わっていないという話だったと私は思います。

例えば、この映画感想ブログも同じ。何のためにこんな面倒なブログを書いているかといえば、映画鑑賞の記憶を残すためです。だったら、映画レビューを投稿できる専用のサービスがあるのですが、それを使うとどうしても内容は薄くなって、数を多く記録することがメインになってしまうのですよね。でも、ブログでじゅうぶんな文章量でじっくり感想を書くと、その映画に対する愛着が段違いに変わります。実際、映画を観た直後はそうでもなかったのに、感想を書いていると評価が2、3割増しに向上することはしょっちゅうです。そんな稚拙なブログでも誰かが目にすることで、映画を観たり、深く知るきっかけになってくれれば嬉しいものです。

創作物が連鎖的に影響し合うという現象は劇中でも描かれていました。ベンの写真が他の写真家に影響を与え、ラストには息子にも救いをもたらす。ベンが展覧会をしたがる理由もそういうことでしょう。

映画だって作品の価値を決めるのは、興行収入でも、観客動員数でも、受賞実績でも、レビューの得点でもなく、やっぱり人が時代を越えてつないでいってくれるかだと個人的には思っています。

時代がどう変化しようとも、このつながりだけは続けていきたいものです。

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(C)Netflix