Fuocoammare
ドキュメンタリー映画『海は燃えている イタリア最南端の小さな島』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Fuocoammare(Fire at Sea)
製作国:イタリア・フランス 
製作年:2016年 
日本公開日:2017年2月11日 
監督:ジャンフランコ・ロージ 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★

あらすじ

イタリア最南端にある小さな島、ランペドゥーサ島。友だちと遊びに興じる12歳の少年サムエレをはじめ、島の人々はごく普通の毎日を送っている。そんなこの島には、アフリカや中東から命がけで地中海を渡り、ヨーロッパへ密航する難民や移民たちの玄関口というもうひとつの顔があった。

ネタバレなし感想

移民問題の最前線の島

ナチスによる過去の大きな過ちを抱えるドイツはその反省から難民や移民に対して非常に寛大な政策を長年とっており、それは今も続いています。実際、移民の受け入れ規模はヨーロッパのみならず世界トップクラスです。

しかし、その移民へポジティブな姿勢は、現在、大きく揺らいでいます。国際情勢に関心を持っている人ならご存じのように、今やドイツを含むヨーロッパ諸国は移民を巡って世論が二分されている状態。「移民のせいで俺たち低所得者層が余計に苦しい目に遭っている!」「移民の奴らが原因で治安が悪化した!」と不満爆発しています。「本来の日常である社会」と「移民がやってきて変化している社会」の対立ですね。

そんな情勢の2016年、ドイツの世界的に有名な映画祭「ベルリン国際映画祭」で最高の映画に贈られる金熊賞をこの映画が受賞した意味は大きいでしょう

その作品とは『海は燃えている イタリア最南端の小さな島』です。

審査員長のメリル・ストリープは「現代を生きる私たちに必要な映画。この映画が世界中で公開されるためならどんなことでもする」と激押し。メリル・ストリープらしいですね。

本作は、ランペドゥーサ島という地中海のシチリア島南方にあるイタリア領最南端の島が舞台のドキュメンタリー。この島は、実は難民・移民の人々が海を渡ってやってくる最前線の場所となっています。なにせチュニジアの海岸からはたったの113kmしか離れていないのですから。ここに到着した移民たちがヨーロッパ中に広がっていくわけであり、ヨーロッパの移民問題の始まりの地です。

日本人にはイマイチ“ピン”ときていない移民問題。本作を観れば、その実態が間近に感じると思います。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

日常系ドキュメンタリー

本作、すごく変わったドキュメンタリーです。移民問題が主題でありながら、それを説明的に描くことは一切しません。それどころか、一見すると関係のない島の住人の日常が淡々と映されます。どういうこと?となりますよね。

このスタイルこそ、“ジャンフランコ・ロージ”監督の持ち味。過去にも、イタリアのローマを囲む環状高速道路に沿って建てられたアパートに住む人々をただただ映した『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』というドキュメンタリーを撮っています。

これら「日常系ドキュメンタリー」ともいうべき独特のアプローチは、表面的にはただの日常を描くだけに見えますが、それによって“じんわり”と日常ではない異質なモノを浮かび上がらせる効果があります。この“じんわり”が本作でも効いていました。

少年の日常に潜むメタファー

ランペドゥーサ島の日常の代表として登場するのが、サムエレという名の少年。この少年、スリングショット(パチンコ)を作って悪者に見立てたサボテンに当てたり、爆竹を投げたりと、なかなかの悪ガキっぷり。あと、パスタ食べてる姿がすごく汚く、食事中でも平然と船で吐いた話をするのには笑っちゃいました。無邪気です。

その少年の日常パートに、突如、入り込む移民を描くパート。「何人ですか」「250人」「現在位置は」「助けて」「沈没しそうなんです」…そんな無線。そして、感染症対策なのか、防護服を身に纏ったスタッフが移民を船に乗せていくシーン。なかには脱水症状で人形のように動かない人や、遺体袋を運ぶショッキングな場面も。同じ舞台とは思えない、この対比が強烈です。

しかし、このわかりやすい対比以外にも、一見すると関係のない少年日常パートにさえも、移民問題にさりげなくつながるようなメタファーが組み込まれていました。

例えば、漁船に乗る少年が酔って吐くシーンや、ボートを漕ぐも上手くいかず友人に“救助”してもらうシーンなんて、そのまま移民の姿に重なります。また、後半から少年が付ける弱視治療用の片目メガネは、少年には見えていない世界があることを暗示しているようだし、映画の終り間際、夜に少年が小鳥と会話するように音を出す場面は、異質な存在とのコミュニケーションを見せているようでした。もちろん、私のただのこじつけかもしれませんが、こんな風に観客に想像させる余地を与えるのが上手い作りですね。

海は燃えている

少年と移民が交差する未来

島の日常と移民、これらをつなげる唯一の存在が島の医者です。

医者が移民について語るシーンは、本作では珍しい移民問題への説明的な場面となります。移民たちが船に乗る値段や内部の劣悪さ、燃料による化学的やけどを負っていた多くの子どもなど、生々しい実情を口にする医師。「死体検分の仕事が一番嫌だよ。多すぎるほど見てきた。見慣れることなんて決してない」…この言葉が刺さります。

ヨーロッパ全土では「本来の日常である社会」と「移民がやってきて変化している社会」の対立が起きているのに、移民問題の最前線のこの島では、痛々しい悲劇だけがあるというのは、不思議なものであると同時に、でもそれが本来の事実なんだなと再確認でした。「低所得者層が余計に苦しい目に遭う」とか「治安の悪化」とか難民・移民がいることで辛い声をあげる人もいますが、難民・移民がいることで一番悲劇に苛まれているのは誰よりも難民・移民自身なんですよね。収容所で祈る移民の中に、これまでの旅路を叫ぶ男が映っていましたが、海を渡る前も凄まじく苛烈な人生を送ってきたことを忘れてはいけない…移民問題を表面上で語ってはいけないなと思いを新たにしました。

少年と移民の両者は一切交差することがないですが、少年がボートを漕ぐシーンで背景にチラッと、海軍のものでしょうか、救助船らしき堅牢なつくりの船が映るんですね。普通の港町じゃないことが示される、特徴的な場面です。

そういえばこの少年は銃を撃つマネをしたりしてました。船に乗る練習もしてました。将来、海軍にでも入ったら、移民の対応をするのかもしれません。

少年と移民が交差する未来がより良いものであることを願うばかりです。

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