イーグルハンター鷹匠少女
ドキュメンタリー映画『イーグルハンター 1000年の歴史を変えた「鷹匠」少女』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Eagle Huntress 
製作国:イギリス・モンゴル・アメリカ 
製作年:2016年
日本では劇場未公開:2017年にDVDスルー
監督:オット・ベル 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

モンゴル西部に位置するアルタイ山脈。13歳になる遊牧民の娘アイショルパンは、これまで男性だけの世界であった「鷹匠」になることを夢見ていた。娘の才能に気付いた父親は、周囲の批判を受けながらも、厳しい訓練で娘を鍛え抜き、鷹匠の名手たちがしのぎを削る年に1度の大会に挑戦する。

ネタバレなし感想

本物?のトリガール

今年の9月には鳥人間コンテストに挑む女子大生の姿を描いた『トリガール!』なんていう映画も公開されますが、今回紹介する作品も負けじと「トリガール」っぷりを発揮しています。

それが本作『イーグルハンター 1000年の歴史を変えた「鷹匠」少女』です。

舞台はモンゴル。この広大な土地で暮らす遊牧民は、実に1000年以上もの間、父から息子へと「イヌワシを使った狩り」が継承されてきた伝統がありました。日本にも「鷹匠」がいますし、見たことある人も多いと思います。そんなモンゴルの男性文化の真っ只中に、まだ13歳の少女が「私もお父さんのようなイーグルハンターになりたい!」という純粋な思いを胸に挑んでいく…という姿を追いかけたのが本作ドキュメンタリーです。

日本でも男中心の狩猟の世界で活躍する女性を「狩りガール」と呼んで注目する世の動きがありますが、そういう表面的な話題性だけが売りの作品では本作はありません。少女を取り巻く偏見を描きつつ、主人公となる少女の夢を追いかける素直な情熱は、モンゴルだとか、狩りだとか、そんなの関係なしに幅広い人の心を打つものがあるでしょう。

そんな心を打たれた人のひとりが、あの『スター・ウォーズ フォースの覚醒』で一躍有名となった“デイジー・リドリー”です。このドキュメンタリー作品の初期カットを見て一目ぼれした彼女は、エグゼクティブ・プロデューサーをかってでて、ナレーションも担当しています。

本作は、2016年の英国アカデミー賞でドキュメンタリー賞にノミネートされ、批評家からも高い評価を獲得。クオリティはじゅうぶんです。

ぜひ夢に羽ばたいていく少女の姿をその目で見守ってみませんか。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

誰もが共感できる、その姿

いや、いきなり苦言で申し訳ないですが、本作の邦題「イーグルハンター ~~」。原題が「The Eagle Huntress」なんですから、邦題もちゃんと「イーグルハントレス ~~」にしてくださいよ。なんていったって「Hunter」ではなく「Huntress(女性狩猟家)」であることが、この作品の肝なんですから。

そんな口うるさくなるくらい、私自身も本作の主人公少女・アイショルパンの姿に心を鷲掴みにされました。

父も祖父もイーグルハンターで、大会で優勝経験もある実力者だったという狩猟家系で育ったアイショルパン。「お前には才能がある」と父に認められ、モンゴル初の女ハンターになりたいという夢を持ちます。

ところが、長老たちは「女のやることではない」「女は体力が劣る。山の環境は女にはキツイ」「男が狩りに出かけている間、女は家で茶の支度をするのだ」「牛の乳を搾って料理するのが女の仕事だ」「女は寒いと弱音を吐く」と冷たい反応。こういう意見を見せられると観客であるコチラとしては「なんだこのジジイ!」という怒りと、アイショルパンへの応援心を掻き立てられます。

しかし、その後に映るヒナ捕獲のシーン。自分専用のワシを求めて、親離れ間近だか飛べないヒナを探す父と娘。発見したのは断崖絶壁。アイショルパンはロープで体を縛って険しい崖をひとり降りていきます。もう、これは女がどうこうというか、子どもにさせるのは危険なレベルです。この場面を見て、確かに長老たちが女の子には危険だと言っていた理由もわかる気がするなと。もちろん、平等にチャンスを与えるべきだというのは百も承知ですが。これは大人の私でも身がすくんで無理だ…。

「ハントレス」云々で文句を最初に書きましたが、個人的には、本作を女性差別を描く、いかにもジェンダー的なテーマの作品とは思ってなくて、むしろもっと普遍的な困難に立ち向かう姿を見せてくれるものなんじゃないでしょうか。だからこそ、あの子がやり遂げる姿に、男であろうが女であろうが異国の人間であろうが感動するんですよね。

イーグルハンター鷹匠少女

羽ばたけ、子どもたち

それでもっていよいよイヌワシ祭りへ。各地から70人ほどのハンターが集結し、しかも皆が男ばかりの大人の参加者の中、ひとり異彩を放つアイショルパン。

この大会シーンは結果を知らないので私もドキドキしました。アイショルパンと同じような緊張感に包まれますね。

失敗する参加者も少なくない、厳しそうな大会。まず、服装や馬などの見た目の審査で「10・10・8・8」の高得点をゲット。続く、岩の上からの馬に引きずられた毛皮を狩る審査では、見事成功させ、「10・10・10・10」の満点スコア。最後に、手に持った肉を狩る審査では、5秒という新記録を樹立。なんとアイショルパンは優勝したのでした。

疑って掛かるような見方をするなら、この大会は地方の小さいイベントに過ぎず、そこまで難関じゃないのかもしれません。また、長老が言っていたように「女だから特別視された」可能性も否定はできません。

でも、私がここで感動するのは、優勝の結果よりも、勝負に堂々と挑むアイショルパンの姿です。彼女は男文化に飛び込むわりには、決して男らしくしようとはしない、あくまで女でありながら夢を追いかけてます。女の子たちとのおしゃべりや、オシャレに気をつかっているシーンは、普通の女の子です。つまり、素の自分を隠さない…「これが好き」「これがやりたい」をそのまま体現してみせる彼女と父のパワー。この姿勢に拍手です。指導のお手本ですね。

本作はドキュメンタリーとしては、編集や演出でドラマを盛っているタイプの作品ですが、このアイショルパンの情熱だけは嘘じゃない。それでじゅうぶんでした。

他にも、モンゴル特有の雄大な風景映像がアイショルパンの無限に広がる未来を映しているようで良かったし、オーストラリア人歌手シーアが歌う「Angel By The Wing」もグッと響きました。


マーズ・ジェネレーションといい、子どもが夢に頑張る作品に私は弱いなぁ…。

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