君の名前で僕を呼んで
映画『君の名前で僕を呼んで』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Call Me by Your Name 
製作国:イタリア・フランス・ブラジル・アメリカ  
製作年:2017年 
日本公開日:2018年4月27日 
監督:ルカ・グァダニーノ 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

1983年、夏。家族とともに北イタリアの避暑地にやって来た17歳のエリオは、大学教授の父が招いた24歳の大学院生オリヴァーと出会う。一緒に泳いだり、自転車で街を散策したり、本を読んだり音楽を聴いたりして過ごすうちに、エリオはオリヴァーに特別な思いを抱くようになっていくが、夏の終わりとともにオリヴァーが去る日が近づいてきて…。

ネタバレなし感想

ゲイ・ロマンスの話ではない

NHKが頑なに「大型連休」と呼ぶゴールデンウィークも終わり(元は映画業界の用語だからというのが理由)、きっと大作映画を鑑賞した人も多いはず。いや、そう信じています。この時期は、映画配給会社もお祭り映画的な大作や人気アニメの劇場版をドシバシ投入していますから、映画館が賑やかでいいですね。

しかし、そんな大作の影に隠れながらも、目立たないけど素晴らしい個性を放って輝く秀作だってあります!ということは声を大にして伝えたい。そんな映画の今年の代表作が間違いなく本作『君の名前で僕を呼んで』でしょう。

米アカデミー賞で4部門にノミネートし、脚色賞を受賞したことでも映画ファンからの事前の注目は高いですし、名だたる映画監督たちが次々と絶賛コメントを贈るのを見て、当然のように必見リストに私も加えました。

でも、大半の映画を頻繁に観ない層は手を伸ばせないタイプの作品です。その理由のひとつは、17歳と24歳の青年同士の恋を描く、いわばLGBTの映画と紹介されているからではないでしょうか。

確かに本作の原作小説は、ラムダ賞(Lambda Literary Award)と呼ばれるLGBTを題材にした文学作品に贈られる賞で、2007年に「Gay Fiction」の賞に輝いています(この賞は1988年から存在し、「Gay Erotica」「Gay Mystery」「Gay Poetry」「Gay Romance」、もちろんレズビアンも、とにかく部門が数多く設定されているのが特徴)。

ただ、これに関してひとつ注釈をいれておくならば、別に本作はゲイやバイセクシャルを描いた作品ではないということ。この点に関しては製作陣も慎重に扱っており、「ゲイ・ロマンスの話ではない」と明言もしています。実際は、溢れんばかりの性的欲求に目覚めていき、そのエネルギーをどこに向けていいかわからずに困惑する少年の話です。セクシュアリティはとくに問題ではありません。つまるところ、誰でも共感できる内容になっているので安心してください。

監督はイタリアのシチリア生まれの“ルカ・グァダニーノ”。私はこの人の作品は『ミラノ、愛に生きる』(2009年)と『胸騒ぎのシチリア』(2015年)の最近の2作しか観たことがなくて、あまり作家性を語れるほど詳しくもないのですが。でも、この2作だけも非常にクセのある映画を撮る人だなということはわかります。『ミラノ、愛に生きる』なんてあのクエンティン・タランティーノが絶賛しているのですからね。それだけでどれほどの個性派なのかは察しがつく人はつくはず。

この『ミラノ、愛に生きる』『胸騒ぎのシチリア』、そして『君の名前で僕を呼んで』を“欲望”の三部作と監督は呼んでいるようです。前2作と比べて本作はかなりわかりやすいタッチになっていると思いますし、見やすいでしょう。逆に本作を気に入って前2作も観てみようと手を出すと「なんだこれ」状態に陥るかもしれません。

大型連休よりは長い“ひと夏”の恋、ぜひ味わってみてください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

受け継がれるヌーヴェルヴァーグ

最初にいきなり関係ない話から始めますが、最近世間を騒がした某アイドルグループ“メンバー”による未成年への強制わいせつ事件。あれのせいで、本作も17歳と24歳だから大丈夫なの?と思ってしまう人もいるかもしれないですが、イタリアの法的には何も問題ないです(そもそも本作は強制わいせつじゃないですけど)。

話を戻して映画ですが、非常に濃厚な130分の中でたくさんの映像が押し込められており、意外に情報量が多い印象でした。

すごく“ルカ・グァダニーノ”監督らしい作品であり、独特のカットの連続やシーンのつなぎ方はお約束ですし、なんといっても音楽。前2作に続き、音楽が効果的に使われており、監督の音楽へのこだわりを感じます。主人公のエリオがトーキング・ヘッズのTシャツを着ていたり、探せばいくらでもでてきそうです。

なんてことはないヨーロッパの一部階級特有のバカンスの光景の中で繰り広げられる情事を、独自の切り口で見せられると、この物語には愛や欲を描く以上の何か意味があるのではと勘繰りたくなりますが、どうやらそんなことはないようで。

監督はインタビューでこんなことを言っていました。
「私はほかの映画監督のように“こういう考えを表現したいからこういう作品を撮る”というふうに表現をパターン化できるような人間ではないのだと思う。私は作品に対してもっと直感的なアプローチを取っています。つまり、自分にとってしっくりくることを映像化しようと努めているのです」
要するにあまりメタファーを映像に込めるようなメッセージ性の強いスタイルではなく、感情直球型の作品づくり。もっといえば、本作はいわゆるヌーヴェルヴァーグに続く監督の映画愛がたっぷり込められた作品になっています。ジャン・ルノワールに始まり、ベルナルド・ベルトルッチ、モーリス・ピアラ、エリック・ロメール、ジャック・リヴェット…こうした歴史に名を残す映画人の創作物のエッセンスが散りばめられているわけです。なので、これら系譜の映画作品を知っていればいるほど深く楽しめるのは間違いないでしょう。

君の名前で僕を呼んで

愛の年代記

本作を生み出したのはもちろん“ルカ・グァダニーノ”監督ですが、その脚本を手がけた“ジェームズ・アイヴォリー”も忘れてはいけません。なんと89歳! 映画監督として多大なキャリアを歩んできた人ですが、ここまで現代の世相にドンピシャな物語を作れるというのは、やはり年齢なんてハンデにならないことを実感しますね。

ちなみに“ジェームズ・アイヴォリー”も“ルカ・グァダニーノ”もゲイだと公表しています。

本作は序盤から中盤にかけては地味で、なんだかイマイチよくわからないエリオとオリヴァーの関係性を見せられるだけ。この時点だとLGBT映画だという前情報がないと、何を見せられているのだろうと思いかねないです。ですが、実はエリオとオリヴァーは冒頭でひとめ会ったときから相思相愛で“好き”の感情があったけど、相手に気をつかって言えずにいただけだったことがわかります。そう言われてみると(そう言われなくても)、“ひゅーひゅー早く付き合っちゃえよ!”と囃し立てたくなるような“すれ違いLOVE”がちゃんと描かれていました。

そして、二人の付き合いはひと夏で終わり、季節の変わりとともに離れてしまうのですが、これでオチにしてもよいところ、本作はもう一段階のネタが用意されています。

それはエリオの父の告白。実は父もまたエリオと同じ側の人間だったということ。つまり、物語上この父は「メンター」の役割を果たしていたんですね。そうやって考えて本作を振り返ってみると、父はエリオとオリヴァーをつなげようと密かに行動をとっていたようにも感じます。

でも、父はその自身の心情と過去を封印し、エリオの母と結婚した。そして、まさにエリオの想い焦がれるオリヴァーもまた女性と結婚すると電話で報告を受ける。この2つの事実は、エリオにどんな感情をもたらすのか。それはラストの表情でじゅうぶん伝わったと思います。

監督は本作を一作で終わらせず、リチャード・リンクレイターの『ビフォア』シリーズのように、でも“続編”ではなく“クロニクル(年代記)”を作りたいと発言しています。本作は、父・オリヴァー・エリオと3世代の物語性を感じるものでしたし、そう思うと大学教授である父の専門が考古学なのも納得ですね。この3人が重なるからこその“君の名前で僕を呼んで”だったのか…。

なんとしてもエリオには新しい世代として、これまでの世代が成し遂げなかった新しい歴史を切り開いてほしいものですけど…。

スタッフが美味しくいただきました

とまあ、そんな小難しい考察話はさておき、“ティモシー・シャラメ”ですよ。エリオを演じたこの22歳の天才俳優。めちゃくちゃ良いじゃないか…。

劇中の一挙手一投足が全てキュート。個人的に2018年最も“萌える”キャラ・ナンバー1です。

エネルギッシュな欲望が火山噴火のように湧き出る中、“どうすればいいんだ俺は”状態に陥った彼の可愛さがたまらない。ベッドでジタバタするのは完全に乙女。パンツをかぶる姿からはちょっと変身しそうな雰囲気を感じ取ってしまったのは“変態”のせいだけど。

本作ではセックスシーンは直接的には描かれていませんが、ハッキリ言って例のアプリコット・シーン(英語では「Peach Scene」と呼ばれていて、それで検索するとでてくる)は、セックス以上にエロかったです。女の子や“アーミー・ハマー”と性的なことをするより、果物でアレするほうがエロいって凄いな…。ちなみに、なんかの海外の監督へのインタビューで、あの行為は監督が実際にやったことがあるみたいなことを言っていた気がするけど、見間違いかな…。当ブログでは、このような行為を推奨するものではなく、安全を保障しません(謎の注意文)。

“ティモシー・シャラメ”、今後もずっと追いかけていきたいですね。

そして、“ルカ・グァダニーノ”監督の気になる次回作。なんとあの「決してひとりでは見ないでください」でおなじみのイタリアのホラー映画『サスペリア』のリメイクだというじゃないですか。全然どうなるか想像できないけど、なんか面白そうなことをやってくれそうな気がする。

おすすめ PiCKUP!
↑ルカ・グァダニーノ監督作の『胸騒ぎのシチリア』。前半からは想像もつかない後半の展開に胸騒ぎどころではない。
(C)Frenesy, La Cinefacture