皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Lo chiamavano Jeeg Robot 
製作国:イタリア 
製作年:2015年 
日本公開日:2017年5月20日 
監督:ガブリエーレ・マイネッティ 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★
 

あらすじ

ある日、突然にして超人的なパワーを身につけてしまったチンピラのエンツォは、世話になっていたオヤジが殺され、アニメ「鋼鉄ジーグ」の熱狂的なファンである娘のアレッシアの面倒を見る羽目になる。そんな2人の前に、極悪人のジンガロが立ちはだかる。

イタリアが愛した、鋼鉄ジーグ

去年に日本で公開されたスペイン映画『マジカル・ガール』は、日本の魔法少女アニメの影響を多分に受けたフィルム・ノワールという異色作でした。

今年は日本のロボットアニメにド直球に影響されて生まれたイタリア製ヒーロー映画が公開です。その名も『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』

何の作品が元かは一目瞭然、タイトルにもあるとおり「鋼鉄ジーグ」というアニメです。1975年~1976年にテレビ放送されたアニメ…とのことですが、私は世代じゃないし、アニメにもあまり興味ないので実際のところ全然知りません。

Wikipediaから雑に引用すると、こんな世界観のストーリーらしいです。
考古学者の司馬遷次郎は古代日本を支配した邪悪な国家「邪魔大王国」と「女王ヒミカ」の復活を察知したが、王国の放った「ハニワ幻人」の襲撃を受ける。優秀な科学者でもある彼は、死の間際、コンピュータに自身の意識と記憶を移し替える。一方、カーレースで大事故を起こしながら無傷であった息子の宙は、既にサイボーグへと改造されていたことを父に告げられる。宙が頭部に変身する巨大ロボット「鋼鉄ジーグ」は、日本の支配をもくろむ邪魔大王国に立ち向かう。
うーん、出てくる用語だけ聞くと、なかなかエキセントリックな内容にみえる…。まあ、観てないことには何も言えないけれど。

この「鋼鉄ジーグ」、なぜかイタリアで大人気。英語版Wikipediaよりイタリア語版Wikipediaのほうが「鋼鉄ジーグ」のページがはるかに充実していることからも熱量が伝わってきます。

そのイタリアの熱き「鋼鉄ジーグ」愛が結晶化したのが本作ですが、勘違いしてはいけないように、あくまでインスパイアされた作品です。アニメの実写化ではないです。だからロボットは出てきません。

じゃあ、何があるのかと聞かれるとそれは溢れんばかりの「鋼鉄ジーグ」愛ですよ。私のような「鋼鉄ジーグ」を見たことがない人間ですら、その愛を感じるくらいです。ストーリーも、ボンクラなおっさんにヒーローとしての自覚が芽生えていき守るべきものを守るため奮闘していくという、まるでアイアムアヒーローのような展開であり、万人に受けやすいのではと思います。「マントやマスクをかぶってコスプレっぽい恰好をするアメコミヒーローはちょっと苦手…」そういう人にこそ見てほしい一作です。

ヒーローには欠かせない悪役も本作はなかなか強烈な濃いキャラ。『スターウォーズ フォースの覚醒』のカイロ・レンを思い出す…現代的な"こじらせた”若者像をもとにした魅力的なヴィランを見せてくれます。

こんなに日本の作品を海外の人が愛した結果、生まれた作品なのですから、私たち日本人が観ないでどうするのか。ぜひ観賞してみてください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ヒーローの原点

まず、タイトルがカッコいい。「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」とバンと表示される渋さといったらもう…日本人の私が言うと自画自賛になるけれど、日本語、カッコいいなぁと再確認。日本語に憧れる外国人の気持ちがわかる。しかも、これは日本版の翻訳演出ではなくてオリジナルからある演出なんですね。そう考えると、この邦題(この言い方が正しいのか?)は素晴らしいセンスです。今年公開された洋画の中で今のところ最もカッコいい邦題だと思います。

で、本編はというと、ヒーローになっていく過程が実に丁寧に描かれている素晴らしいヒーロー映画でした。先にも書いたとおり『アイアムアヒーロー』を連想させます。こちらの映画は“日本”という環境下であることを土台に、何でもない男がヒーローになっていくプロセスを、俳優の熱演とリアルな舞台と物語上のカタルシスでもって熱狂させてくれた傑作として今なお強く印象に残っています。本作『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』も全く同じ魅力があります。

序盤でいきなり川に沈んでいた放射性物質の影響で超人的な力を手に入れる主人公のエンツォ。これだけの力があればもうさっそく大バトルするのかと思いきや、そうはなりません。それどころか超人的パワーを使ってATMを壊して強盗に勤しむほどのダメ人間。そこから「鋼鉄ジーグ」のアニメを見たりしながら、じっくり時間をかけてエンツォが正しきヒーローに目覚めていきます。

つまり、本作が提示するヒーロー像は、力を悪しきことではなく正しきことに使う人なわけです。この一見すれば当たり前なことは意外に昨今のアメコミでは軽視されがちな気がします。アメコミのヒーローたちは作品を重ねすぎて、自己批判に悩んだり、仲間揉めしたりと、良くも悪くも先のステージに進み過ぎているんですね。対して本作はヒーローの原点に向き合っているので逆に新鮮な気がしてくる。そこが良いのです。

Youtuberになりたい悪役

本作はドラマだけでなく、キャラクターも魅力です。とくに主人公のエンツォと悪役のジンガロ。この二人の大局的なダメ人間っぷりが愉快です。エンツォの若干の童貞感が漂う純朴さがまた愛されキャラじゃないですか。そして、怖いのかアホなのかわからないジンガロも個人的には大好きです。登場時の「HDDは黒がいいんだ。白を買ってくるんじゃねぇ」と怒るところからして、なんだコイツですよ。あげくにエンツォの動画の評価が上がるのを見てイライラしているという…単にyoutuberになりたいだけだった悪役も現代的ですね。

不満と言うか、気になった点がひとつ。終盤のスタジアムでのジンガロは結局どうしたかったのか私にはよくわからなかった。オチを見ると無計画にやられた印象が残るだけでした。脚本的にもうひとひねり欲しかったところ。まあ、アイツはその程度の馬鹿さだったのかもしれないですけど。

皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ

イタリアでヒーローが生まれた理由

こういう作品がイタリアで大衆から評価を集めるというのも意味深いものがあります。単純に「イタリアで日本の作品が指示されて嬉しい」とハシャいでいていいのかなとも思うわけです。

当然、その背景には近年のヨーロッパの主要都市で相次ぐテロがあるでしょう。考えてもみてください。もし東京で大阪で名古屋で福岡で札幌でテロが多発したら日本人はどう思うか。しかも、国も警察も事態を食い止めることができない。そして、宗教に祈っても何も変わらない。きっとヒーローを求めるのではないですか。フィクションに救いを見い出そうとするはずです(まあ、日本はすでにアニメや漫画にどっぷり漬かりすぎかもしれないけど)。

このまま世界に不穏な空気が拡大し続ければ、今までヒーロー映画がなかった地域でヒーロー映画が誕生しまくるかもしれません。

映画ファンとしては複雑な気分です…。

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