ジョシュア 大国に抗った少年
ドキュメンタリー映画『ジョシュア:大国に抗った少年』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Joshua: Teenager vs. Superpower 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:ジョー・ピスカテラ 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★

あらすじ

中国の干渉に断固として反対し、香港の自治権を求める10代の活動家ジョシュア・ウォン。彼の熱い主張はしだいに若者たちの賛同につながっていき、やがて香港の街を揺るがす巨大な抗議運動へと成長していった。その中心にいた若き活動家の軌跡を追いかける。

有名にして消えた名前

自分の名前をネットで検索したことはあるでしょうか。エゴサーチというやつです。自身の記述はないかもしれないですが、何も表示されないという人は普通いないでしょう。

しかし、世の中にはネットで名前を検索しても何も表示されない人がいます。

例えば“ジョシュア・ウォン”。彼の名前は中国のインターネット環境では検索することはできません。これは察しのとおり「検閲」されているからです。

では、一体この“ジョシュア・ウォン”という人物は何をしたのか。それを知りたければ本作『ジョシュア:大国に抗った少年』というドキュメンタリーを観るべきでしょう。本作はサンダンス映画祭にも出品された作品です。

10代にして、雑誌「TIME」の表紙を飾り、雑誌「Fortune」がまとめた「2015年の世界の偉大なリーダー50人」に選ばれている“ジョシュア・ウォン”。彼が先導した香港民主化運動(通称「雨傘革命」)の軌跡が、始まりから終わりまで描かれています。この一連の活動は世界中で報道されましたし、日本でも後に「SEALDs」など学生中心のデモ活動にも影響を与えました。

各地で何らかのデモが毎回のように行われている現代。デモに携わる者は観ておいて損はない一作だと思います。






↓ここからネタバレが含まれます↓





香港のデモは何が違う?

本作で主題となっている香港での一連のデモ。デモなら日本でも実施されているし、世界の先進国でもあちこちで発起していますが、この香港での一連のデモはそれら数多のデモとは決定的に違う点があります。それはやはり香港の歴史に触れずには説明できないでしょう。

香港…正式名称「中華人民共和国香港特別行政区」は、東京都の半分くらいの面積で、空港もあればディズニーランドもある、非常に栄えた人口密集地域です。そんな近代的外見の裏には一口では語れない複雑な歴史があります。

1840年、清とイギリスとの間に起きたアヘン戦争により、香港はイギリス領土に。それから100年後の1941年には太平洋戦争により、今度は日本が占領。それは長く続くことはなく、1945年にイギリスの植民地に復帰。そして、1997年にイギリスから中華人民共和国への返還がなされました。

これでめでたしめでたし…とはならないのが香港の複雑さ。イギリス領時代に築き上げたのは民主主義でしたが、当の中国は社会主義。当然相容れず、結果として「一国ニ制度」により特別な自治権が認められます。

ところが、その自治によって守られている民主主義が脅かされる事態が起こり…というのが劇中でも説明されていたデモの始まりでした。

つまり「民主主義vs社会主義」という非常にわかりやすく歴史的にも根深い対立構造がある。日本の学生デモだと現政権への反対という即席的な目的がメインですが、それとは大きく異なります。そして、先導者も年齢の若さにばかり着眼点がいきがちですが、香港で生まれ育った香港人という新世代性がデモの原動力になっているというのも歴史を感じさせます。若者だからこそのムーブメントなんだ…いや、そんな単純な話ではないんですね。

本作を観ると、表面から読み取れない、歴史の流れとして起こるべくして起こった香港のデモの必然性が浮き上がります。

ジョシュア 大国に抗った少年

青春を棒に振った、でも後悔はしていない

本作は、デモを描くドキュメンタリーといっても、デモを全肯定するような安直なデモ推進映画にはなっていないのは、バランスがとれている点でしょう。

「大革命を信じて疑いませんでした。歴史を作るのだと」そんな希望に満ちた言葉で始まるデモも、結末は目的を果たせず。市民には失望と落胆が、政府長官には勝利とキャリアが…という苦い終わり方です。

また、デモというものの具体的なリスクも示されていて興味深いところ。警察との衝突によって催涙弾などでデモ参加者に危機が迫る事態になったときにデモ主催者が追う責任、デモの長期化による地域経済への影響、デモ参加者の健康問題、逮捕への不安…。中国の場合、天安門事件という凄惨な悲劇の歴史があるので、重みが余計に違うのですね。「デモ=カッコいい」と安易に考えている人がもしいたら、ぜひ知ってほしい負の側面です。

それでも“ジョシュア・ウォン”が素晴らしいのは、ちゃんと反省していることだと思います。「“雨傘革命”からデモだけでは変えられないことを学んだ」という彼は、デモ団体「学民思潮」を解散し、新党「デモシスト」を結成。選挙で勝ってみせると意気込む香港の若者たちの活動はまだまだ続きます。きっとこれからも数多のドラマが待ち受けているのは間違いないでしょう。

ちなみに、“ジョシュア・ウォン”の近況としては、2016年5月にはマレーシアで、10月にはタイで拘束されています。現地当局は理由を明らかにしていませんが、自国での民主化運動への刺激を警戒していることや、そもそもマレーシアもタイも中国と親密であることが裏にあると指摘されています。

いつの時代も民主化は簡単ではないです…。