ハントウォッチ
映画『ハントウォッチ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Huntwatch 
製作国:イギリス・ベルギー・カナダ・アメリカ 
製作年:2015年 
日本では劇場未公開:2016年にネット配信
監督:ブラント・バックランド 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★
 

あらすじ

カナダのニューファンドランド。血に染まる氷上、無残なアザラシの亡骸。今なお続くアザラシ猟では、保護活動家、猟師、政治家たちの対立が激しさを増すばかり。全ては1969年、若き活動家のブライアン・デーヴィスがアザラシを救うため、猟の廃止を掲げて反対運動を展開したところから始まった…。


“アザラシ猟”版の『ザ・コーヴ』を観るべき理由

ザ・コーヴ』(2009年)が公開されたとき、日本人は何とも言えない孤独感を受けました。和歌山県の太地町で行われているイルカ追い込み漁を残酷と手厳しく批判するこの作品は、アカデミー賞で長編ドキュメンタリー映画賞を受賞するほど高い評価を獲得。日本以外の国が絶賛する一方で、当の日本では「なんでこんな批判されなきゃならないんだ!」と怒りの声が吹き荒れました。

この手の“自分が当事者になってしまった”映画というのは、作品自体を冷静に観るのが難しいものです。自分自身が扇動されて感情的になってしまうこともあるし、自分は落ち着いていても過激化した周囲の盛り上がりがノイズになって集中できなかったり…。

そんな時におすすめなのが、似たようなテーマで別の対象に焦点を当てた作品を観ること。ちょっと距離を置くことで、クールダウンしつつ、これまで見えなかった視点が浮き上がってきたりして新鮮な体験ができるかも。

じゃあ、『ザ・コーヴ』を客観視したいとき、適している類似作品は何か。私が推薦するのは本作『ハントウォッチ』です。

この映画の題材は、カナダで行われている「アザラシ猟」。日本では全く知名度がないですが、カナダの一部地域では毛皮目的でのアザラシ猟が昔から実施されており、地方経済にとって重要な商業となってきた歴史があります(ちなみに日本も昔はアザラシ猟をしてましたが、今はしていません)。

本作は、アザラシ猟は残酷だとして批判している自然保護団体「国際動物福祉基金(IFAW)」が制作し、ディスカバリーチャンネルで放映されたドキュメンタリー作品(アメリカでは限定で劇場公開)。

「なんだ、アザラシ猟反対者のプロパガンダ映画か」と思うかもしれませんが、映画自体は双方の当事者を外から見つめ、感情の主張よりも情報の整理が目的になっている感じに私は受けました。アザラシ猟をめぐる歴史ドキュメンタリーとしても面白いです。

なによりも、生の言葉を聞くのは大事。最近はなんでもかんでもネットの議論ばかりが白熱しがちですが、情報源も立場もわからない「透明人間の乱闘」は本当にただただ不毛なだけですから。本作は、アザラシ猟に反対する人も賛成する人も登場して、自分の本音を率直にぶつけています。「へぇ、こんなこと考えてたのか」と新しい一面が見れるはず。もちろん、アザラシ猟をしている人からの「なんでこんな批判されなきゃならないんだ!」という怒りの声も聞けます。題材は違えど、日本のイルカ漁と構図は同じだとわかるでしょう。

予告動画も本編もショッキングな映像が多めなので、動物好きな人は覚悟して観てください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





自然保護団体はドキュメンタリーを作るのが上手

真っ先に思ったのは、やっぱり欧米の自然保護団体はドキュメンタリー作品のようなメディア制作にこなれていますね。日本生まれの自然保護団体は小規模な趣味レベルの組織が多いですが、欧米では規模が比べものにならないほどしっかりしていて、映像クリエーターとしても実績を積み上げていることもあって優秀。

本作のような題材はどうしても安易なプロパガンダになりやすいのですが、製作者がこの問題に長きにわたって関わることで蓄積した映像と実体験が、そのまま歴史ドキュメンタリーとしての一定のクオリティにつながっていました。

歴史ドキュメンタリーとしては、アザラシ猟をめぐる活動というのは現代のあらゆる野生生物の保護活動の源流になるような存在なので、語られる価値ある題材です。劇中で描かれた、様々な保護活動手段(テレビ・新聞などメディアの活用、セレブの招待、関連商品の不買運動、ヨーロッパへのロビー活動)というのは今や他の野生動物保護でもテンプレートとなっているもの。それらが生まれた過程を知るのはなかなか興味深いです。

本作はストーリーテリングの展開も上手いです。まず、最初は国際動物福祉基金(IFAW)の創設者であるブライアン・デーヴィスvsアザラシ猟師というわかりやすい対立構造から始まり、アザラシ猟をめぐる活動の経緯を辿る完全に歴史ドキュメンタリーのつくり。アザラシ猟を全然知らない人でもすんなり入り込める親切な導入です。ところが、中盤過ぎたあたりから、この2極論的な対立構造が崩れ、様々な利害関係者を挿入させていき、論争に深みが加わります。

史実ものドキュメンタリーは、複雑な問題を単純化してわかりやすくアレンジすると同時に、もとの素材の複雑さも伝えなければいけないのですが、本作は綺麗にクリアしてます。ダメなドキュメンタリーは単純化して終わりだったりして、結局偏った価値観を押し付けるだけになったりしますからね。

本作では、アザラシ猟に反対するIFAWの活動家のほかに、アザラシ猟師、毛皮業者、猟を支持するカナダ政治家、反対するカナダ政治家とヨーロッパ政治家と、多様な利害関係者が登場します。その誰もが自分の本音を素直に語っているのは観ていて良いなと思います。「愛護」だとか「文化」みたいなオブラートな言葉にくるんでいないのは評価したいです

アザラシ猟師たちの「俺たちの生活を向こう30年間支えてくれるのか?」という声は切実でした。アザラシ猟縮小にともなう失業率の悪化をみると、確かに辛いなと。さすがナイフを振り回して迫るのはやりすぎですが、そこまで追い込まれる気持ちは伝わってきます。

政治家の考えは人によってかなり違いました。アザラシ猟は畜産業の屠畜と同じと考える人もいれば、雇用のためならやむを得ないと捉える人も。面白いのはIFAWは政治家の介入が事態を悪化させたと考えている点。政治介入の前の初期はデーヴィスとアザラシ猟師は仲良くやっていたというのは意外な姿でした。自然保護が政争のネタになるのは考えものなのかもしれません。

そして、当然ではありますが、アザラシ保護活動家のIFAWの人たちの主張はストレートに整理されていました。保護活動に関わる女性がシカ猟をしていた父との思い出を語る場面からもわかるように、彼ら彼女らは動物を殺す行為全般に片っぱしから反対しているわけではありません。生きたまま皮を剥ぐ、残った亡骸は放置する、死にかけた状態で捨てる…これらの行為を指摘したうえで「アザラシ猟はどう考えても人道的とは言えない」というシンプルな主張。これも気持ちはじゅうぶん伝わってきます。

ハントウォッチ

また、アザラシ猟をめぐる運動に対するシニカルな演出もチラホラ見られました。終盤の利害関係者のセリフ・カットバックとか、失業して衰退した町を見せるとか。このへんはバランスの妙ですかね。

あえて文句を言うなら、過激なアザラシ保護活動家にも取材すべきだろうとは思いました。劇中では描かれていませんが、1960年代にデーヴィスの始めたアザラシ保護活動は、1970年代にはグリーンピースといった新組織に波及し、さらにそこから暴力的反対活動を推進する過激派ポール・ワトソンという人物がシーシェパードを設立するに至ります。

まあ、シーシェパードのポール・ワトソンのような人物は、IFAWのような“真面目な”自然保護団体にとっては「スター・ウォーズでいうところの暗黒面に堕ちたダース・ベイダー」と同様の存在なので、黒歴史なのはわかるけれども…。

ちなみにシーシェパードもドキュメンタリー作品、作ってます。最近だと、ウミガメを題材にしたものだったはず。たぶん、私のブログで感想をあげることは…なさそうかな…。