DOPE ドープ
映画『DOPE ドープ!!』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Dope 
製作国:アメリカ 
製作年:2015年 
日本公開日:2016年7月30日
監督:リック・ファムイーワ 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★
 

あらすじ

自身のバンドと90年代ヒップホップをこよなく愛し、それでいてITに詳しいオタクで、ハーバード大を目指している高校生のマルコム。彼はひょんなことから、友人のディギーやジブとともにドラッグディーラーの誕生日パーティに参加したことで、大騒動に巻き込まれる。


映画で観せる自己PR

大学進学や就職を目指す多くの若者たちに立ち塞がる壁…それは「自己PR」。
あなたの将来の夢や目標は何ですか?
あなたの長所と短所は何ですか?
あなたはこれまで努力してきたことは何ですか?
こんなプライベートなことを急に根掘り葉掘り、しかも全くの赤の他人に聞かれるわけです。そして、気に入られるような解答を必死で考え抜かなければならない。辛い…。

そんな自己PRにまさに悩んでいる人に観てほしい映画が本作『DOPE ドープ!!』です。

本作の舞台はカリフォルニア州のロサンゼルス市中心街の南西にあるイングルウッドという町。住民の40%以上は黒人が占めるこの町は、ご多分に漏れず治安は良くなく、不良と暴力とドラッグが闊歩しています。この町で暮らす高校生のマルコムは、一目で覚えられそうな髪型をしている黒人少年。オタク、童貞、変わり者な彼は、当然のように学校ではイジメられ、大好きな90年代ヒップホップと友人とのバンドで不満を発散しつつ、夜は独りで自慰に励む自堕落な毎日を送るしかありません。そんな彼は「こんな町を出てやる! そう、俺はハーバード大に行く!」という進路を目指すも、教師からは「は? 何言ってるの?」と冷たい反応。

本作はそんなマルコムと友人たちが繰り広げるドタバタコメディとなっています。

これだけ聞くと、ブラックスプロイテーション的な黒人を主人公にしたよくある映画か…と思うでしょうが、そうじゃないのが本作の特徴。ただのドタバタコメディかと思いきや、意外なほどストレートな深みを見せる…ふざけているけど、ふざけてない映画なんです。

もっというと映画自体が「自己PR」のようなつくりになっています。黒人、ドラッグ、音楽、IT、コメディ、クライムサスペンス…本作がさまざまな要素が巧みにリミックスされた異色の映画である理由は、まさに本作がマルコムという少年の「自己PR」だからです

自己PRにまさに悩んでいる人にももちろん観てほしい作品ではありますが、私はぜひ人を評価する側の立場の人間に観てほしいなと思います。





↓ここからネタバレが含まれます↓




あなたならどう評価する?

マルコムの自己PRとなっている本作を観ていくと、マルコムはどのカテゴリにも属さないような、かなりの変わり者であることがよくわかります。

なにより中途半端です。

90年代ヒップホップ好きだからといってミュージシャンになりたいかというと…さすがにそこまででもない。ギーク(ITオタク)ではあるけれど、ITの知識を人より知っている程度で、別に卓越したプログラミングなどの技術はない。

ただ、でもこれはマルコムはまだ高校生なんだから普通だと思います。

重要なのは、本作の舞台がアメリカであるということ。これが彼を複雑にさせています。

よく日本の学歴社会を批判して、アメリカは進んでいると評価する声がありますが、本作を観ると諸手を挙げて称賛できるものじゃないなと改めて思います。日本だったら成績だけでどの大学に行けるか決まるのに、アメリカは人種や出身地が否応にも影響してくるんですね。

マルコムは、イングルウッドという黒人の町で育った黒人だけど、黒人らしくない“趣味”と“がり勉”。ゆえに黒人からも白人からも理解されません。

そんな彼を語る言葉にぴったりなのが、タイトルの「dope」。「違法な薬物、まぬけ、すばらしい」…全く異なる意味に変貌するこの単語のような人間、それが「ただのマルコム」です。

DOPE ドープ

劇中でマルコムが自己PRするように観客に語りかける演出は、青臭いものですが、そこが私は響きました。『何者』といい、私はこういう演出好きなんでしょうね。

映画のラスト、合否通知の結果が劇中で映ることはありません。その代わり、マルコムが画面のこちら(観客)をじっと直視して終わります。これは、合否を観客に委ねており、まさに「あなたは私(マルコム)をどう評価する?」という問いかけです。

私は「dope!(素晴らしい!)」と思いますが、世間はどうでしょうか。

まあ、そんな小難しいことは考えなくても、序盤から中盤のスラップスティックな逃走劇と、終盤までの『ブレイキング・バッド』的なドラッグ製造販売のカタルシスは笑いながらハラハラできるし、マルコムたちのバンド「オリオ(Awreeoh)」が繰り出すフレッシュな音楽はテンション上がります。愉快さも保証しつつ、ちゃんと伝えたいものは伝える…「dope!(素晴らしい!)」な映画でした。

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