荒野の殺し屋
Netflix映画『荒野の殺し屋』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:O Matador(The Killer) 
製作国:ブラジル 
製作年:2017年 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:マルセロ・ガルヴァオン 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★

あらすじ

社会から隔離された荒野で成長したカベレイラは、殺し屋だった育ての父と同じ運命をたどり、ブラジルの無法地帯で誰もが恐れる冷酷な殺し屋となる。本能の赴くままに無慈悲な世界で生きていく彼の前には、他の殺し屋たちも蠢いていた。

ネタバレなし感想

カンガセイロとは?

今回、紹介するNetflixで配信されているオリジナル作品『荒野の殺し屋』。そのタイトルとビジュアルから、「あぁ、西部劇か」と思う人もいるかもしれませんが、西部劇ではありません

本作はブラジル映画で、当然、舞台もブラジル。時代は20世紀前半です。

そして、メインで描かれているのは「カンガセイロ」と呼ばれた人たちなのです。といっても大多数の日本人は知らない言葉ですよね。かくいう私もブラジルについては無知も同然なのですが、本作を楽しむうえでこの「カンガセイロ」と時代背景について事前に知っておくのが良いと思いますので、簡単に勉強がてらまとめましょう。

1900年代前半のブラジルは君主制から共和制に転換したものの政府に権利が集中することへの反発が猛烈でした。ブラジルといえば今もそうでしょうが圧倒的に広大な地方が存在していて農業を生業にしています。そして、当時、この大農園主は都市部の政府を嫌い、自分たちでその土地を実質的に支配するようになりました。

当然、政府に頼りませんから、治安維持も自分たちで行います。そこで活躍したのがカンガセイロと呼ばれる集団です。この武装した荒れくれ者たちは基本、雇われさえすれば何でもする人たち。まさに大農園主に変わって手を汚す仕事であり、スーサイド・スクワッド状態。一方で、傲慢な大農園主に苦しめられる労働者たちも存在するわけで、その人たちの味方になって活動するカンガセイロもいました。つまり、立場によっては、悪党の殺人集団にもなるし、正義の義賊にもなる…そんな人たちだったんですね。

で、すっかりそんな時代も過ぎ去った現在のブラジルでは、このカンガセイロを英雄視的な扱いをするほど人気があるようで、普通に土産物でマスコットになってたりするそうです。あれですね、きっと日本人でいうところの戦国武将みたいなものと捉えればいいのかな。一種のアイコンになっているという意味では同じでしょう。

無論、カンガセイロを題材にした映画もたくさん作られていて本作もそのひとつというわけ。

カンガセイロにはその活躍から非常に名の知れた人物が何人かいるのですが、本作で一応主人公となっているのは「カベレイラ」というカンガセイロです。“一応”と書いているのは、他の人物も描かれているので、あくまでメインといった感じ。

カンガセイロの歴史を知らない私のような人間からみると、非常に新鮮な気持ちで観られる映画です。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

寡黙で濃厚なブラジル・エンタメ

本作は先にも説明したとおり、実際の歴史を舞台にカンガセイロとなるカベレイラという男の人生を語っていく物語です。

じゃあ、伝記ドラマなのかというと、う~ん、どうなのでしょう。カンガセイロは伝説化していますし、本作もかなり脚色が強いと思います。まあ、日本の時代劇でも織田信長とかがあれこれ脚色されて描かれているのと似たようなものと受け止めればいいんじゃないですか(テキトー解釈)。

ということで、未知の異国の歴史を映画で見つめながら、これはどこまでマジなんだと考えながら見るのが本作の楽しみ方のひとつな気がします。

冒頭、岩山に無造作に捨てられた赤ん坊がピューマ(みたいな大型のネコ)に襲われそうになっているところを助けられるというシーンから主人公の人生が開幕するわけですが、これなんてもうね。これはブラジルの地方では割と日常茶飯事なのか、はたまた異常なのか、それさえもわからないですけど、インパクトは絶大。その後の子ども時代の、サソリを生でかぶりついたり、トカゲの腹をかっさばいて調理しているシーンは、普通にありそうだなと思いましたけど。

まあ、あとはほとんどエンタメですから、割り切って楽しみましょう。

実際、本作はエンタメとしても普通に満足できるつくりです。

まず、映像が非常に凝っていました。あのカッコいいビジュアルのオープニングから一気に引き込まれますし、印象的なカットも多かったです。そして、アクション。マカロニウエスタン的なひたすらド派手さありきのものとは全くの正反対、無駄を一切省いた寡黙さがすごくカッコいい。カンガセイロであろうと、そうでなくても、皆、一撃で仕留めるので気持ちがいいですよね。

キャラクターも濃いメンツが揃ってました。

主人公のカベレイラ以外にも、カンガセイロの殺し屋たちがたくさん登場するわけですが、全員個性豊か。復讐に燃えてカベレイラを狙うソブラル、子ヤギちゃんと言いながら追いかけてくる不気味なスカー、金髪の悪魔と恐れられ豪快な舌切りを披露するコリスコ、迷惑極まりない試し撃ちはやめてほしい最強の殺し屋グリンゴ…出番が少ないキャラも、あっけなく死ぬキャラも、全員キャラがたちすぎます。他も良かったです。警察署で働き、似顔絵をプリンタみたいなスピードで描写するメガネ男の、「何で笑った!」で激昂するイカレ具合と外反母趾にやっぱり笑うし(殺される…)、あとは黒幕だったフランス男。いい感じのクソ野郎でした。目の前で人が死んでも「ほへ?」みたいな顔しているのがいいですね…。

荒野の殺し屋

小石に呪われた英雄

本作の肝は当然、主人公となるカベレイラの人生譚です。

観客がカベレイラを好きになれるかがこの映画の評価の決めどころ。その点、私はすっかり彼に魅了されてしまいました。

セブン・イヤーズに育てられたものの、ある日、忽然と消えてしまったことからひとりぼっちになるカベレイラ。青年になり、このままではどうしようもないので、初めての外の世界で「初めてのおつかい」ならぬ「初めての殺人」に挑戦。あっさり成功します。で、今度は「初めての女」で性の快楽を知り、売春宿にドハマりした彼は、地域で通貨となっている石欲しさに、フランス男の配下となって人を殺しまくる。

社会から隔絶された環境で育ったせいか、獣の本能で生きている感じのカベレイラ。一方で暴力的な奴かと思ったら、意外と義理があるわけです。女性や子どもは殺さないし、自分が間違えたら素直に認める。このギャップですね、魅力は。

そんな彼の前に現れた息子アントニオ。最初はガン無視でしたが、最終的には「見て学べ」の寡黙スタイルによる魚とり講座をやったりと、すっかり打ち解けて…。最後はアントニオを列車で逃がす優しさ。

そして、真実を知ります。結局、カベレイラは自分を育てたセブン・イヤーズと同じように子を育てたうえで、さらに復讐も果たしたのでした。最後に成長したアントニオが母の復讐を遂げて、全てが完了するオチといい、この簡潔なまとめ方が最高にカッコいいです。

最小限の風呂敷を広げて、最小限の動作でその風呂敷をたたむ…製作陣の腕が発揮されていた映画だったと思います。

本作はカンガセイロの入門として非常に見てよかったと思える一作でした。

©Netflix