ボクの妻と結婚してください。
映画『ボクの妻と結婚してください。』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:ボクの妻と結婚してください。 
製作国:日本 
製作年:2016年 
日本公開日:2016年11月5日 
監督:三宅喜重 

【個人的評価】
 星 1/10 ★

あらすじ

忙しい毎日を送るバラエティ番組の放送作家・三村修治は、余命わずか6カ月の末期のすい臓がんという宣告を突然受ける。修治は、自分がいなくなったあとも、妻が前を向いて生きていけるようにと、ある企画を思いつく。それは、自分が死んだ後の妻の新たな結婚相手を探すことだった。


余命宣告ものはなぜ面白いのか

ある日、突然、自分もしくは家族の誰かが余命を告げられたら、あなたはどんな行動をとるでしょうか。個人的なことで申し訳ないですが、私も最近、身内が突然の余命告知を受け、このそうそうない事態に直面しました。経験してみてわかったことは、映画のようにはいかないということ。映画やドラマだとなんだかんだでじっくり向き合っていくさまが描かれるものです。でも、実際は頭が真っ白になり、てんやわんやと動き出していたら、あっという間に“その時”が来ます。まるで映画を10倍速で観ているような気分。

一方で映画では、“難病などで余命を宣告される系”のジャンルというのは常に一定の存在感があり、人気を集めます。不謹慎ですが、その理由はやっぱり面白いからでしょう。余命があるとタイムリミットの要素が生まれるため、自然とサスペンスを演出できますし、起承転結が明確になり、ストーリーの予測がどんな観客にも可能となります。結果、この場合は「死」という決まりきったゴールに誰もが涙できるのです。24時間テレビのマラソンと同じ仕組みですね。

2016年は、余命宣告された主人公が残された時間に家族のために何かするという物語の邦画がいくつか公開されました。ひとつは湯を沸かすほどの熱い愛。こちらは余命わずかな母が娘たちのために行動していくという内容。その行動自体は割と普通でした。

しかし、本作『ボクの妻と結婚してください。』は、タイトルを見ればわかるとおり、変わってます。ステージ4bのすい臓がんで余命半年もって1年の男が、残される妻と息子のために夫(父)を探す…これだけで相当キャッチーな映画です。加えて、“織田裕二”と“吉田羊”という日本のベテラン俳優が主演。

ただ、そこまで話題になりませんでしたね。2014年に舞台化、2015年にドラマ化もされているので飽きられたのか、若い役者が出ていないため受けなかったのか…そんなところでしょうか。

先に言っておきますが、私は本作は全く合いませんでした。本作が好きな人はこの先を読まない方が良いと宣告しておきます。






↓ここからネタバレが含まれます↓





女の幸せは結婚することにある?

本作の主人公・三村修治の行動動機は共感できます。「残していく家族にはできる限り笑っていてほしい」…この気持ちは痛いほどわかるし、私も同じ立場ならそう思ったでしょう。

また、「結婚は良いものです!」と、結婚の良さを真っすぐ伝える映画もなかなかないので、本作もそこは素晴らしいのではと観る前は思ってました。

本作の欠点はたくさんあります。重病なのに元気そうだとか、リアリティはゼロに近いです。ただ、私が根本的に合わなかったのは、主人公の考える「結婚」というものの考え方です

修治は劇中全編をとおして妻・彩子の結婚相手探しに執着し続けます。それこそ、浮気をしているふりをして、別れてくれと離婚届を差し出すほどです。妻に精神的ショックを与えようとも、相続権さえも失わせようとも気にしない…下手をしたら妻は無一文になる可能性もあるのに。しかも、タレントとの不倫偽装が週刊誌にSCOOP!される失敗をしちゃってるわけです。こんなの事務所に無断で勝手にタレントを使ったら損害賠償ものじゃないか! 最悪、妻に借金背負わすことになりかねない…。

一体この男はなにをそこまでして「結婚」にこだわるのか。もはや狂気です。「残していく家族にはできる限り笑っていてほしい」なら他に手段もあるだろうに…。

私が考えるに、修治の結婚へのこだわり理由は「女の幸せは結婚することにある」という思想が根底にこびりついているからなのではないでしょうか。劇中で修治は妻の夫候補・伊東正蔵に結婚を仕事に例えてその価値を説明していました。要約すれば、女に結婚というステータスを与えることが男の仕事だと思っているといえるでしょう。逆に、序盤で余命宣告を受けたばかりの修治は「暗い部屋で毛布にくるまれ凍えるような妻と息子」の描写を想像してます。これは「シングルマザー=不幸」という非常に偏ったイメージです。

この修治の思想。日本に昔からある保守的な家庭観そのものです。

この映画が作られたのは2016年ですよ。世界では女性の生き方の多様性が叫ばれ、日本政府でさえ女性の社会進出を推進しているこのご時勢に、これかと…。世の中には結婚しても人生に苦しさを感じる人もいれば、結婚しなくても人生に幸せを見い出す人もいるのに…。

修治が「結婚だけが全てじゃない」と学んでいくストーリーが待っているのかなと思ったら、最後まで変わらず。ここまで主人公が成長せず、我儘を付き通す映画も珍しいのではないだろうか。そのせいで、余命宣告ものにありがちなサスペンスもなかったのがイタイところでした。

ボクの妻と結婚してください。

自己満足な結婚

いや、本作は結婚を愚直なまでに大事に思っている修治をとおして、徹底的に結婚の良さだけを描いた作品なんだという見方もできるかもしれません。

でも、私はこの視点で見ても本作は欠陥を抱えていると思います。

修治のやっていることは中盤までは完全に「結婚詐欺」に等しいでしょう。というか、あの婚活会社社長も修治の提案を「わかりました」とあっさり受けたりしていいのか…。婚活に参加したことがないから詳しくはわからないのですが、第3者が代理でしかも本人の同意なしに参加できるものなのでしょうか? これは会社のサービスの信用に関わる問題です。最終的に妻が馬鹿だねと笑ってくれればいいと言ってましたが、相手の男性はたまったもんじゃないですよ。婚活に参加する人は結婚することにとにかく必死なのでしょう。そんな人に「バラエティ的なノリでした。結婚できる保証はありません」と最後に告げたら激怒するだろうに。加えて身分詐称して結婚候補男性と接近してますから、詐欺で訴えられたら負けるのは確実。

こういうのを見ると、本作はあまりにも結婚を自己中心的に考えすぎじゃないのかと思うのです。結婚を軽視していると言われても反論できないでしょう。

まあ、最終的には疑似結婚式までして残される家族も結婚相手も修治に付き合ってあげているのをみて、好きにしてくれ…という感情しか私は湧かなかった…。余命アピールすれば何でも許してもらえる優しい世界なんです。

修治は、世の中の出来事を「楽しい」に変換することに夢中でしたが、これは「楽しい」ではない、「自己満足」です。

振り返ってみると葛城事件と対極的な映画でした。家族のために自分が正しいと思ったことを頑なにやり続けようとする父権的男を、本作では徹底的にポジティブに描き、『葛城事件』では徹底的にネガティブに描いています。自己満足か、自己批判か…私は後者の方が大事だと思ってます。

日本の社会に巣くう保守的な家庭観をひしひし感じた本作。“がん”なんかよりもはるかに厄介な病気です。治療できる日は来るのでしょうか。

(C)2016「ボクの妻と結婚してください。」製作委員会