フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Florida Project 
製作国:アメリカ  
製作年:2017年 
日本公開日:2018年5月12日 
監督:ショーン・ベイカー 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

定住する家を失った6歳の少女ムーニーと母親ヘイリーは、フロリダのディズニーワールドのすぐ側にあるモーテル「マジック・キャッスル」でその日暮らしの生活を送っている。周囲の大人たちは厳しい現実に苦しんでいたが、ムーニーは同じくモーテルで暮らす子どもたちとともに冒険に満ちた日々を過ごし、管理人ボビーはそんな子どもたちを厳しくも温かく見守っていた。

ネタバレなし感想

夢の国の隣の話

東京ディズニーリゾートは行ったことがある人も多いと思いますが、アメリカ合衆国のフロリダ州オーランドにある「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」は訪れたことがあるでしょうか。2016年の来場者数は5372万人以上と記録されている、一大観光地であり、ディズニーファンでなくても関心がある人もいるはず。

そんなウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートは最初は実はテーマパークとして構想されていたわけではありませんでした。ウォルト・ディズニーの思惑では、犯罪のない科学と平和が発達したユートピアのような究極の理想的世界をゼロから作り上げようと考えており、「EPCOT(Experimental Prototype Community of Tomorrow)」という名称がついていました。しかし、計画途中でウォルト・ディズニーが亡くなり、計画自体も縮小・平凡化して今のテーマパークになったのです。そのユートピア構想がもし実現していたら…というifを描いた映画が『トゥモローランド』です。

その今のウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートのすぐ近くで暮らしている貧しい家族に焦点を当てたのが本作『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』。タイトルの「フロリダ・プロジェクト」というのはウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートの当初の計画の名前です。なんでこんな題名にしたのかは観てもらえればわかると思います。

監督は“ショーン・ベイカー”。前作『タンジェリン』で、ロサンゼルスに暮らすトランスジェンダーの娼婦のリアルな生活の様子を、予算がないためiPhoneで撮影し、批評家から大絶賛を受けたインディペンデント系の人です。
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私も大好きな一作でしたが、とにかく生活感の生々しさをそのまま切り取った作風が特徴。アメリカの「貧困層」と呼ばれる人たちは地域や人種によって色々ですが、『タンジェリン』でも『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』でも、貧困と呼ばれる人たちの姿を一切の美化も誇張もなく、ありのままに見せます。本作では実際にこの地域に住んでいる住人や労働者も登場しています。

このスタイルは、ちょっとケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』に似ています。メッセージ性もかなり重なるものがありますし、まさにアメリカ映画界のケン・ローチになりうる人材ですね。
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海外では非常に高い評価を集め、様々な賞を受賞しているのですが、日本ではイマイチ扱いは小さめ(米アカデミー賞で受賞がひとつもなかったのが響いているかな…)。しかし、観ないのはもったいない名作であり、役者陣の名演も含め、印象に強烈に残る作品ですので、ぜひどうぞ。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

結論、ウィレム・デフォーは可愛い

何よりも一番に言及すべきは役者陣。

ムーニーを演じた“ブルックリン・キンバリー・プリンス”のあの無邪気さ。悪事をしている時でも可愛いですが、悪い事をしたときのしらばっくれている感じが個人的には好きです。撮影時はおそらく7歳。“ショーン・ベイカー”監督は一体どうやって撮ったのか。本当に子どもの素を映画に引き出せる監督は凄いです。

ムーニーの母親であるヘイリーを演じた“ブリア・ビネイト”も素晴らしく、本作が映画デビュー作ですよ。“ショーン・ベイカー”監督はInstagramで見つけてきたらしいですけど、なんだこの逸材の発見力。リトアニア出身で、あの数多くの入れ墨ももともと本人がいれているものだそうで、きっと見た目でビビッと来たのだろうな…。

そして、ボビーを演じた“ウィレム・デフォー”ですよ。こんなこと言うのも失礼ですけど、やっぱり上手いなと。顔が怖いことで有名な俳優ですが、本作もぱっと見では怖そう。でも実は優しさがある。その二面性が巧みに表現されていて、なんて味わい深い俳優なんだと思いました。正直、ムーニーより可愛かったですから。あのモーテル前の鳥を追い払っているシーンとか、ムーニーのかくれんぼに付き合ってあげているシーンとか、キュートすぎる。もうムーニーと一緒に“ウィレム・デフォー”をからかって遊びたい…。たぶんソーダを10本くらい自販機で買わされそうだけど…。

『タンジェリン』のときは、題材となった貧困層に近い人を実際に起用してリアリティを出していましたが、今作では近くはない役者をキャスティングしてもしっかり本物感を出せることを証明した“ショーン・ベイカー”監督。これはとんでもない天才じゃないか。

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

貧しいというレッテル

本作は貧困と呼ばれる人たちの姿を描いた作品と説明しました。

この作品の舞台となっているキシミーという地域は、そもそも湿地帯であり、人が暮らすには向いていません。地盤が弱いから建物も立てづらいし、農業にも向かないし、水辺にはワニもいるし…。そんな場所ですから、当然貧しい人たちが住むしかなく、そこに建つやたらと色鮮やかなモーテルは実質貧困層のためのアパートと化しています。

しかし、本作ではムーニーという少女の目を通してこの場所が描かれており、ムーニーは自分を全然貧しいとは思っていません。むしろこの世界を120%楽しんでいます。明らかに危険なボロ家は格好の遊び場ですし、住人たちがたまに起こす警察沙汰の小競り合いはエンターテインメントショーです。一般的常識から見れば間違いなく“危ない場所”扱いされるこんなところでも、ムーニーにとっては魔法の国であり、ディズニー・リゾートよりもワクワクする世界。つまり、ムーニーは自分に全く引け目を感じていないんですね。

ところが、終盤、母親のヘイリーがしてしまったことをきっかけに、ムーニーは児童福祉局に保護されようとします。この時、おそらく初めてムーニーは自分が「普通ではない」ことを自覚させられるわけです。だからこそ彼女はあんなにも狼狽し、涙を見せます。もちろん、母から離れさせられてしまうことが辛いというのが表面的な理由です。でも、「お前は貧乏なんだ」という、言ってしまえば“上から目線な宣告”が天真爛漫な少女の心をえぐったのだとも思います。

善意が相手を傷つける、ポリコレ的な行為が相手を余計に惨めにさせる…これは『わたしは、ダニエル・ブレイク』でも重要なテーマでした。格差社会である以上、貧乏な状態というのは生じます。それでも「貧乏」というレッテルを貼ってしまうのはどうなのか…そんなことを考えさせます。

隠れウォルト・ディズニー批判?

最近、とある有名人がSNSで「子どもは負債になりうる」と発言して炎上したことがありました。確かに子育ては家庭的にも行政的にも莫大なお金がかかり、その子どもがどんな大人に育つかはわかりません。だから、リスクを踏まえての子どもの価値を評しているのでしょうけど…。

もちろん悪い側面があるのは否定しません。本作でも劇中でのムーニーとヘイリーの母娘は決して理想の良い家族ではないかもしれません。口汚いし、詐欺まがいの方法でお金を稼ぐし、暴力だってする。お手本にはならないです。だから、作中でも言われていました。「貧しいのは自業自得だ」と。

でもそうでしょうか。貧しさは全て本人の問題なのか。本質ではムーニーとヘイリーの母娘は悪い事をしようと思っているわけではなく、結果的にそうなってしまって抜け出せずにいます。ヘイリーの最終的にしたことも娘を守るためであり、実は彼女は一貫して子どもの価値観を最優先に大切して尊重し続けているんですね。それだけでなく、あのモーテル全体がひとつの疑似家族のように互いを助け合います。要するに、この相互の支え合いこそが、欠点を補い合うということなんだと。価値はいくらでも変えられると。

表面上の姿だけを見て人間の価値を決めるなんて、その考え方は『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』のサノスよりも最低な“選民思想”に他なりません。そして、実はこれはウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートを建造するためにEPCOTを構想したウォルト・ディズニーにもあった考え方なんですね。ゆえに本作はディズニー批判というよりも、ウォルト・ディズニー批判の側面が隠れているようにも感じました。

だからこそのあのラストです。児童福祉局に追われるムーニーは友達のジャンシーの部屋に駆けこみ、二人はディズニーリゾートへ駆け出す。これはありえないifを描いていることが明白です。しかも、ここはiPhone撮影となり、ディズニーリゾート内の映像は隠し撮り。このアプローチからもちょっとした作り手の棘を感じます。

本作はウォルト・ディズニーの考える“選ばれし人”のための「フロリダ・プロジェクト」ではなく、ムーニーたち“全ての人”のための「フロリダ・プロジェクト」であり、そこには本当のユートピアであるマジック・キャッスルが建っているのです。

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↑ショーン・ベイカー監督の前作『タンジェリン』。こちらも口が汚い、汚い。
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