ハンター・アシュリー
映画『ハンター・アシュリー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Hunter Gatherer 
製作国:アメリカ 
製作年:2016年 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:ジョシュ・ロシー 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★

あらすじ

刑期を終えて出所し、久しぶりに地元に戻ってきた中年男のアシュリー。仲間や知り合いと再会を果たし、また昔のような日々を過ごそうと意気込むが、周りは自分の知らないところで変わっていた。かつての恋人に新しい彼氏がいることに失望していると、道端でひとりの若者と出会う。

ブラック・変なおじさん

米アカデミー賞作品賞を受賞したムーンライトを始め、黒人を題材にしたブラック映画は、昨今のアメリカ映画界ではますます存在感を強めています(まあ、日本は違うけれども)。

こういった黒人を扱った作品では、たいていギャング的な暴力やドラッグの要素が物語上重要になっています。シリアスな社会派ドラマであろうともコメディであろうとも、外せない定番です。

しかし、なかには暴力もなければドラッグもない変わった作品も探せばあります。そんな珍妙なブラック映画で、最近の作品が見たいのなら本作『ハンター・アシュリー』がオススメです。

本作、どう珍妙なのかと問われると全くもって説明に困る、なんとも紹介するのに向いていない映画なのですが、一応ジャンルとしてはコメディと言っていいでしょう。でも、ゲラゲラ笑えるユーモアではなく、独特のシュールさを持った作品です。まず、主人公がどうしようもないダメさを抱えた中年男ですからね。しかも、このダメさが普通の共感範囲の枠を超えている「えっ、大丈夫…」とマジなトーンで心配したくなるレベル。変なおじさんです。

観終わった後は「変な映画だったな…」というのが最初の感想になるのはほぼ確実…なはず。大作系の映画には絶対できない、まさにインディーズ映画ならではの作風です。

本作を手がけた“ジョシュ・ロシー”監督はこれがデビュー作っぽいですね。この強烈な作家性は今後どう進化するのか予想できません。

黒人映画でありながら暴力やドラッグの要素が全くない奇妙なインディーズ・コメディ。こういう映画もあるんだなと思って、自分の知らない世界を覗きに行きましょう。






↓ここからネタバレが含まれます↓





二人の奇行

冴えない風貌の中年男のアシュリーは、久しぶりの帰郷に嬉しさを隠しきれていない様子。意気揚々と会いに行ったのは、「目を瞑るとお前の顔が浮かぶ」とクサいセリフを軽々言えるくらいメロメロになっている恋人のリンダ。ところが彼女は不機嫌で、「もう終わったの」と別れを告げられます。しかもこともあろうにゴミ処理場で働くドウェインと付き合っていると言い放たれてしまい…。そんなこんなあって、金稼ぎにと“はしご”の歩き売りみたいなことをしていると、“謎の機械”を運ぶ若者ジェレミーと出会います。ジェレミーのトラックに半ば無理やり同乗して、処分しろと母がうるさかった冷蔵庫をゴミ処理場まで運ぶアシュリー。すると、冷蔵庫の処分には100ドルかかることが発覚。これをきっかけに、ジェレミーと一緒に冷蔵庫回収ビジネスを始める…というのが本作のだいたいの始まりです。

まず、本作の主人公アシュリーのキャラが強烈。「変なおじさん」の一言では形容しがたい存在です。まあ、ダメな奴ですよ。あんなにリンダに夢中みたいなことを言っておきながら、ジェレミーの叔母と平然と付き合い始めるし、じゃあジェレミーの叔母が好きなのかと思えば、ジェレミーの叔母のために買ったプレゼントをリンダにあげてしまうし。双方の女性が怒るのも無理はないです。

本作をレビューした海外の批評家のなかには、アシュリーは「ドン・キホーテ」だと表現する人もいましたが、まさに滑稽。

そして、アシュリーと出会うジェレミーという若者もなかなかの滑稽なキャラです。祖父が発明家らしく、やたらと変な機械を持っている水泳好きな彼。何の仕事をしているのと聞くと「医療科学会社に勤めている」と言います。しかし、どうやら何かの実験開発の被験体にされているらしく、体に怪しげなパッチをペタペタ張った状態で過ごしているのですが、ジェレミーはそれでいいらしい。明らかに変ですけど。

そんな二人は世間からは完全に「変な奴ら」として馬鹿にされています。リンダたちがアシュリーの書いた手紙を大笑いしているように、彼らの見えないところで嘲っているのは確実。

でも、少なくとも私は本作を観て、アシュリーやジェレミーもそれなりに考えて行動している…この普通は見えてこない点が見えるのが本作の面白さだと思いました。冷蔵庫回収ビジネスもちゃんと練られてましたしね。「変な奴ら」だけど真面目な奴らなのです。

本作の原題は「Hunter Gatherer」で「狩猟採集民族」という意味ですが、この世間ずれした二人は、まさしく現代狩猟採集民族と言えるのではないでしょうか。

ハンター・アシュリー

二人の結末

終盤、アシュリーは二人の女性に振られ、ジェレミーは祖父を失います。自分たちが世間から「変な奴ら」だと思われていることを自覚した瞬間です。

ジェレミーは、パッチを全て取り外し、祖父の特製人工呼吸器とともにプールに来て、プールの底に沈みます。一方、アシュリーは庭に穴を掘り 自分の首を突っ込み、ダイナマイトっぽいものに火をつけて自爆しようとします。そのアシュリーを止めたのはジェレミー。アシュリーをプールへ引っ張っていき、見せたのはプールの底に沈んだジェレミー。ん?

ここで本作で唯一の映画的トリッキー演出が入ります。これによって「あれっ、どこまでが本当にあったことなの?」と観客は思うわけですが、真相はもちろん謎。

謎といえば、本作はわからないことだらけ。アシュリーが刑務所に行った理由、アシュリーが掘り出した箱の正体、ジェレミーの医療実験の目的、ジェレミーの祖父の特製人工呼吸器…これらは劇中で何も答えがないです。

最後まで「変な奴ら」のまま。でも、本作はそれを良しとしています

運転するアシュリーとジェレミーが「友達で良かった」と言って終わるラストを観ていると、変な奴らは変な奴らなりに人生を謳歌していることが伝わってくるので、まあ、いいのでしょう。

「変な奴ら」にたまには優しくしてもいい、そんな気分になる映画でした。