ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル
映画『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Hunt for the Wilderpeople 
製作国:ニュージーランド 
製作年:2016年 
日本では劇場未公開:2017年にDVDスルー
監督:タイカ・ワイティティ 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★

あらすじ

幾度も里子に出されるも手が付けられない非行のため児童福祉局の頭を悩ましていた不良少年リッキーは、都会から離れたニュージーランドの森で生活するベラとヘクターのもとに預けられることになった。しかし、ある悲劇がきっかけで、リッキーとヘクターは全国指名手配の対象となり追われることに…。

ニュージーランドの期待の監督

ポリネシアを舞台にしたディズニーCGアニメーションモアナと伝説の海は少数派民族をクローズアップした、マイノリティへの尊重が重視されている昨今の社会において、とても意義のある作品でした。その『モアナと伝説の海』、実は脚本家にマオリ族の血をひいているニュージーランド人が関わっています。

その人は“タイカ・ワイティティ”

日本ではあまり名は知れていない人ですが、世界レベルの映画業界では存在感を強める急成長中の映画人です。“タイカ・ワイティティ”自身は俳優としても活動しているのですが、監督として評価の高い作品を次々生み出していることが、その注目の大きな理由。私が“タイカ・ワイティティ”の名を初めて知ったのは監督作『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』ですね。

↑音楽も印象に残る。

この映画は、ニュージーランドの首都ウェリントンの街の片隅で共同生活を送るバンパイアたちの楽しくもオカシイ日常を、モキュメンタリー方式で描いた異色作。俳優の演技が絶妙で、現代社会に馴染めているようでどこがズレている彼らの姿は、爆笑すると同時になんだか見ていて安心します。観てない人はぜひ。

そんな“タイカ・ワイティティ”監督の最新作が本作『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』です。物語としては、頑固じじいと悪ガキの交流によるコンビ成長ロードムービーであり、よくありがちな感じ。ピクサーの『カールじいさんの空飛ぶ家』に似ているという指摘もあります。でも、そこは“タイカ・ワイティティ”監督。シュールなギャグを得意とする作家性が相変わらず輝いていて、オリジナリティ炸裂。しかも、今回はニュージーランドの雄大な自然を舞台に、あれよあれよという間にまさかのスケールに発展していくので、見ごたえありです。

映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」で97%の超高評価を得ている本作。日本ではDVDスルーですが、劇場で観れないのは惜しすぎるほどの快作なので、隠れた名作としてぜひハントしてください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





リッキーを養子にしたい

本作の一番の魅力はなんといっても主人公リッキーです。「リッキー・ベッカーの歌」を何度も歌って祝ってあげたいくらい、リッキーが愛らしくて愛おしい。母性・父性をガンガンくすぐられる存在でした。

数々の非行も子どもなら大なり小なり通過することだし、それらを許容できずに親はできないわけで。さすがにリッキーの誤解を招く説明によって変質者扱いとなるのは勘弁ですが…。それ以上に不遇な人生でも無邪気に生きる言動に癒されますね。初めての誕生日プレゼントだと顔を輝かせる姿とか、最高です(犬にトゥパックと名付けるオチも含めて)。

そりゃあ、リッキーと最初は嫌々付き合うヘクターも、リッキーの無邪気さに心ほぐされるわけですよ。殺人の前科を告白しても、ギャングスターじゃんと褒めてくれる奴はそうそういないですから。転んだヘクターに足を折るという追い打ちをかけ、終盤もやっぱり追い打ちしかない(しかも銃弾だからなお酷い)リッキーでしたが、最後に救ってあげる姿は、ベタですが感動します。

そんなリッキーやヘクターを温かい包容力で迎えてあげるベラも、出番は序盤だけでしたが、印象に刻まれるキャラでした。血まみれの笑顔が素敵です。

ターミネーターのごとく執拗に追いかけてくる児童福祉局のポーラ、マオリ族の親子、サイコ・サムなど脇役に至るまで、“タイカ・ワイティティ”監督作の持ち味はキャラクターの楽しさですね。

ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル

ホオダレムクドリを探して

本作を含めて“タイカ・ワイティティ”監督作を観ていくと、社会の底辺に生きざるを得ない人たちにスポットをあててあげるのが彼の作風なのかもしれません。

『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』もそうでしたし、本作もリッキーやヘクターは親というよりは社会に捨てられた存在です。

それでいて“タイカ・ワイティティ”監督は、シリアスに暗くなることなく、コミカルに扱ってくる鮮やかさが見事で、重いテーマには気づきにくいのですがちゃんと描かれているわけです。終盤に二人がポーラ、ハンター、警察、軍隊を巻き込んだパトカー、ヘリ、装甲車とのめちゃくちゃカーチェイスの末に辿り着いたのが“車がうち捨てられた廃棄場”というのがまさにそれです。二人のような人間は社会にとってゴミかもしれない…でも、リッキーがマオリ族の家庭にひきとられたように、“ワイルダーピープル”を受け止めてくれる人は必ずどこかにいるのです

爆笑すると同時になんだか見ていて安心できるのは、こういう温かい姿勢を感じられるからなんでしょう。

あの二人なら、同じく社会の重圧によって絶滅したとされるホオダレムクドリも見つけて救えそうです。

“タイカ・ワイティティ”監督の次回作はなんとマーベル映画の『マイティ・ソー 』シリーズ最新作『マイティ・ソー バトルロイヤル』。この人がアメコミ映画を作るとどうなるのか全く予想がつかないですが、シュールなギャグと温かさは健在なのではないかな?