困った時のロジャー・ストーン
ドキュメンタリー映画『困った時のロジャー・ストーン』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Get Me Roger Stone 
製作国:アメリカ 
製作年:2016年 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:ディラン・バンク、ダニエル・ディマウロ、モーガン・ペーム 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

アメリカ大統領の座にたどり着いたドナルド・トランプ。実はこれはある男が何十年も前に描いた筋書通りだった。その男とは、トランプの政治顧問を務め、以前からアメリカの政治の裏で影響力を行使してきた政界の戦略家「ロジャー・ストーン」。彼の驚愕の思想と軌跡に迫っていく。

ドナルド・トランプを作った男
To all Americans tonight, I make this promise.
We will make America safe again.
We wil make America strong again.
And we will make America great again!
この言葉を演説で高らかに語った男“ドナルド・トランプ”。今や世界中の人がその名を知っているこの男がアメリカ大統領になると予想した人はどれほどいたのでしょうか。おそらく多くの人が「まさか…」と思っていたはず。

なぜドナルド・トランプが大統領になれたのか。この疑問の答えを知りたければ、本作『困った時のロジャー・ストーン』を観るべきです。

本作は“ロジャー・ストーン”という男に迫ったドキュメンタリー。

彼は何者なのか…簡単に言ってしまえば「ドナルド・トランプ大統領を作った男」です。こう言うと「そんなオーバーな…」と思われそうですが、それが大げさでもましてや陰謀論でもないから驚愕。本人がそう言っているし、本作を観て彼の軌跡や言動を辿ると納得させられるしかない。ドナルド・トランプさえ小物に見えてくるほどですよ。

邦題がほんわかしてますが、かなり衝撃的なドキュメンタリーです。とくに“ロジャー・ストーン”の存在を知らなかった人にとってはショックでしょう。こんな奴が存在していいのか…それしか言えなくなる。あとはネタバレになるので、とにかく観てください。

一応注釈しておくと、ドナルド・トランプを批判するような映画でも、肯定するような映画でもないです。政治的にどちらかの主張に偏った作りではなく、傍観した立ち位置のドキュメンタリーになってます。すごくメッセージ性の強かったマイケル・ムーア イン トランプランドとは真逆の映画です。

怒涛の如くドナルド・トランプ関連のドキュメンタリーが作られており、これからも映画界の話題となっていくでしょうが、現時点でドナルド・トランプ関連のドキュメンタリーのなかでは本作がダントツに面白いと思います。これを観ずしてドナルド・トランプは語れないでしょう。






↓ここからネタバレが含まれます↓





アメリカの悪(ヒール)

本作は、“ロジャー・ストーン”を知る様々な人物…親しい者から良く思わない者までの証言、そして本人の語りを基にして、アメリカ政治史の転換点をバックに、ストーンの掟(Stone's Rule)と呼ばれる“ロジャー・ストーン”の信条を解き明かしていきます。

それは以下のようなものでした。
「無名であるより悪名高くあれ」
IT'S BETTER TO BE INFAMOUS THAN NEVER TO BE FAMOUS AT ALL.

「過去は序章にすぎない」
PAST IS FUCKING PROLOGUE.

「徹底攻勢」
ATTACK, ATTACK, ATTACK. NEVER DEFEND.

「ビジネスはビジネス」
BUSINESS IS BUSINESS.

「退屈は失敗より悪い」
THE ONLY THING WORSE IN POLITICS THAN BEING WRONG IS BEING BORING.

「公知の事柄は格好のネタ」
WHAT'S IN THE PUBLIC DOMAIN IS FAIR GAME.

「自己改革せよ」
REINVENT YOURSELF.

「すべてはハッタリ」
NOTHING IS ON THE LEVEL.

「デカく考え デカくなれ」
THINK BIG. BE BIG.

「憎しみは愛以上の原動力」
HATE IS A MORE POWERFUL MOTIVATOR THAN LOVE.

「勝つために手段を選ぶな」
TO WIN YOU MUST DO EVERYTHING.
なんかこういうのを見ると自己啓発のセミナーみたいですけど、“ロジャー・ストーン”のやっていることは“自己啓発”という言葉で表すのは生易しすぎます。

「最悪の策略家」「最低のクズ男」「暗黒のプリンス」「腹黒いフォレスト・ガンプ」とありとあらゆる悪いあだ名をつけられている“ロジャー・ストーン”。あまりにもあくどい一方で、彼自身はあくどさを自覚したうえで利用しています。彼の信条はその全てに絶句するしかないというか…「有権者にエンターテイメントと政治の違いがわかりますか?」とか、汚名を喜んで受け入れるとか、嘘をついて自分をさらに悪くみせようとするとか、コネを使って金を稼いで何が悪いとか、平然とマッチポンプを行うとか、セックス・スキャンダルさえもものともしないとか。

ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズと見比べると、格の違いを見せつけられる…。

困った時のロジャー・ストーン

こんなコテコテのヒールが実在するんですからね…。

しかも、ただの悪事じゃなく、それを芸術的なまでに高めている。だから、悔しいですけど正直、惹きつけられてもしまう。

本作を観て、私は“ロジャー・ストーン”を「バットマン」のジョーカーみたいだと思いました。行動原理が似ているんですね。そして、魅了されてしまう点も同じです。

誤解を恐れずに言いますけど、トランプが勝利したあのアメリカ大統領選、エンターテイメントとしてはメチャクチャ面白いと思うのです。でも、もうそう思った時点で“ロジャー・ストーン”の術中にハマっていたわけで

この作品を観てあなたのことが嫌いになった人に一言と言われ、「嫌ってくれてうれしいよ。そうじゃないと私が能無しになる」と言い放つ“ロジャー・ストーン”は、やっぱり自分には同じ世界の人間とは思えないくらいの存在に見えてしまいました。

自分の信じてきたものが揺らぎますよね。政治って何なんだろう、民主主義って何なんだろう、国って何なんだろう…意味あるのだろうかと絶望したくなる気分。

選挙に行きたくなくなっちゃったよ…どうしてくれるんですか…。