ハードコア
映画『ハードコア』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Hardcore Henry 
製作国:ロシア・アメリカ 
製作年:2016年 
日本公開日:2017年4月1日 
監督:イリヤ・ナイシュラー 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★
 

あらすじ

見知らぬ研究施設で目を覚ましたヘンリー。彼の身体は事故で損傷したため、機械の腕と脚を取り付けたと、妻と名乗る女性エステルが説明する。ところが、施設を謎の組織が襲撃。エステルをさらわれてしまったヘンリーは、超人的な身体能力を駆使して救出に向かう。

ハイテンション馬鹿アクション

コアなTVゲームを普段よくしている人にしてみればなじみ深い「FPS」。改めて説明すると「First-Person Shooter」の略で、一人称視点のシューティングゲームのことです。FPSの戦争ゲームなどは世界では非常に高い人気を誇ります。

そんなFPSのゲームは映画の影響を強く受けており、よく映画的な演出が取り入れられます。逆に映画にFPS的な演出が盛り込まれることも最近は珍しくなく、戦争映画で特に目立ちます。

しかし、本作『ハードコア』のように、FPS要素を味付けではなく、メインとして導入し、主人公の一人称視点のみで全編を描いてしまった映画はなかなか異質です。本作の製作は、「Biting Elbows」というロックバンドの曲「Bad Motherfucker」のミュージックビデオがきっかけ…なんていうエピソードからもその特殊性が伝わります。監督もそのロックバンドのメンバーです。


全部FPSの映画…確かに斬新です。まるで自分がそこにいるかのような映像体験ができるのは容易に想像がつきます。でも、ある程度の映画好きな人にしてみれば「それって面白いの?」と疑問に思うのではないでしょうか。かくいう私も本作を観る前は懐疑的でした。『アサシン クリード』の感想でも同じことを書きましたが、映画ではゲームの映像を描けても、楽しさまでは再現するのは難しいです。最悪「ただ観てるだけのFPSゲーム」になりかねません。また、一人称視点でしか描かないということは、映画的な技法が大きく制限される…いわゆる「縛り」にもなります。諸刃の刃です。

実際、本作はかなり賛否両論で、例えば映画批評サイト「RottenTomatoes」では批評家・一般ユーザーともに賛否は半々。その一方で、トロント国際映画祭ではピープルズチョイス・ミッドナイトマッドネス賞を受賞もしてます。カルト的作品といっていいでしょう。

私はというと、『ハードコア』、結構好きです

どこが良いのか? 本作は宣伝でも「映像革命」とか散々言われてますが、私の今までの説明さえも全否定するようであれですが、本作の面白さはそこじゃないと思ってます。ぶっちゃけてしまうと、映像は真新しくもないです。GoProのようなヘッドカメラが普及していることもあり、YouTubeに一人称視点の映像なんて溢れかえってるこのご時勢ですから。ちなみに全編一人称映像作品というのは『ヒットマン:ザ・バトルフィールド』という先例があるみたいです。

↑観たことはない。こっちは残酷描写が強烈らしい。

本作には、革新性という言葉よりも「馬鹿っぽさ」のほうが合っています。SFと呼ぶにはアホな世界観、ドラマなんてどうでもいいと言わんばかりのストーリー、盛り過ぎな濃いキャラクター、どう考えてもやりすぎな暴力、唐突なエロ…この一種のチープさが魅力に感じる人はジャストヒットするはず。

雰囲気としては『キングスマン』での“教会での乱闘シーン(チャーチル・ファイト)”ずっ~と続くと思えば、だいたい合ってます。

↑昔ながらのバカなノリ満載のスパイ映画。
観てるこっちもバカになれる。

約96分のハイテンション馬鹿アクションをお楽しみに。

なお、FPSなので映像が終始グラグラ揺れまくります。苦手な人は要注意です。






↓ここからネタバレが含まれます↓





底抜けな馬鹿は決して止まらない

本作の良いところは、映画化するからといって背伸びしてないことだと思います。先にも書いたとおり、本作はミュージックビデオが発端。普通、こういうのを映画化するとなると、どんどん色々なことを盛り込みたくなるもの。

一方で、そもそも全編FPSだとできることに限界がどうしたってあります。また、物語がレールの上に沿って自動で進んでいく印象が強調されてしまい、話も単調にならざるを得ません。

しかし、それを本作の製作陣はわかっているのか、あくまで映像をそのままパワーアップするという一点のみに振り切ってます。映像革命なんていう崇高な目的は気にしてません。結果、生まれたのが、あのノンストップ・ハイテンション・アクションでした。

私も最初観ていたときは、映像は楽しいけど、もって十数分くらいで飽きるんじゃないかと思ってました。序盤で、本作の悪役であるフォースの使い手のような長髪野郎・エイカンが襲ってきたときは、正直「大丈夫か、この映画…」とすごく心配な気分に。その前の、音声モジュールを導入する際の、しょうもない“ダース・ベイダー”ギャグとかも、おいおいっていう感じ。完全にすべったB級映画な雰囲気がプンプンしてました。この時点では私は内心で「やっぱりFPSを映画に全編取り入れるのは浅はかなんだよ」と偉そうに分析面してたわけです。

でも、2人目(合ってる?)のジミーがバス内にて火炎放射器であっさり燃やされたあたりで、「あれっ…もしかして」とこの映画の底抜けな馬鹿さに気づき始めました。そこからの怒涛の馬鹿映像の連続、そして「ふざんけんなよ」という主人公の気持ちがたっぷり詰まったドアをバン!と降ろしてのラストカットで「うん、この映画はこれで良し!」と納得。

もうFPSうんぬんとかどうでもいいです。

いや、一応FPSに言及しておくと、本作はゲームや他の映画のアクション等シーンを主観視点にしてみた、というだけの動画集です。だから「あれ、これどこかで見たことあるぞ」みたいなデジャヴがいっぱい。完全に自己満足の世界であり、とりあえず主観視点で観てみたい映像を詰め込みましたというノリ。でもそこが楽しい。裸の女に囲まれたりとか、元ネタのミュージックビデオにもありましけど、たぶん監督はおっぱい好きなんですね。また、ミュージカルを主観視点で体験するとウザいことがわかりました(まあ、あれは大半はジミーのキャラのせいですけど)。

ここまでドラマ性がないとは…。他の映画どころか、ゲームよりもドラマの扱いが雑です。というかサイボーグといい、超能力といい、何でもありすぎなんですけどね。ドラマは映像の飾りでした。

ハードコア

そんな映像を盛り上げるため、あるとあらゆる重火器が登場し、やたらと爆発だらけなので、観終わった後、「マイケル・ベイが製作に関わってるのか」と気になって調べてしまったほど(関与してません)。殺し方もイチイチえぐいのも良いです。「また、お前か」と何度も美味しい死に方をしてくれるジミーを演じた『第9地区』でおなじみのシャルト・コプリーは楽しそうでした。白衣美女のエステルを演じたヘイリー・ベネットは相変わらずエロいし、大変よろしいんじゃないでしょうか。

↑なにかと死ぬ役に定評のあるシャルト・コプリー。

それにしても、よくああも次々とアクションの連続にできましたよね。絶対馬鹿な映画になるとわかってて飛び込んでいってます。主人公のヘンリーには10人くらいのスタントが関わって、怪我もしたそうですが、本当にご苦労様です。

音楽も監督所属のBiting Elbowsの曲が使われるのは当然として、終盤のアドレナリン全開バトルにてQueenの「Don't Stop Me Now」が使われたりと、もう止まらないぜ感に拍車をかけてきて良かったです。

あと、道中挟まれるギャグが絶妙につまらないのも個人的に好きな点。

たまには、こういうメッセージ性も微塵もない馬鹿な映画も体験しとかないと。現代社会の癒しです。

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