デトロイト
映画『デトロイト』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Detroit  
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本公開日:2018年1月26日 
監督:キャスリン・ビグロー 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★

あらすじ

1967年、ミシガン州のデトロイト。権力や社会に対する黒人たちの不満が噴出し、暴動が発生。3日目の夜、若い黒人客たちでにぎわうアルジェ・モーテルの一室から銃声が響く。デトロイト市警やミシガン州警察、ミシガン陸軍州兵、地元の警備隊たちが、モーテルに押しかけ、数人の白人警官が捜査手順を無視し、宿泊客たちを脅迫。誰彼構わずに自白を強要する不当な強制尋問を展開していく。

ネタバレなし感想

ホラー映画よりも怖い

アメリカを代表する都市として有名なミシガン州のデトロイト。フォード、ゼネラルモーターズ、クライスラーのビック3による自動車産業で一大発展を遂げたこの都市は、1970年代の日本自動車メーカーの台頭で経済的に大打撃を受け、荒廃しました。

しかし、デトロイト荒廃の最初の口火は日本車ではありませんでした。その数年前に起きた出来事、それは「デトロイト暴動」と呼ばれています。これは1967年7月23日から27日にかけて黒人が起こした大規模な騒動です。“騒動”と表現するとデモっぽい印象を与えるかもしれませんが、実際は建物は破壊され、金品は略奪され、死傷者を大量に出した、“内戦”と表現してもいいくらいの悲惨な事態でした。

このデトロイト暴動を描いた映画が本作『デトロイト』です。

昨今は黒人への差別を描いた映画が注目される傾向が強いなか、本作も非常に熱い視線を集めていました。何よりも監督は史上初の女性によるアカデミー監督賞受賞者として有名で、『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』などでアメリカの闇を描いてきた“キャスリン・ビグロー”です。

しかし、賞レース確実とされ、日本のポスターでも「本年度アカデミー賞最有力!」と堂々と銘打ったにも関わらず、実際のアカデミー賞ではひとつもノミネートされずに終わってしまいました。しかも、本国では興行的には失敗していて、興収は製作費すら下回る状況のようです。

なぜこんなことになってしまったのか。

ハッキリ言っておきたいのは、決して悪い映画ではないということです。本作は批評的にはちゃんと高く評価されていますし、クオリティもトップクラスです。

ひとつ言える理由は、そもそもライバルが強すぎましたよね。黒人問題を主題にした映画では、2017年は『ゲット・アウト』という頭ひとつどころか、二つ三つ飛び抜けた傑作がありました。
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加えてこの年はNetflixからの刺客『マッドバウンド 哀しき友情』という映画がまさかの大健闘を見せました。
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しかも、この2作は監督が黒人なんですよ。『マッドバウンド 哀しき友情』にいたっては黒人の女性監督ですから。もちろん、大事なのは作品の中身ですが、このラインナップだと“キャスリン・ビグロー”といえども不利だったでしょう。“餅は餅屋”じゃないですけど、黒人テーマはやはり同じ人種の人が手がける方が人気もありますしね。

とまあ、そんな賞レースでは運のない作品でしたが、良作であることには変わりありません。見て損はないです。下手をしたらホラー映画よりも怖いですが。

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ネタバレあり感想

アルジェ・モーテル事件の再現

本作、まず驚いたのがドキュメンタリー傾向が非常に強いこと。前々作『ハート・ロッカー』や前作『ゼロ・ダーク・サーティ』でも確かにリアリティに対するこだわりはひしひしと感じましたが、今作は比べ物にもならないほど生々しいです。一応、“キャスリン・ビグロー”監督は今作の前に、あのメキシコ麻薬戦争の最悪の現実を嫌というほど見せつけてくれたドキュメンタリー『カルテル・ランド』の製作総指揮を手がけているのですよね。
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“キャスリン・ビグロー”監督は見た目がとても若々しいのですが、実は年齢は60代後半で結構キャリアを積んでいる人です。ここにきて“実録アメリカ歴史もの”という作家性を確立しようとしているのでしょうか。

本作はデトロイト暴動を描くと説明しましたが、実際はこの出来事の全容を描いてはいません。なのでこの歴史を隅々まで知りたいと思った人はちょっとモヤッとするかもしれません。

簡単にあらためて解説すると、この暴動は、劇中でも冒頭で描かれていた違法酒場の摘発を火種に起こったもので、結果、43人が死亡、1189人が負傷、7200人以上が逮捕、2000を超える建物が破壊されました。43人の死亡者のうち、33人は黒人で10人は白人でした。死亡者を詳しく見ると、年齢も、下は4歳の黒人の子どもから、上は68歳の白人の高齢者まで、さまざまです。黒人だけが犠牲者という単純なものではないのですね。

そんな暴動の中のひとつの出来事である通称「アルジェ・モーテル事件」と呼ばれる悲劇を映画化したのが本作。だから映画のタイトルは「Detroit」よりも「Algiers Motel」の方が本当はふさわしいのです。

では、気になるのは本作はどこまでリアルにアルジェ・モーテル事件を描いているのか。これについてはビジュアルや空気感はかなり史実に近いのは間違いありません。というのも、本作には実際にこの事件に巻き込まれた被害者の何人かが製作に関わっているからです。その生の体験をもとに現場を構築したので再現度は一級品でしょう。

一方で、細かい行動や起こったことの詳細は結構推測になっています。これも理由があって、そもそも劇中でも描かれていたとおり、被害者たちは警官に脅されて壁を向いていたのでよく見ていないんですね。だからあやふやな部分は推察で補うほかありません、

また、劇中で凄惨な悲劇を起こす3人の警官は架空のキャラクターになっています。これは終盤の裁判で描かれるとおり、実際は無罪になっているので、本人名で勝手な推察で暴力行為を描けないためだとか。

こうやって考えるとかなり映画化の難しい題材に挑戦したなと思います。エンタメ的なカタルシスという意味では確かに物足りないです。でも、訴えられるリスクから逃げて映画化されてこなかった題材に向き合った“キャスリン・ビグロー”監督は称賛に値するのではないでしょうか。

デトロイト

役者の皆さん、本当に頑張りました

本作の魅力は何と言っても圧倒的な没入感です。“キャスリン・ビグロー”監督の得意分野ですよね。『ゼロ・ダーク・サーティ』でもCIAによる過剰な拷問シーンや、ビン・ラディンのアジトへ突入するシーンなど、緊迫感が凄まじかったです。本作は観客があのデトロイトの一夜に完全に放り込まれたような錯覚に陥る恐怖を味わえます。

アウシュビッツ強制収容所を体験できる映画『サウルの息子』の感想でも思いましたが、VRが映画に導入されていなくて本当に良かった…。VRで鑑賞したら、私なら絶対に失禁してます…。

本作のメインとなるモーテルでの地獄の一夜。被害者となった若者たちの「どうかこの地獄が早く終わってください…」という神に祈る気持ちがツラいほど伝わってきて…。なんでスターターピストルの話をしないのかと思うかもしれませんが、警察が問い詰めているのは銃のありかであって、それを知っている撃った当人はすぐに射殺されているので、残った人間は誰も答えを知りません。いくら尋問されてもわからないわけです。

このリアルさを再現するのに大きく貢献した役者陣も素晴らしかったです。警備員のディスミュークスを演じた“ジョン・ボイエガ”は、中立的になんとか事態を収めようと奮闘する必死な姿が表情一発で感じられる名演技でした。彼はあれですね、『スター・ウォーズ』でも思ったけれども、焦っている姿が似合いますね。

ただ、個人的にはモーテルでの惨劇を起こす中心にいる警官クラウスを演じた“ウィル・ポールター”に頑張った賞を与えたいです。こんな役、絶対に嫌じゃないですか。それでも真摯に向き合ってよく演技しましたよ。彼の演技が素晴らしいのは、確かに差別主義者的な存在ではあるのですが、いかにも映画的なステレオタイプなヒールにはしていない点です。タランティーノ作品に出てくるようなコテコテの差別野郎ではないのですよね。あくまで本人的には仕事をしているだけ。でも、狂気を隠しきれていない。あの劇中で一瞬見せる「ニコっ」と口元だけで笑う場面とか、ほんと怖い。悪いことはしてないよという精一杯取り繕った善人の皮が見えるのがまた…。

“ウィル・ポールター”は凄く真面目に役作りしている俳優ですから、嫌いにならないでね。彼のインタビュー動画も載せておきます。

リアルなミルグラム実験

本作を観たことで「警察なんてクソだ!」と、アメリカの警察への不信感が強まって嫌な気分になったとか、そういう人も多いと思います。

でも、この映画は決して警察批判のために作られたわけではないでしょう。これは、むしろどんな人間の内にも潜む暴力性を描いている…そんな印象を受けました。

端的に言ってしまえば本作で描かれていることは完全なリアル“ミルグラム実験”ですよね。ミルグラム実験について知らない人はネットでググってほしいのですが、「権威による命令が個人を従属させ、殺人のような重大な結果をもたらす」ということを実証した1961年に行われた実験です。要するに、常軌を逸した殺人や暴力を起こすような奴は、もとから欠陥を抱えたサイコパスだとか言われがちですが、そうではなく、普通の人間でも起こすということです。その動機になるのが「権威」だということで…。まさに劇中の「アルジェ・モーテル事件」と怖いくらい全く同じ。

私たちだってこのデトロイト警察と同じ立場になるうるということを忘れてはいけませんよね。単なる「人種問題」の枠に収まらない映画でした。

ちなみに「この警察の黒人への暴力問題は現在も続いている…」とありきたりな言葉で締めたいところですが、ここでひとつオススメの作品があって…。

それはNetflixで配信されているドキュメンタリーで『警察再生』という作品。時代は現在が舞台で、デトロイトではないのですが、黒人銃殺事件など不祥事が相次ぐオークランド警察が組織改革に取り組んでいく姿と周囲の反応を追いかけた生々しいドキュメンタリーとなっています。これを観ると「今」の警察が抱える問題が、より警察に近いリアルな視点で見えてきますし、『デトロイト』と合わせて観ればまた印象も深みが増すでしょう。

もちろん“キャスリン・ビグロー”監督の過去作もまだ観ていない人にはオススメです。

↑『ハート・ロッカー』は、爆発物処理の緊迫感が見どころ。

↑『ゼロ・ダーク・サーティ』は、拷問シーンの緊迫感が見どころ。

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