この世に私の居場所なんてない
映画『この世に私の居場所なんてない』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:I Don’t Feel at Home in This World Anymore 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:メイコン・ブレア 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★
 

あらすじ

気弱で流されがちな看護助手のルースは、世の中にはひどい奴ばかりだと嘆いていた。そんな彼女の心をさらに折るかのように、家に空き巣が入って大切なものを奪われてしまう。しかも、世間は冷たく助けてくれない。犯人を探すには、変わり者の隣人の男と手を組む以外に道はなかった。

オタク、世間にキレる

ザ・ギフト』の“ジョエル・エドガートン”など俳優から監督デビューする人は最近も後を絶ちません。

そして、ジェレミー・ソルニエ監督の『ブルー・リベンジ』で主演し、同監督の次作『グリーンルーム』にも出演していた“メイコン・ブレア”もまた監督デビューを果たした俳優のひとりです。

その監督第一作の名は『この世に私の居場所なんてない』。なんか凄い邦題ですが、原題のほぼ直訳です。

本作は、2017年のサンダンス映画祭で審査員グランプリを受賞しました。サンダンス映画祭のグランプリ受賞作といえば、2014年は『ラ・ラ・ランド』で今や世界を席巻したデミアン・チャゼル監督の有名作『セッション』が、2015年は映画オタク少年が空気も読まずに難病の幼なじみの女の子に不謹慎ジョークをかますぼくとアールと彼女のさよなら、2016年は黒人奴隷の陰惨な歴史を怒りに変えて映画化したら全然別のところで炎上した『バース・オブ・ネイション』…といったラインナップ。要は、オタク気質な映画か、バイオレンスやカウンターカルチャー的な映画を評価してくれる映画祭なわけです。

じゃあ、2017年のグランプリ受賞作である本作『この世に私の居場所なんてない』はどうかというと、オタク気質+バイオレンス+カウンターカルチャーという全部盛りな内容。しかも、ブラック・コメディです。

タイトルのとおり「この世に私の居場所なんてない」と嘆いて、社会からの爪弾きもの人生を絶賛満喫させられている主人公の冴えない女性が、トラブルに巻き込まれたことで自分を爆発させていくストーリー。主人公のイタイタしさもさることながら、その主人公と手を組む男もなかなかイタい奴。ヌンチャクや手裏剣を振り回す奇行も必見です

こういうオタクがバイオレンスに頑張る系が好きな人は大満足の一作になると思います。Netflixで配信中です。






↓ここからネタバレが含まれます↓





警察よりも手裏剣だ

底辺の人間が世間の冷たさのなかで踏んだり蹴ったりな目に遭いながら、社会にキレていく序盤の展開は、最近観たわたしは、ダニエル・ブレイクと重なります。あの映画の主人公はイギリスの階級社会の最下層にいる人間なので構造的にもわかりやすいです。

一方の本作の主人公ルースが暮らすのはアメリカの社会の“下”。立ち位置はちょっと不明瞭です。日本人にもすぐわかりそうな点でいえば、ルースのオタク的な嗜好でしょう。まず、趣味レベルで“下”にいます。そして、職業はケア施設の看護助手…要するに日本でいうところの介護職員です。職業レベルでも“下”にいますね。さらに、家庭環境。一人暮らしで恋人もおらず、友人も多くはなさそうですが、それよりも気になるのは親の存在。祖母の銀食器をあんなに大切そうにしているあたり、両親との関係は良くないのかもしれない…そんなことを窺わせます。

そんなルースが空き巣に入られるも警察はろくに捜査してくれない。「それよりも凶悪な事件があるんだ。そっちが優先だ。それくらい理解しろ」と逆に叱られる始末。いや、正論かもしれないけれど、警察が言っちゃダメなセリフだろうに。

そして、ここからルースをバイオレンスなブラック・コメディに引きずり込むのが、前に庭に犬の糞を放置していた変人男のトニー。こいつもルースと同類の社会の“下”暮らしの人間っぽいですが、それ以上に異次元レベルで変すぎるので測定不可能。でも、ちゃんと犯罪は良くないという常識を持ち合わせていてなんか憎めない。まだもうしばらく見ていたいキャラでした。

本作は終盤に思い切ったバイオレンスを見せてくれて楽しい。“血、ドバーッ”で、“ゲロ、ドバーッ”ですから。やっぱりアメリカ映画ではゲロの勢いは大事ですね。ここを評価せずしてどこを評価するのか。ただ、本作の私の押しポイントは、銃社会アメリカで、銃よりも手裏剣の方が強いというオタク魂を体現してくれたこと。トニー、お前は現代の忍者だ。認める。

この世に私の居場所なんてない

この世に文句を言って死ぬのは嫌だ

結局のところ、空き巣に入った男も、空き巣事件を担当した警察の黒人さえも、「この世に私の居場所なんてない」という不安を抱えて生きているわけで。ちょっとしたきっかけで前を向き直したり、自滅したり、誰かのために体を張ったりするのです。

本作の冒頭はこんなニュースで始まります。…銃撃事件。黒人たちが「Stop Killing Us」のプラカードを抱えて抗議している姿。これは警察による過剰な黒人取り締まりへの反対運動を伝えたもの。それに対して、白人の死にかけのババアが「あのサルどものせいでこの国はメチャクチャだ」と罵詈雑言たれながら息を引き取っていく…。

あんなババアにはなりたくない…ルースもそう思ったはずです。どうせ死ぬなら、この世への文句を言って死ぬよりも、違う方がいいですよね。時間はたっぷりあるのだし。

「この世に私の居場所なんてない」と感じたら、とりあえず手裏剣の練習からやってみようか…。