ダンガル きっと、つよくなる
映画『ダンガル きっと、つよくなる』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Dangal  
製作国:インド  
製作年:2016年 
日本公開日:2018年4月6日 
監督:ニテーシュ・ティワーリー 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

レスリングを愛する男マハヴィル。生活のため選手の道を諦めた彼は、いつか自分の息子を金メダリストにすることを夢見ながら道場で若手の指導に励む日々を送っていた。しかし、生まれたのは4人連続で女の子。意気消沈した男は道場からも遠ざかってしまうが、ある日ケンカで男の子を打ち負かした長女ギータと次女バビータの格闘センスに希望を見出し、コーチとして2人を鍛えはじめる。

ネタバレなし感想

アーミル・カーン、伝説(更新中)

「インド映画のオススメは?」と聞かれたら、とりあえず“アーミル・カーン”主演作を観ておけばハズレはないと断言できます。それくらいこの“アーミル・カーン”という人間はバケモノ級です。

父も叔父も映画監督という超映画漬けの家系で、“アーミル・カーン”は子役から映画俳優のキャリアを積み重ねていきます。彼の特徴は、製作もやる俳優だということ。ハリウッドでいうところのブラッド・ピットみたいなポジションですね。そして、自分が出演する作品は厳選しており、徹底的にクオリティを突き詰めて世に送り出すので、抜群の完成度となっています。その高品質は世界も認めており、インド国外の批評家も絶賛。2009年の『きっと、うまくいく』は日本でも口コミでヒットしましたし、2014年の『PK』も素晴らしい映画でした。
『pk』感想(ネタバレ)…おかけになった電話はお繋ぎできません
そのインド映画界の偉人が統べるアーミル・カーン・プロダクションがウォルト・ディズニー・ピクチャーズと手を組んで製作した最新作が、本作『ダンガル きっと、つよくなる』。もちろん、主演は“アーミル・カーン”です。

本作はディズニーの配給パワーの力も借りたこともあってか、“アーミル・カーン”史上最大の世界的大ヒットとなり、インド国外でも2億4000万ドル以上の興行収入を記録。とくに中国での高い支持が目立ち、『君の名は。』が中国で大ヒットというニュースは日本でも耳にしたと思いますが、『君の名は。』に沸いた中国の映画館を一瞬で「ダンガル」が塗り替えてしまいました。

インド映画をご存知の方ならわかるように、この国の映画は独特の個性があります。業界も非常にガラパゴス的な進化を遂げています。それでもちゃんと世界に通用する映画を作れているというのは、異常事態ですよね。インドは経済だけでなく映画でも世界を引っ張るのか…。控えめに言っても凄すぎます。でも、これって同じくガラパゴス化している映画界を抱える日本も参考になると思いますけどね。

もうひとつ、本作は日本人にとって微妙に関係性を感じるポイントが…。先日公開された『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』は日本では時事ネタとシンクロするタイムリーな映画ですと紹介しましたが、本作も同じなのです。それは、報道もされている「女子レスリングの選手へのコーチによるパワハラ問題」。本作は女子レスリングを舞台にした映画ですが、実はコーチと対立します。パワハラも描かれます。ほぼ一致してます。あれっ、ギャガとディズニーさん、狙いました? 

そんな感じで、本作ではアツい父娘愛とスポコンを楽しめると同時に、真のスポーツ振興とは何か、真の指導者とはどういう存在かというテーマも見え隠れしています。今、観るべき映画です(毎回、言ってるなぁ…)。

某大学の学長は100回くらい鑑賞したほうがいいです。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

音楽で洗脳される

「♪ダンガル、ダンガル」

本作は音楽の中毒性が異常に高すぎました。インド映画では音楽が定番なのは知る人ぞ知る常識ですが、今作はダンスはあまりないものの、ミュージックセンスは抜群でした。序盤から一気にインド・レスリング・ワールドに観客を引きずり込む「Dangal」という曲。「Dangal」という単語自体は「レスリング競技」を意味するらしいですが、あんなにリピートされるなんて…もう、洗脳だよ…。

ただ一番笑ってしまったのが、子ども時代の娘たちが父親の厳しいトレーニングに文句を言う隙も与えられず身を投じているパートで流れる「Haanikaarak Bapu」という曲。原曲の歌詞を直訳すると「お父さんは私の健康に有害です」みたいな感じになるそうで、まさかの歌詞でグチを言うという高等テクニック。あまりにストレートすぎます。ちなみにこの曲で繰り返される「Bapu」はヒンディー語で「父」という意味。図らずも勉強になっていくなぁ…。

こんな名曲たちをヘビロテしながらこの感想記事を書いているので、今回は若干テンションがおかしいかもしれません。

本気のレスリングを見せる娘たち

本作は観た人なら誰でもわかる超王道スポコンです。日本的には野球漫画「巨人の星」の星一徹スタイルの熱血指導スポーツドラマとして馴染み深いやつですね。

レスリングでメダルをとれなかった後悔を胸に秘める男マハヴィルは、私の息子に願いを託すとやる気満々。しかし、最初に生まれたのは娘。村中の人が男の子を授かる直伝の方法をそれぞれ教えてくれるなか、それでも生まれるのはやっぱり女の子。もう完全に、欲しいと思えば思うほど手に入らないパターンに入ってます。結局“どんまい”的な目で村中から見られ、プライドがズタズタになったマハヴィル。

しかし、それから月日が経って、ある日、長女ギータと次女バビータが男の子と喧嘩。男の子の方がボコボコにされるという顛末を知った時の、あの父マハヴィルの顔。ここからマハヴィルにとっては栄光の階段、娘たちにとっては地獄の坂登りが待っているのでした。

本作は娘の成長を子どもから青年期まで見せてくれるので、観客としての私はほぼ親戚気分で成長を見守っている感覚で鑑賞できるのが嬉しいです。完全に劇中における、叔父のオムカルのポジションですね。

トレーニングを嫌がる娘たちの姿もキュートですし(健気に反抗しているのが可愛い)、彼女たちが認められていくとこっちまで誇らしくなってきます。長女と次女がコーチと父のどちらの指導を支持するか対立し、自分の覚悟を再確認した長女が長く伸ばしていた髪を切るシーンなんて、ベタ中のベタですけど、アツくなりますよ。

この子ども期と青年期の娘を演じた4人の女優は凄いです。レスリングの経験ゼロらしいですが、ちゃんと作中のレスリングシーンは本人がやっていて、それでいて迫力があります。私はレスリング素人ですけど、普通にプロの試合に見えました。

やっぱりここまで極めないと、この王道ストーリーで真の感動は生み出せないんですね。

ダンガル きっと、つよくなる

父はパワハラ野郎?

サクセスストーリーとして娘の成長はわかりやすく、映像的もしくはドラマ的なカタルシスもあるので、誰も疑問は持たないでしょう。

一方で、実は影の主役は父であるマハヴィルともいえます。でも、彼の成長はわかりにくいんですね。なんていったって演じる“アーミル・カーン”、ひたすら不器用にムスッとした顔で睨むように立っているだけですから。しかし、この父の成長に気づけるかどうかこそが本作の大事な部分です

マハヴィルの考え方、そして指導は、現代の感覚ではいろいろアウトです。田舎の保守的な父権主義を振りかざす典型的な人物であり、その指導方法はパワハラというか、児童虐待ととることもじゅうぶん可能です。しかも、金メダルをとるという己のプライドを目的としており、子どもはそのための駒みたいなものでしかありません。普通にサイテーな父親です。

別に金メダルをとるなら他の村の男の子を訓練すればいいじゃないと思うのですが、マハヴィルは血統を重視しているので、眼中にないんですね。

この部分が強烈に印象づけられるため、本作を観た人の中には「これは感動ストーリーにしているけど、パワハラオヤジを甘やかしているだけじゃないか」と不服な思いを持つ人もいるはず。私も鑑賞していて、これはどう落とし前つけるんだと思ってました。

ちなみにもうひとりの指導者である代表コーチ。こいつは擁護の余地がないダメ指導者として描かれています。メダルも色は関係なく取れればいいや程度にしか思っていないのですから、論外も当然です。

真の指導者に父はなれるのか

で、問題のマハヴィルの成長。それがハッキリ示されるのは、ギータが優勝して金メダルをとった大団円のラストです。

ここでギータは金メダルを父に渡すわけですが、念願だったはずの金メダルを娘にかけるんですね。以前の大会では賞金さえも自分のコレクションにしていた父が、この金メダルは娘に渡す。そして、ギータの頭を撫でて「お前が誇らしい」の一言つぶやく。金メダルに執着するのをやめて、純粋に娘の成長を祝う。これだけで「ああ、この父は変わったんだな」と示す非常に巧みな演出です。

このパートで上手いのは、部屋に閉じ込められてしまうという展開。なんでここでこんな嘘っぽいサスペンスを入れてくるのかと思ったのですが、よく考えればこれは指導者を失う…つまり子離れを描いたとも読み取れます。そう考えると、本作で娘の色恋沙汰が描かれないのも納得です。インドのような保守的な家庭観のある国では、娘が結婚してしまうとそれは父から離れることを意味しますから。そうではなく、本作はあくまでスポーツで子離れを描こうとする。そして、それこそが真の自立であり、従来の女性にはなかったものなのですね(子ども時代の友人の女性の結婚式との対比が印象的)。ここで国歌を聞くことで優勝に気づく演出も見事です。

スポーツというものを通して保守的な家庭観からの脱却を実にさりげな~く描いているわけで、たぶん直接的に描くとインド国内で保守層から批判されるのでオブラートにくるんでいるのかもしれません。そうでくなくとも父の成長まで説明セリフ的にわざとらしくするのはクドイですから、これはバランスとして最適。本作はシナリオが巧妙に練られていて、王道の裏で王道じゃないことを同時並行でやっているのに、個人的には痺れました。

選手のために涙を流し、頭を下げ、自身の愚かさを認め、精一杯の感謝をのべる。無論、志もある。これが本作の示した真の指導者でした。それは父親のあるべき姿でもあります。

こんな指導者が増えれば、スポーツも国も良い方向に発展していくでしょうね。

↑アーミル・カーン主演作の『きっと、うまくいく』。こちらは保守的な教育観を吹き飛ばす物語。

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