ダンケルク
映画『ダンケルク』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Dunkirk 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本公開日:2017年9月9日 
監督:クリストファー・ノーラン 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

第2次世界大戦。ポーランドを侵攻し、そこから北フランスまで勢力を広げたドイツ軍は、英仏連合軍をフランス北部のダンケルクへと追い詰めていく。この事態に危機感を抱いたイギリス首相のチャーチルは、ダンケルクに取り残された兵士40万人の救出を命じ、1940年5月26日、軍艦はもとより、民間の船舶も総動員したダイナモ作戦が発動。戦局は奇跡的な展開を迎えることとなる。

ネタバレなし感想

ノーラン、戦争映画に参戦

ビジネスの世界では「イグジット戦略」という言葉があります。これは起業した人が自分の創業企業の株式を手放すことで、ビジネスにおけるひとつのゴールと言われています。会社を手放すのが最終目標なんて変な話に思えますが、より大局的な視点に立てば戦略上とても重要な行動になりうるのです。

この「イグジット戦略」という言葉は、もとは戦争で使われていました。戦争における「exit(イグジット=出口)」…それは「撤退」です。戦争において撤退は負けを意味する気もしますが、やはりこれもビジネスと同じで適切なタイミングで撤退することは犠牲を極力減らして“次”につなげるためにも大事なこと。撤退が上手くいかなければ、ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦のような悲劇が待っているだけです。まあ、戦争で撤退に大失敗した国といえば日本なんですが…。

では、戦争で大成功した撤退の事例は何なのか。おそらくその筆頭にあがるのは、第2次世界大戦で起きた史上最大の撤退作戦と言われる「ダンケルクの戦い」でしょう。1939年9月にポーランドへ侵攻したドイツ軍は、オランダ・ベルギー・ルクセンブルクと次々手中におさめたのち、北フランスを攻め入ろうとします。その最前線がダンケルク(ダンケルクという街は、フランス地図を描いたとき、ちょうどてっぺんの位置にあります)。この危機的状況に連合軍は撤退を決定。そして、そこにいたイギリス軍とフランス軍の大量の兵士を逃げさせる作戦が始まるのでした。

この「ダンケルクの戦い」を題材に、全編を通して撤退を描く異色の映画が本作『ダンケルク』です。

本作の監督が“クリストファー・ノーラン”という点も映画ファンにとって見逃せません。『ダークナイト』3部作といったアメコミ映画や『インセプション』や『インターステラー』といったSF映画まで、ブロックバスター大作を手がけてきた彼ですが、一貫して自身の映画的こだわりを捨てないのが映画ファンを惹きつけるのか。私は“クリストファー・ノーラン”監督のクリエイティブに対する保守的と革新的のバランスが良いなと思います。

その“クリストファー・ノーラン”監督、意外というか戦争映画にはまだ手を出しておらず、本作で初めて戦争を映画にする…これで期待するなというほうが無理です。

しかも、事前情報でよく言われていましたが、本作はCGを極力使っていません。現地の砂浜で撮影し、本物の戦闘機「スピットファイア」を飛ばし、当時の駆逐艦までも海上に浮かべるという徹底ぶり。そのうえ、IMAX撮影です。IMAXカメラなんてかなりデカイのに、それを戦闘機に乗っけて飛ばそうという発想がどうかしてます。案の定、高価なIMAXカメラをトラブルで海に沈めちゃったらしいですけど…。「お金はあまりかからないんだよ」なんて監督は言ってましたけど、それでも1億ドルかかってますからね。決してチープではない別次元で贅沢な映画です。

“メル・ギブソン”監督のハクソー・リッジと双璧をなす、今年の戦争映画の必見作。これは劇場で観ないと面白さが半減しますので、絶対に映画館での鑑賞がオススメです。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

CGは嫌だ

本作、あらためて言うのもアホらしいですが、映像が凄い。とにかく凄い。

今のご時世、なんでもかんでもCGの時代ですよ。私たちが何気なく観ているリアル寄りな世界観の映画でも、建物・人物・爆発に至るまでCGで表現されているものが多くて、メイキングを見るとびっくりすることもしばしばです。

ところが本作は前述したとおり、“クリストファー・ノーラン”監督の実物史上主義が炸裂。実物を使っているからこその凄まじい本物の戦争感でした。それに加えて陸戦・空戦・海戦を全部のせみたいな豪華さですから、もう、戦争映画好きは感動で死んでもおかしくない。本物の乗り物を用意する豪華さばかりが目を引きますが、細かい工夫もあって、例えばあの砂浜の大量の群衆は人の姿を模した厚紙っぽいのを広げて表現しているのがメイキング画像を見るとわかります。そこまでしてCGを使いたくないのか、ノーラン…。

ダンケルク

音に殺される

本作でのノーラン監督の映像のこだわりは実物史上主義だけでなく、演出も際立っていました。

本作の特徴は「閉塞感」「音」。まず、閉塞感ですが、本作はとにかく息苦しい。劇中では兵士たちはたいてい狭い場所に追い込まれ続けます。駆逐艦、商船、戦闘機のコクピット…面白いのは、砂浜でも狭さを感じる工夫がされていること。ダンケルクの砂浜はだだっ広いのですが、列を作っていたり、防波堤に並んでいたりと、人は常に特定の場所に密集しているため、砂浜でも窮屈です。もう、人混みが苦手な人には地獄の映画ですね。

そして、閉塞的な環境に押し込まれたところで迫ってくるのは音です。本作は敵の姿が明確には見えず、常に音に襲われます。銃声、爆弾、戦闘機のエンジン音…序盤の砂浜で爆撃が画面こちら側にドンドン迫ってくるシーンなんて本当に怖いです。ノーラン監督が本作に影響を与えた映画の一本として『エイリアン』を挙げていましたが、まさに音だけなため正体不明っぽさが余計に恐怖を煽ります。ダンケルクに向かう商船に助けられたパイロットが音に恐怖する姿が描かれていましたが、まさにシェル・ショックになる理由が身に染みて実感できます。

本作を観て思い出した戦争映画が『U・ボート』(1981年)です。潜水艦で任務にあたる人たちを描くこのドイツの戦争映画は、『ダンケルク』と同じように実物大のセットで徹底的にリアルにこだわっていることも共通していますが、「閉塞感」と「音」の演出がもう凄くて…。「戦争、いや…」ってなること間違いなし。『ダンケルク』でも「U・ボート」の言葉が出てきて、魚雷で攻撃される場面もありましたが、攻撃してる側も地獄を味わっていると思うと絶望感がさらに増します。気になる人は『U・ボート』も観ると本作がさらに楽しめますよ。

↑駆逐艦恐怖症になれます。

技術がどんなに進歩しても、3DとかVRとかの小手先の手段は使わなくても、戦争体験ができる映画は作れるのだということを証明して見せたノーラン監督の功績は絶大でしょう。

ドラマがない理由

本作は戦争映画としては非常にクセが強く、ノーラン監督作品の中でもかなり尖った作品になっています。

その理由は、ドラマが全くないことです。群像劇と呼ぶにはあまりにも登場人物の情報量が薄く、会話もほとんどないので、私も本作のキャラクターの名前が映画を観終わっても覚えていないほど。ギブソンくらいですね、名前が印象に残るのは。これは「映画は感情移入できなければ面白くない」と思っている人には辛いでしょう。

でも、ドラマ不足の理由は容易に推察できて、もちろん、映像にこだわりたいというノーラン監督の狙いもあるでしょうが、ノーラン監督はキャラクターへの共感は興味ないと言ってます。本作は、ドキュメンタリー的な記録映画としての側面が大きく、登場する兵士や民間人は本当にいた人として重ねてほしいのかもしれません。結果、誰が死ぬか生き残るかわからないサスペンスも生まれていましたし、常にハラハラさせられました。

そんな本当にそこにいたと思える登場人物を演じた役者人は誰も素晴らしく。小型商船の船長を演じた“マーク・ライランス”、パイロットを演じた目だけで演技ができる男“トム・ハーディ”…とくにこの二人は良かったです。

また「ダンケルクの戦い」のドラマを描く映画は過去にすでに作られています。1964年にフランス・イタリア共同制作の『ダンケルク(英題:Weekend at Dunkirk)』という映画があったり(こちらはフランス兵が主人公)、2007年にゴールデングローブ賞で作品賞を受賞したイギリス映画『つぐない』の中の一部シーンで描かれたりしてきました。要するに、結構、手垢のついた題材であり、ドラマが見たい人はそっち観ましょう。

引き際が大事

ドラマのない本作でも、唯一ドラマ性が入るところがラストです。

無事、撤退に成功した兵士たちは、逃げ帰ってきたと批判されるのではないかとかなり劣等感を抱えて故郷に帰ります。しかし、反応は大歓迎。その時になって初めて気づいたはずです。“撤退をした”ことが凄いことなんだと。この感想でも冒頭に書いたように、戦争において撤退は負けを意味するのではなく、“次”につなげるために大事なこと。引き際を理解している人がリーダーになれば、戦争に限らず、あらゆる業界はもっと犠牲を減らせると思います。

戦争映画が語るのは戦争だけじゃないのです。

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